トロン: レガシー~センスない映画の世界#3~
ようこそセンスない映画の世界へ。
センスない映画とは?
メジャー娯楽作品。
その中でも評価が高く、ライト層コア層関係なく長年ファンに愛されるものではない。
かと言って後々カルト的な人気が出たわけでもない。
話題になること自体があまりない。
本編の突っ込みどころをあげればきりがない。
しかし好きなシーンが突っ込み所を凌駕しているため嫌いになれない。
今回は、公開当時、父親と一緒に映画館で見たこちらの映画。ネタバレ!
トロン: レガシー(2010年)
1982年公開の映画「トロン」の続編。
ゲームカンパニーのエンロン社CEOフリン(ジェフ・ブリッジス)は幼い息子サムを残し失踪する。サム(ギャレット・ヘドラント)は成人した後も、会社を継ぐ立場でありながら経営に参加しようとしない。ある不思議な出来事がきっかけで、サムはかつて父が経営していた廃ゲームセンターに行く。サムはそこで突然、父が昔話していたゲーム内の世界「グリッド」に転送されてしまう。そこは父フリンの分身プログラムであるクルーが支配する世界であり、サムはそこで失踪した父との再会を果たすのだが、グリッドは危険極まりない世界だった…みたいな話。ちなみにオリジナルのトロンは未見。
好きなところ
オープニング
これはディズニー制作の映画なので、おなじみのシンデレラ城が冒頭に出るのですが、それがダークな空間にネオンが光るトロンバージョンになっている。そしてその直後、ジェフ・ブリッジスの声で「グリッド。デジタルの最前線…(The grid. Digital frontier…)」というナレーションが入る。
ジェフ・ブリッジスの声ものすごく好きなんですよね。このナレーションは落ち着いたトーンですが、台詞を言うとき感情がこもると独特に裏返るところも好き。
この短いナレーションが映画の好きなところの50%くらいを占めている。そしてナレーションが最後に息子サムとの会話になって終わるところも、ちょっとベタではあるが良い。
音楽
フランスのエレクトロデュオ、ダフト・パンクが担当しています。これもすごくかっこいい。特に好きなのは、自転車を運転する幼いサムから急にタイムジャンプして、大人になったサムがバイクを滑らかに疾走させる時の曲と、キャスターのクラブでのファイトシーンでかかる曲。このクラブではダフト・パンクもDJ役でカメオ出演しています。この二人は普段からヘルメットを被って顔出ししてないんですよね(改めて調べたらもう解散してたんですね…)。
プログラム・ファースト
こんなもん喜んでいるのは自分だけなのではという気がするけど…
グリッドは人間ではなくプログラム達の世界で、人間はユーザーと呼ばれています。で、クルーはプログラムをユーザーの横暴から守ったリーダーという立ち位置(今では独裁者だけど)だから、多分プログラムはユーザーのことを良く思ってはいない?のか??って感じだけど実際のところはよくわからない。
序盤でクルーとサムはライトサイクルバトルという仮想バイクみたいなので対決するんですが、これはチーム戦なので、サムにもプログラムで構成されたチームメイトが与えられます。で、プログラムはユーザーのサムのことを嫌ってるのかと思いきや、「よっしゃ、やるっきゃねーぜ!」みたいな、長年バディを組んできた頼れるネイビーシールズ隊員的な台詞を言うので「一体これどういう感情なんだよ」と戸惑う。と同時になんか可笑しくて笑ってしまう。
サムは後にキャスター(マイケル・シーン)というパリピプログラムが経営するクラブに支援を頼みにいく。でもキャスターはサムを裏切り、クルーの手下たちがクラブにやって来て絶対絶命、でもフリンがサムを助けに現れる(この時のフードの内側が光る衣装かっこいい)。フリンはグリッド内でクルーから逃れて潜伏生活を送っているんですが、このグリッド自体はフリンが作り上げたものなので、プログラムたちにとってフリンは創造主なわけです。だから、フリンがクルーに追われているお尋ね者であっても、やっぱり特別な存在と言える。だからフリンに対して神様のように祈る人がいたり、キャスターもサムを裏切っておいて「やっぱフリンは圧倒的なオーラあったわ…」とか言ったりしていて、プログラムの複雑な感情が垣間見える。
クルー達がフリンの潜伏先を突き止めて部屋の中を恐る恐る調べるあたりも、フリンに対する畏れがユーモラスに表現されていて好きなシーン。
キャスターはファイトシーンでサムを「われらが創造主の息子だあぁ(the son of our maker)!!!」と呼ぶんですが、いや、だからお前らサムに対してどういう感情抱いてんの??とすごく気になる。でもプログラム達はそこら辺を観客に説明してくれない。
でもそれで良いと思う。ユーザーにとっては混乱する台詞でも、プログラムにとっては意図が明白なのかもしれない。ここは好き嫌いがかなり分かれそうだけど、こういう人間ファーストじゃない不可解さが私は好きですね。
今更だけど、グリッド内は常に夜更けみたいな明度の空間に直線的なネオンが輝く世界なんですよ。かっこいいけどこんなにお天道様が拝めないと、ユーザーの私は一週間も経たずにセロトニン不足で鬱状態になると思う。でもプログラムはへっちゃらなんだろうな。
それはそうと、キャスターのクラブのシーンは一番盛り上がるシーンですよね。キャスターも良いキャラだったな。このくらい過剰な演技が無機質なグリッド内ではちょうどいいと思う。キャスターがおどけている様子は「時計仕掛けのオレンジ」の主人公アレックスにちょっと似ている気がする。でも本当にちょっとしか出ないし、もう少しズース(キャスターになる前の名前)としての過去を掘り下げて欲しかったな。
クオラのキャラ造形から気づかされたこと
フリンにはクオラという若い女の子の相棒がいます。
公開当時は、「映画はイマイチだけどクオラは可愛かった」という人が多かったように思う。私はそこがピンと来なかったんですよ。クオラを演じているオリヴィア・ワイルドはこの映画の前にアメリカのドラマで何故か立て続けにレズビアンを演じていて、私の中では「いかにもSっぽい男前な姉貴」というイメージだった。クオラは無邪気な感じがあるからちょっとキャラ変したね、と思いつつ、劇中ではアクションシーンもあったので相変わらずかっこいい役という認識。かわいいとは全く思ってなかった。しかしこの動画を見て激しく納得したのでした。
この動画はPop Culture Detectiveによる、Born Sexy Yesterday と名付けられた女性キャラについて解説したもの。クオラも割とフィーチャーされています。
つまり、見た目は魅力的な女性(=Sexy)、内面は生まれたばかりの赤ん坊(=Born Yesterday)のようで、とにかく世間知らずなので男の主人公を頼りにしているが、主人公がピンチになると救ってくれる、という男主人公にとって非常に都合の良いキャラなんですね。
いや、男性がどんな女キャラを好きになろうと勝手なんですよ。だって少女漫画にでてくる男キャラだって女の子にとって都合の良い奴ばっかだし。女主人公に「そのままの君が好きだ」と言うことだけがアイデンティティみたいな奴とかね(その時の声量は大きめ、場所は屋外)。
私はただ、何故クオラが可愛いと言われていたのか、そして何故自分はそう思わなかったかが非常に府に落ちたと言いたいんです。まあこれはこの映画の功績ではなくて、Pop Culture Detectiveの動画が素晴らしいからなんだけど。上の動画は珍しく日本語字幕もついているんで是非見て欲しいです。
突っ込みどころ
主人公サム
サムは中盤までとにかくカッコつけすぎてて、見ていてちょっと痛い感じ。「ねえ、何でもっと普通にしないの?」と純粋なこどもの眼で問いかけたくなる。もうちょいユーモアとか人間味がある方が、この世界観でキャラが立つと思うんですけどねえ。
ただ、父フリンに再会したシーンは別。幼い頃突然別れてから、ゲームの世界で年老いた父親に再会するってどういう気分?と思うんだけど、サムの表情を見れば「あ、こういう気分か…」と自然にわかる。これ以降のサムは前半ほどかっこつけてないように見える。心の防御シールドが解除されたのかもね。
回想シーン
過去の回想シーンが全て微妙。そしてどういうわけか、ダサさ加減がきっちりと統一されている感じがして不思議。これって80年代オマージュなのか?それともハズシとしていれているのか?よくわからないけど、すごく陳腐な感じ。特にクライマックス(これは致命的だよな…)。
そんなわけで、終わりよければ全て良し、の文字通り逆を行く映画でしたね。
ただ、かっこつけてるだけの映画という評価をされがちなこの作品、ちょっと不思議な要素もあって楽しめるよ、と言うことが伝われば幸いです。
そうそう、この映画の基本情報をwikipediaで調べていたら、2025年に続編「トロン: アレス」という映画が公開予定なんですね!
それが日本で公開されるとき、是非ともこの記事が予備知識として読まれて欲しいものです。
まあ何の参考にもならないでしょうが。
それではこの辺で。
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