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ジョーダン・ピール~なんか批判しずらい映画監督~

トップ画引用元:U-NEXT
皆さんはジョーダン・ピールの映画を見たことありますか?彼の監督作品で日本で公開されているのは
ゲット・アウト
アス
NOPE/ノープ

の3作品で、一応私は全部見ています。
で、うーん、そんなに面白いかなぁくらいの感じなんですが…あのーこの監督って…何となく批判しにくくないですか??

まず、黒人でコメディアン出身という映画監督としてはあまり見ないバックグラウンドを持ち、なおかつ大友克洋のAKIRAのファンでもあるようだし、本人のインタビュー動画見ても知的かつお茶目ないい人っぽいし、あんまり悪いこと言いたくないなぁって。
でもここでは正直に3作品の感想を書きます。ネタバレです。あと詳しいあらすじも省略。

ゲット・アウト(2017年)

3つの中で一番面白いと思っている作品。
白人の彼女の実家に挨拶に行き、白人だらけの家族やら知り合いの中に放り込まれた黒人青年クリスが、次々に不可思議な現象に遭遇するスリラー。

好きなのは何と言っても、「可哀想な黒人に優しくしてあげる」リベラル気取りの白人達。きっとアメリカの黒人の人達からしたら気まずいあるあるなんだろうけど、アメリカ映画ではあまり見ない描写なので新鮮でした。こういうのは黒人監督しか撮れないだろうなと思う。
笑いながら泣く使用人、催眠術がかかって深海に沈んでいく映像、白人彼女の変なシリアルの食べ方も好き。

結局白人彼女とその家族は共謀して黒人を拉致して白人の脳を移植させ、その結果黒人は「かっこいい黒人」になりたがっている白人に体を奪われているという事実が判明し、クリスも盲目の白人の脳を移植されそうになります。
ここは、今まで黒人が不当な扱いに耐えながら独自の文化を発展させてきたのに、それを表面的にかっさらっていこうとする白人を揶揄したものですよね?

クリスは新進気鋭の写真家なのですが、盲目の白人はクリスの写真を扱っているギャラリーのオーナーでもあります。で、「私はかっこいい黒人になりたいというよりは、君の目が欲しいのだ…」とか何とか言うけど、これって人種関係ないよね?最後の最後でメッセージがぶれているのが気になる…これが最大の引っ掛かりポイント。

あと催眠術を、都合よく人を操る万能パワーみたいに扱う映画個人的に苦手。でもこれはあくまでマイナー苦手ポイント。

でもこの映画では好きなポイントが苦手なポイントを少し上回っているから面白いという評価です。
でも、自分が面白いと思っているかどうかよりも、この企画が通って黒人監督によって映画化され、なおかつアメリカでヒットする、という事実の方が重要なんだと感じるんですよ。だからネガティブなこと言いづらい!!
でも本人のバックグラウンドに配慮して持ち上げたりするのは、劇中のリベラル白人と一緒の態度だと思うから、不満なところをちゃんと言いたいという気持ちもある。

この感覚わかる人いますかね…

アス(2019年)

アデレードとその夫、子供二人の一家四人が、休暇中に自分たちにそっくりな分身たちの訪問を受け、攻撃される。この不気味な現象はアメリカ中で起こっているらしく…?みたいな話。

この作品ははっきり言ってかなり不満。
まず好きなところをあげると、冒頭のミラーハウスの中にアデレードが迷いこむシーン。幻想的で不吉な雰囲気が大好き。

ここ以外は全部不満なんだけど、やっぱり一番よくわからないのは、地上の人間の分身であるクローン人間と、彼らが閉じ込められている地下世界の存在機構。

何で寂れた地下街みたいな深さのところあんなとんでもない世界作っちゃうの?

しかも何でノーガード状態なの?

クローン人間たちはどうやって生命維持してるの?

クローン人間は地上に存在しているもののコピーを持ってたりするけど(服とか)どっから出現するの?

クローン人間たちは地上の人間と強制的に同じ動きをしなきゃいけないらしいけど、いつもいつもコピーしているわけではないのは何で?

動きをコピーするスイッチが入るのはいつ?地上の人間がこいつらコントロールできるぞと気づいた時なの?そうだとしたらその設定は対決シーンでものすごく緊迫感なくすと思うけどOK?

SF映画好きなせいかこういうところが気になって気になってしょうがない。
もちろん、クローン人間は格差社会の中での最底辺の人達のメタファーなのはわかってるけど。その人達の声はヒエラルキー上位の人間には届かないし、日々犠牲となり搾取される存在なんですよね。
そう、この立派な社会的メッセージがあるせいでやっぱり批判がしずらい
大事なのはメッセージなの!設定はあくまでメタファーだから!!と言われたら不服だけど引き下がらざるを得ない。そうじゃないと何か人でなしと思われそう。
日本の映画レビュアーの人達も「前作よりインパクトが弱いのは否めないが…」「好き嫌いがわかれるかもしれないが…」とか、精一杯気を使った言い方をしていた気がする。ちなみに北米のレビュー動画ではそんなに気を使っていなかったと思う。

別にジョーダン・ピールに限らず、社会的メッセージが強い作品は「いやちょっと待って聞いて聞いて?別に社会的メッセージに異論を唱えたいわけじゃないのよ。メッセージには100%同意してんの。ただ、映画のつくりとしてどうなの?ってことをね、言いたいだけなんだよ…」と色んな方面に気を使いながら尻つぼみのテンションで批評しなければいけない。いや別に誰かからそう命じられたわけではないけど、そうしないといけない気がする。

これも誰かわかってくれる人いるかな…

NOPE/ノープ(2022年)

突然予測不可能な死を遂げた父から馬の牧場を受け継いだOJは、ある日馬をさらっていく未確認飛行物体(通称Gジャン)に遭遇。妹のエメラルドや家電屋の店員エンジェルと協力してGジャンを倒そうとする。

この映画は社会的メッセージがそこまでないから感想を言いやすいけど、まじで納得できなかった…(いや、動物からの搾取とか存在が忘れられている黒人スタントマンとか、メッセージを引き出そうとすれば出来るけど)

まず好きなところはオープニングのチンパンジーの惨劇直後シーン。ここは「え??何が起きてる??」とすごく前のめりになりました。ジョーダン・ピールはつかみが上手いですよね。あとお父さんが死んじゃう一連の流れも「何何何??」って引き込まれて良い感じ。ここまではかなり好き。

あと好きなのは、OJの性格(人とのコミュニケーション不得意)、Gジャンを目撃したあとOJとエメラルドがエンジェルの家に逃げて、メタバースで現実逃避しているシーン。
Gジャンが人を飲み込む時、泣き叫ぶ人々が下から上に食道通っていくのも他ではあまり見たことないなと思った。ちなみに、後半で出てくるバイクのAKIRAスライドはそんなに好きではない。

でも好きなシーンはアスより多いんですよ。ただ、この映画で納得できないのは、動物をなめると痛い目に合う、というテーマが中心にあると多分思うんだけど、映画自体が野生動物をなめてるところ。

劇中で、Gジャンはまことに恐ろしい存在ですが、目を合わせなければ(Gジャンの目はただの穴みたいなやつだけど)やり過ごせるんですよ。
いや、私も幼い頃から、山で熊に遭遇したら目を合わせないようにしてゆっくり後ずされ、と教わりましたよ?(北海道出身)
でもそれが有効なのはあくまで熊がお腹を空かせていない時だけ。お腹を空かせた熊が起こした陰惨な事件も北海道ではありました。
で、Gジャンは見るからにお腹ペコペコですよね??あれじゃ目を合わせようが合わせなかろうが絶対襲ってくるんじゃないかな…野生動物ならね。
そこが一番納得できないポイント。

あと最後の、人間型のバルーンでGジャンをおびき寄せて仕留める!のシーン。人間型バルーンは二頭身でペコちゃんみたいな顔したやつなんだけど、一応目がついているからGジャンは「こいつ人間、食べれる!」って寄ってくるけど…動物ってそんなに単純かなー。

例えばカラスって人の顔を覚えられるって言いますよね。(実際、私の父親はカラスに顔を覚えられて一時期外でウォーキングするたびにストーカーされていた)
人の顔が覚えられるってことは、顔のパーツの位置関係とかを区別してるってことですよね。カラスだったら絶対にあのペコちゃんの顔を人間として認識しないよなー。
畑にあるかかしだって、一応人間の等身でつくるけど、バルーンは等身もぜんぜん違うし(そもそも大きさも全然違うけど)。
いや、Gジャンの脳はカラス以下なんだよ、と言われればそれまでだけど…
でもやっぱりそれって何か動物のこと見くびってないか??別に見くびるのは勝手だけどテーマに合ってないじゃん!!と納得がいかない。実際この映画では動物(チンパンジーとGジャン)を見くびった人達はひどい目に遭ったし。あと悪役の頭を悪くするとやっぱり緊迫感がない。

前2作品は主にアメリカにおける人種差別とか格差社会についてだから、あんまり自分には意見する権利ないかも…って遠慮してた部分もあったんですよ(もちろん、他の国や日本にも存在している問題ではあるけど、自分はちゃんとわかっていないんだろうな、と思う問題という意味)。でも、動物の習性に関しては日本人の自分も意見していいはず。特に林道に熊が出没する度に、学校のマラソン大会が中止になるような地域出身の者として。

あ、そういえば、OJ達と協力してGジャンの映像を撮ろうとするドキュメンタリー監督が、最適な光?を求めて暴走してGジャンにやられちゃうシーンがありましたよね。あれ見たときは、はあ???って感じだったけど、たまに聞いていたカナダの映画ポッドキャストの人が「あの''光だ!''の台詞ほんと面白いよね。俺映画館で笑っちゃったもん」と言ってて、こういうスタンスの方が人生楽しめそうだという心境に至り、今ではあまり気にならないです。

感想書きながら思ったけど、やっぱり映像とかキャラクターとか、NOPEは好きなところも多かった。というか段々洗練されているんだと思う。
ジョーダン・ピールはSF的な要素を必ずいれてくるけど、本人はSF的な要素を考えるのが不得意そうなのが問題。だから今後もそういう要素をいれたいんなら、SF得意な脚本家と組むのがいいんじゃないかな。そうしたらかなり良くなりそう。

そんな風に思いました。

それではこの辺で。






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