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「小説 雨と水玉(仮題)(50)」/美智子さんの近代 ”東京”

(50)東京

一月真冬の東京の天気は大阪に比べても非常に良く朝から日暮れまで雲のない快晴のことがままある。その土曜日はことに天気の良い明るい日だった。
正午過ぎに東京駅に着く新幹線から、美智子が降りてきた。明るい日差しの中で今日の美智子は一層の美しさを放っているように啓一には思えた。濃紺のダウンに白いシャツ、赤茶系のチェックのロングスカートをまとった姿は活動的で気性のしっかりした明るい二十代前半の娘の美しさを存分に現わしていた。笑顔で降りてきた美智子に、
「長旅、お疲れさま。
今日も素敵ですよ、洋服とっても似合ってる」
「ありがとう、いつも褒められて、いつもいつもはそうはいかないのでそんなに期待しないでね」
「いや」
啓一が荷物を持って、乗り換え口に向かった。その日はまずホテルに荷物を預けて、昼食を軽く済ませたあと、相談カウンターに行き結納についての相談をするということにしていた。渋谷駅で電車を降りてすぐにあるホテルに荷物を預けた。青山にある相談カウンターにいくまでは少し時間が有ったの表参道あたりまで歩いて昼食を取ることにした。ぶらぶらしながら、適当な喫茶に入ることにした。
軽食をしながら、、
「美智子さんは東京には結構来たことあるの?」
「いえ、三回か四回くらいしかないの。
それも一回は幼小さい頃でよく覚えてなくて、それから高校の修学旅行と学生の時に一度友達と来たきりで。あっ、それから先月啓一さんの家にお邪魔したとき。それくらい」
「ああ、そうなんや。
あんまり東京へ来たことないんだったら、結婚したらいろんなところをデートしようか」
「えっ、デート、、、」
「そうや、結婚したらいつでもデートできるやろ、僕は美智子さんといろんなところにデートに行きたいと思ってる」
「そうかあ、そうなんやね。
でも結婚したらお金貯めやなあかんから倹約もせな、ふ、ふ、ふ(笑)」
「は、は、は(笑)、現実的やなあ、は、は、は(笑)
あの、式場の話はご両親としてもらったかな?」
「うん、候補にしたホテルやったらどこでもいいって、わたしが選びなさいって」
「そうしたらそうしよ。それで僕はいいと思う。
美智子さんはどこがいいか、決まったの?」
「うん、Xホテルが中ではいいと思う、Ⅹでいい?」
「うん、現実的な話やけど予算も真ん中くらいやし、それにその中では僕もⅩがいいと思う」
「ありがとう。
そしたら、結納の場所も東京のⅩでということ?」
「どうやろ、ロケーションは問題無いと思うけど、今日相談カウンターで話してみよ」
「うん」

食後、散歩がてら地下鉄で一駅の距離の相談カウンターに行き、結納の場所を相談すると式を大阪のⅩホテルでするなら、東京での結納もⅩホテルだと割引もあるからそれがいいでしょう、と薦められたのでそうすることに、日程は両親と調整して後日連絡することにした。

相談を終わったのが三時前だったのでまた歩いて渋谷に戻ることにした。そのついでに建築中のA書店のあたりを下見することにした。
三時半に建築中の場所に来たところ、クレーンがせわしなく資材を上げていくのが見えた。渋谷の駅から近く通勤を考えても利便性があることがわかったので、一旦ホテルに戻って小休止することにした。

ホテルにチェックインして十五階の部屋に二人ではいると、
「ああ、なんや、疲れたあ、足のこの辺が張ってる感じ」と美智子がふくらはぎのあたりを手で触った。
「朝早く大阪から来て少し歩いたからかな。ソファに座って休んだらいい」
「うん、結構歩いた、でも東京って感じがした、大阪とは違うなあ。
せやけど、この辺が張ってるわ、ああ、疲れたあ」
「そう、そしたらマッサージしてあげよか?」
「えっ、啓一さんできるの、マッサージ?」
「うん、スポーツマッサージやけどね、ほら足を出してごらん」
「うん」
美智子が足を前に投げ出したので、啓一が両手で美智子のふくらはぎのあたりのマッサージを始めた。
「少し張ってるねえ、結構歩いたからね。両足ともやるけど片方づつマッサージするから」
「うん、ありがとう」
強くもみほぐして柔らかくマッサージするというのを繰り返していたら、
「あっ痛い、ああ、気持ちいい、あ、痛い」
「そうやろ」
続けているとだんだん張りがほぐれてきた、もう片方の足に後退して同じようにほぐしていった。美智子の足は筋肉がしっかりしているわりに適度に脂肪を含んで柔かく、ストッキングの上からではわかりにくいが肌はきめが細かく滑るように白く、足首にかけての線が健康的な美しさを持っていた。その部分がマッサージによって柔らかくほぐされて活き活きとしてある種の艶めかしさを放ってきていた。

「さあ、備え付けのコーヒーでも飲んで一息して、夕飯に行こうか?」
「うん、ありがとう、楽になった。
そしたらコーヒーを入れるから、待っててね」

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