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第42話 3人の使用人の様子

 トマスとローラはすぐに見つかった。食堂で昼食休憩を取っている最中である。住み込みの使用人は朝早く起きて朝食を取るため、昼食休憩も早めなのだ。
「トマスさんとローラにお伝えしたいことがありますの。エリリカ様からの伝言ですわ。二人とも揃っていて助かりました」
「どうしたんですか。もしかして新しい仕事ですか」
「ちょっと違うわね。召し上がりながらで大丈夫なので、そのまま聞いていて下さい」
 ローラは大きく手を挙げて返事をし、トマスは小さく頷いた。二人は昼食を取りつつ、こちらに顔を向けている。
「明日の十五時に大広間にいらして欲しいとのことです。他には、ダビィ王、ミネルヴァ女王、セルタ王子、アスミ、クレバ医師がお見えになるはずですわ」
「もしかして、お嬢様は事件を解決されたんですか。明日が楽しみだな」
「かしこまりました。明日の十五時ですね。遂に、この痛ましい事件が終わるのかと思うと嬉しい限りです」
 ローラは凄いと目を輝かせ、トマスは感慨深い面持ちをしている。事件が終わるという言葉を聞いて、アリアもより意識した。エリリカが辿り着いた真相で、平穏が取り戻される。
「承知して頂けて良かったです。エリリカ様には私からお伝え致します」
「アリアさんは、誰が犯人かお嬢様の推理を聞いてるんですか」
「いいえ。聞いていないの。私にはさっぱりよ」
 ローラの問いに、アリアは困ったように笑った。肝心なところは内緒、明日、と教えてもらえなかった。それでアリアの反応を楽しんでいるのだから、エリリカには困ったものだ。
「そうなんですか。確かに難しいですもんね。トマスさんは分かります?」
「いいえ。私にも分かりません。そもそも、お三方はとても立派な方々でした。動機が思いつきません」
 少し考える仕草をしたが、すぐに首を振った。トマスは優しい性格だから、誰かを疑えないのかもしれない。
「そうですよね~。犯人と三人の間に何かあったんですかね。逆恨みなのか、あたし達の知らないコジー様達の顔があったのか。誰しも良くない部分は持ってますし、完全な善人って逆に怖いです」
「完全な善人、ですか。ですが、コジー様達は本当に素敵な国のリーダーでした」
 トマスはこの中で、一番長くフレイム家に務めている。だから、殺された三人を一番見てきたのもトマスだ。果たして、彼は本当に十五年前の戦争が起こった真実を知らないのだろうか。アリアには判断できなかった。
「あ~あ。アリアさんが助手を引き受けてくれれば良かったのになぁ。そしたら、あたしも真実を見抜いていたかもしれないのに」
 両手を頭の後ろに回し、ローラは唇を尖らせる。
「あら、その話は冗談だったわよね」
「も~、アリアさん鈍感だ」
「はいはい。私はアスミも探さないといけないので、これにて失礼するわ。お二人ともお食事中お邪魔しました」
 アリアは一礼して食堂を出る。アスミを探さないといけないのに、予想以上に時間を食ってしまった。二人の反応を推理のヒントにしようとしたが、さっきのやりとりでは何も分からない。
 城内を探していると、一階のエントランスで掃除をしているアスミを見つけた。彼女は無心で箒を動かしているように見える。仕事に集中しきれていない。
「アスミ、ちょっと良いかしら」
「はっ。はいっ!!」
 声をかけられたアスミは、ビクッとして振り向いた。後ろからでも、肩が大きく震えたのが分かった。
「驚かせた? ごめんなさいね」
「い、いえ。大丈夫です。何でしょうか」
 必死に平静を装おうとしているのが丸分かりだった。顔はアリアを向いていても、目が全然合わない。
「エリリカ様からの伝言よ。明日の十五時に大広間に集まって欲しいの。あなたの他には、ダビィ王、ミネルヴァ女王、セルタ王子、トマスさん、ローラ、クレバ医師がお見えになる予定よ」
「分かり、ました。あの・・・・・・」
「ん? どうしたの」
 アスミは何かを言い淀むように途切れ途切れで言葉を発する。視線を左右に彷徨わせ、話をどう切り出そうか迷っている。アリアがじっと待っていると、ようやく口を開いた。
「お嬢様は他に、何か仰っていませんでしたか」
「他に?」 
 言いたいことが「エリリカが他のことを言っていないか」だとは思わなかった。アリアは不審そうにアスミを見る。それに気づいた彼女は慌てて両手を振った。
「いえ、あの、分かりました。早く犯人が捕まると良いですね」
「ええ。そうね。アスミは、誰が犯人だと思う」
「分かりません。そういうこと考えるの、苦手なので」
「私も分からないから同じね。ありがとう。仕事の邪魔をしてごめんなさいね」
 アリアはアスミに背を向けて階段の方を見る。丁度、エリリカが手紙を持って降りてきた。深紅のドレスが歩幅に合わせて綺麗に揺れる。
「アリアいたーっ! 探したのよ。書き終わったから関所まで行くわよ」
「申し訳ありません。その手紙は箱に入れなくて良いのですか」
 アリアが見た先には手紙を入れる箱がある。この箱に手紙を入れると、二十時に執事が運んでくれる。わざわざエリリカが持っていく必要はない。
「この手紙は私自身で持っていくわ。それじゃあね、アスミ。仕事の邪魔してごめんね。今日もありがとう」
「め、滅相もございませんっ! そ、それでは・・・・・・」
 アスミは逃げるように掃除道具を片付けに行った。エントランスがいっきに静まり返る。アリアは一人で首を傾げた。
「アスミはどうしたのでしょうか。やはり、身近で人が亡くなったことが、心身の負担になっているのかもしれませんわ」
「違うわ。それも明日説明するわよ」
 肯定されると思いきや、エリリカからは理由を知っていると言われた。アスミの態度は事件に関係があるのか、それとも別の原因があるのか。
「理由がお分かりになっているのですか」
「主として当然よ」
「推理したのですね」
「普通に主としての私を褒めなさいよ」
 エリリカが不満そうにアリアを見る。しかし、アスミの態度を推理しようと自分の世界に入っていた。

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