「ピノ・エ=グリジオ」って何だ? ~トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』3~

読書感想なんて、チューニングみたいなもので、作品から声が素直に入って来ることもあれば、雑音しか聞こえないときもある。私のように、一気に読めないから、章ごとにちびちび読んで感想を書こうとすると、その章は全体の一部に過ぎないから、何も声が聞えないまま、何も書けないということが時々ある。

何も書けないときは、仕事の愚痴をいったり、面白い何かを導入に記しながら、思い浮かぶことや聞えてくる声に耳を傾けるものだけれども、『ブリーディング・エッジ』の第3章は、面白いという感覚は得られたのだけれども、何を書いたらいいかわからぬまま数日が経とうとしているので、もう書けないことを書くということで済まそうと思う。

そもそも、第三章冒頭に、マキシーンが冷蔵庫から取り出すワインが「ピノ・エ=グリジオ」という名前で、ピノ・グリージョならイタリアワインの有名な白品種だからすぐにわかるんだけれども、「エ=」?がわからない。これが無駄に私の想像を制限してきた。検索してもわからないので、まあ、そういう適当なワインをでっちあげたということにして先に進もうと思う。これを原文対照しようなんて、さすがに思わない。

マキシーンの別居している投資家の夫であるホルストのこと、旧友のハイディとのエピソードを描いたこの章は、なるほど!の一言のみの感想を得たものだった。

思い出した話は、80年代のお笑い番組で、他の芸人が何か言うとビートたけしが「なるほど?」と返して、微妙な間が生まれてちょっと笑いが起こる、掛け合いがあって、それが意外に私の心をとらえたのか、教室で次の日からそれを使い始めたら、『俺たちひょうきん族』の文脈を知らずに、わけのわからない奴が「なるほど!なるほどー!」と、U字工事の決め台詞「ごめんねごめんねー」みたいな発声で連呼し始めたので、使うのを止めたことである。

ただ、そのせいで相槌が「なるほど」になってしまい、立場が上の人の話を聞いていて「なるほど」と相槌を打っていたら、あとで「なるほどはやめろ!」とくどくどと怒られたので、それ以来は全部「おっしゃる通りです」と返すことにしている。心の中では「コイツ凄い適当なこと言ってんな」と思うことも無いわけではないが、割と人の話を聞くときは、本当に「おっしゃる通り」と思っていなくもない。

社会に出て、怒られたのは、

① 式典に出るための礼服を一着買え
② 「なるほど」じゃなくて「おっしゃる通り」
③ 「嫁」じゃなくて「妻」
④ 「了解」じゃなくて「承知」
⑤ 報告書の左上に書く宛名よりも右に書く自分の名前は下に書け
⑥ 上司より先に帰るな

③、⑤以外はもうどうでもいいと思っているが、⑥はお前らが帰らないと自分も帰れないと言っていた人もいるので、悩ましいところなんでしょう。今はもうその辺は過ぎた。

マキシーンは事務所を閉めて、デイトーナと一緒に飲むことにした。そして、話を振られたマキシーンは、パリピな元トレーダーの夫のことを思い出し始める。

夫は、感情のうすい機械的なパリピで、マキシーンの親友のハイディにもちょっかいをかけていたのだが、ハイディはもっと性悪な女なので、気の毒に思った。そもそも夫であるホルストは、変な依頼人を見つけてきては、マキシーンにあてがい、詐欺の片棒を担がせようとしてきたり。要するに、使命感のある世話好きな自分を自覚したのだった。

ハイディとマキシーンはともにユダヤ系移民の出自で、色々な戒律に縛られながらも、それなりに頑張って生きて来た。

そんなハイディとマキシーンが高校時代一緒に監視していた会員制の館である〈デザレット〉は、実はかなりヤバい館であるのかもしれない、ということが示唆されて、この章は終わる。

文系だったのに、微分積分までやらされた高校時代、得点は30台~80台を往復した。その中でも、数列、確率統計はまあまあ得意で、80点台をとった。数列については、教育実習生の教え方が丁寧でよかった、ということもあったのかもしれない。じゃあ、普段の教師の教え方如何。

私たちの頃の教科書は、『数Ⅰ』『基礎解析』『代数幾何』『微分積分』『確率統計』の5つだった。また、新課程ではなかったので、『代数幾何』のところに「行列」と「一次変換」があった。そこから線形代数の初歩までやらされたが、これは案外面白かった。

苦手だったのは、「三角関数」と「対数」だったが、『基礎解析』の「数列」以降は面白かった。しかし、今は「三角関数」と「対数」は時々使うので、もっと勉強しておけばよかったといまさら後悔もある。

というわけで(?)統計の初歩の初歩をやっている。監修倉田博史『文系のためのめっちゃやさしい統計』(ニュートンプレス 2021)という本を読んでから、小島寛之『完全独習 統計学入門』(ダイヤモンド社 2006)を再読しようと思っている。

何をいまさら感がないわけではないし、そんなのエクセルで全部やれるじゃんという意見もないわけじゃないのだけれども、知らなかったことを単純に知るという行為は面白く、それは志賀直哉も統計学も同じっぽいと思って、取り組み始めた。


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