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「哀れなるものたち」を見たからヨルゴス・ランティモスBEST3

トップ画引用元:映画.com
この前「哀れなるものたち」をDisney+でやっと見ました。
それでヨルゴス・ランティモス監督作品をちょっと振り替えってみるか、でも別にファンじゃないけどな。と思いつつ日本で公開された作品を確認してみると、全部見ていた。意外に好きだったのかしら?

というわけで早速BEST3発表。まあ全部で5つしかないんですけどね。今回は核心とかオチまで書いているわけではないけど、軽くネタバレだと思います。

1位 ロブスター
2位 聖なる鹿殺し
3位 哀れなるものたち

まず言っておきたいのは、この監督の作品のざっくりとしたストーリーは、「周りから頭が良いとチヤホヤされている中学生」が考えたようなものが多い。
これは一般的には寓話と呼ばれるのかもしれないけど、設定に独特の痛々しさを感じるので私は中ニが妄想したおはなし(文字通りお話。章立てされていたり、ナレーションが入ったりすることが多いので)とした方がしっくりくる。

そしてすごいのは、この中ニが考えたあらすじを、大人があれこれディテールや映像的な面白さを加え、一流の俳優を布陣したら一体どこまでいけるのか、という贅沢な実験をやっているところ。ここで「そんな実験に付き合う暇ねーよ」という人は面白くないと思うだろうし、「ほほお、一体どんな化学反応が起きるの?」と思う人は楽しめる。私が上位2位に上げた作品はそういう面が強いと思う。


ロブスター(2015年)

引用元:映画.com

カップルでいることが義務付けられた世界にて。妻に逃げられたデヴィッド(コリン・ファレル)はあるホテルで実施されている、カップルマッチングブートキャンプ的なところに行く。ここでパートナーを見つけられなければ動物に姿を変えられてしまうので皆必死。デヴィッドは事前に、姿を変える動物としてロブスターを希望している。しかしデヴィッドはカップル成立には至らず森に逃げ込み、そこで恋愛禁止を貫くレジスタンス組織に合流する。そこで彼は「近眼の女」(レイチェル・ワイズ)と出逢って禁断の恋に落ちる…

ね?頭の良い中学生が思い付きそうな話でしょ?
この作品は常にカップル単位で見られるプレッシャーや、カップルならではの「お揃い」でいることへの執着心、それらの有害性についてのお話だと思う。
正直テーマとかストーリーは「ふーん」って感じでスルーしていた。ただシュールなショートコントみたいなシーンが散りばめられていて面白い。

好きなシーンはたくさんある。マッチングパーティーみたいな会場で突然始まる、ブートキャンプ主催者夫婦のデュエットカラオケ、レジスタンスの作戦が成功したあと、森の中で各自イヤフォン装着で盛り上がる無音のパーティー、近眼の女にウサギをあげた男に絡むデヴィッドなど。
一番好きなのは、レジスタンスのリーダー(レア・セドゥ)の実家を訪れるシーン。リーダーは両親にレジスタンスのことを知らせておらず、パートナーと共に普通の社会生活を送っていると嘘をついています。両親は「揃って」アコースティックギターを趣味にしているので、リーダーや、カップルのふりをしているデヴィッドと近眼の女、他のレジスタンスのメンバーにギター生演奏(ロマンチックな「アルハンブラ宮殿の思い出」)を聞かせるんですが、デヴィッドと近眼の女の感情が高まりイチャイチャし始め(リーダーの両親の前でカップルのふりをしているのでおおっぴらにイチャつける状況)、それに無表情+横目で何度も視線を送るリーダーが本当に可笑しい。レア・セドゥの無表情横目大好き。レイチェル・マクアダムズの超嘘臭い笑顔と並んで好きかもしれない。

でもデヴィッドの兄(すでに犬の姿に変えられている)がパートナー有力候補だったサイコ女に殺され、声をあげずに泣くデヴィッドのシーンはかなり胸に来た。このように楽しい場面だけではないし、コリン・ファレルの演技も良かった。


聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア(2017年)

引用元:映画.com

医者であるスティーヴン(コリン・ファレル)は妻(ニコール・キッドマン)とふたりの子供と平穏に暮らしていた。だが、マーティン(バリー・コーガン)という少年の存在が家族を崩壊に導く。子供たちは突然歩けなくなり、食べ物を拒否し、妻にもやがて同じような症状が現れるとマーティンは言う。家族全員が死ぬのを避けるには、スティーブンはある残酷な選択をしなくてはならない。

これも本当に中二が考えたような話で、全てマーティンに都合が良いように事が運んでいく。まるでマーティンが神であるかのように。そういえば神=万能という発想もいかにも中二っぽい。
一応マーティンがスティーブンを恨む動機付けもあるんだけど、それまでのスティーブンの人物像とまるで結び付かない言動なので、お前さっき思い付いただろそれ。と突っ込みたくなる。

そんなフワフワした作品を成り立たせているのは新人俳優(当時)、バリー・コーガン。コリン・ファレルでもなく、ニコール・キッドマンでもなく、バリー・コーガン!!!二回言うくらい彼が好き。
彼がいないと、正直この映画は破綻していたと思う。
この作品ではことごとく観客の期待を裏切る展開を見せてきて、お前らに安易なカタルシスなど与えてなるものか!という、監督の鉄の意思を感じる。
マーティンはそのメッセージの代弁者として、とても説得力があると思う。
いかにもアイルランド系っぽい、作り物みたいな真っ青の瞳に、感情が全く読めない重たい瞼。もう見た目が不穏すぎる。彼は劇中一度だけ笑うシーンがあるんですけど、もうぞっとするような笑みで、そのシーンでかなり持っていかれた。この笑顔が見られたからもういいや。

改めてwikipedia を確認したら「アウリスのイピゲネイア」という古代ギリシャの悲劇を下敷きにしているんですね。一応そのあらすじを読んだけど「生け贄を選ぶことで事態が最悪の方向へ転がっていくってことだよね多分」くらいに受け止めた。これってストーリーについてどうのこうのと議論する映画ではなくて、そこはね、やっぱりバリー・コーガンですよ(3回目)。


哀れなるものたち(2023年)

引用元:映画.com

自殺を図った妊婦(エマ・ストーン)が、お腹の中にいた胎児の脳を移植され、ベラとして蘇る。医者のゴッド(ウィレム・デフォー)を父親がわりに、医学生のマックス(ラミー・ユセフ)を養育係として、ベラの内面は赤ん坊から子供へと成長していく。マックスは美しいベラに恋をして二人は婚約するが、チャラい弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)がベラを誘惑し、二人は駆け落ちする。ベラは外の世界での様々な経験を通し頭脳を発達させていく。

これはBorn Sexy Yesterday(見た目はセクシーな女、頭脳は赤ん坊、その名はボーンセクシーイエスタデイ!という名探偵コナンの逆バージョン。あるいは男に都合のよい女キャラ)が男からではなく世間を通して何かを学んだら…?という思考実験。
Born Sexy Yesterday(以下BSY)についてはこちらの記事にも書きました。


この話はさすがに中二が思い付くのはムリだと思う。多分大人がBSYの概念を与えた上で、社会参画意識が高く賢い女子高生がざっくりと書いたあらすじって感じ。設定にも痛々しさをそこまで感じない。
中二が考えたあらすじでアカデミー賞の作品賞をとるのはさすがに無理だろうな(この作品の脚本はヨルゴス・ランティモスではなくトニー・マクナマラによるもの)。オスカーをとるにはもっと観客に愛想良く、サービス精神旺盛でなければ。
女性の内面の成長と自立等のフェミニズム的要素については、note内でどうせ5000人くらいの人が書いていると思うから省略。というかもう上に書いたつもり。

フェミニズム思考実験以外で私が面白いなと思ったのは、自殺しようとした母親は、胎児であった自分をモンスターと呼んで忌み嫌っていたことをベラが知るシーン。自分は自分を憎んでいた女の体で生きている、というのはとても奇妙な感覚だと思う。ヨルゴス・ランティモスが脚本を書くのならこの部分をメインにしそうな気もする。

あと、マックス役のラミー・ユセフがすごく良かったです。序盤、奇妙すぎる世界感で、ゴッドが奇妙すぎる発言をする度に、マックスが''What?''とか、''Jesus…''とか、月並みすぎる反応を返してくるのでいちいちツボにはまってしまう。調べてみたらエジプト系のコメディアンなんですね。どうりで何てことない台詞が面白いわけだ。人を笑わせるプロなんだもん。自分が監督・主演したコメディでゴールデングローブ賞をとっているようだし、これからも活躍する姿が見られそう。

そういえば、かなりうぶそうなマックスはBSY状態だったベラを好きになったわけだけど、精神が成熟したベラのことも変わらず好きだったのは意外でした。BSYが好きな男も、ベラが色々なことを学んでいる間に精神が成熟したんですよ。ということかもしれない。
この映画は「男はみんなカス描写」をして相対的に女を持ち上げるわけじゃないところが良いと思う。だって男は一人一人違うし、女だってそう。というか人間ってそういうもの。「男なんてどうせこんなもん」とひと括りにするのはかなり問題がある。私だって「女なんてものは所詮…」とひと括りにされたら死ぬほど腹が立つし。
それに男性の存在をわざわざ低い位置に置かなくても、ベラ自体が精神を鍛え上げられた類い稀な存在だというのは明らかなんだから(典型的なダメ男のダンカンも必要な存在ではあるけど)。

とても楽しみましたが、やっぱり「ロブスター」と「聖なる鹿殺し」よりは話運びがきっちりと枠におさまっている優等生的な感じだったかな。これが優等生??と思う人もいるかもしれないけど、あくまで上位ニ作品と比べたらってことですから!!あと、登場人物のキャラクターや行動ではなく、あくまでストーリー展開のことね。美しい衣装や美術も含め、これが一番観客想いの作品と言えるかもしれません。

新作「憐れみの3章」が今年公開予定のようで、これも楽しみですね。

それではこの辺で。








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