ステラおばさんじゃねーよっ‼️91.初恋の萌(きざし)② 〜人魚のハンドタオル
👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️91.初恋の萌(きざし)② 〜花を食べるひとは、こちら。
🍪 超・救急車
知波は落ち着きを取り戻すと、職業柄カイワレの不調をすぐに見ぬいた。
「太士朗、熱があるわね。旅の疲れが出たのかしら」
そう言うと、カイワレを寝室へと伴っていった。
萌はその場に立ちすくんだ。
知波はカイワレを寝かせると、不安そうな萌を気づかった。
「萌さん、大丈夫よ。太士朗はただの旅疲れだから」
「そうですか。それならば良かったです。では、この辺で失礼…」
と言いかけた萌を知波は、
「ちょっと待っててね」
と呼び止め、どこかの部屋へ消えてしまった。
萌はまた知波を待つしかなかった。
⭐︎
「はい、これ」
と知波は萌に何かを手渡した。
「これって?」
「いいから、開けてみて」
ほほえんだ知波は、カイワレのやさしい雰囲気と似ている。
「?!」
萌が不思議そうにハンドタオルを広げた。
「日本最南端にある島のお土産です。良かったらお使いください」
ハンドタオルにほどこされた刺繍の人魚は、正方形に型取れた海を自由に泳ぎ、楽しそうだ。
「かわいい♡…いいんですか、いただいちゃって?!」
萌は恐縮しながら訊ねると、知波は笑顔で大きくうなずいた。
風呂桶に汲まれた水やタオルが置かれた床に視線を落とし、知波は萌に言った。
「萌さん、今日はありがとうございました。さっき太士朗に状況を訊いたら、急に倒れてしまったって言ってたわ。あなたよりかなり大きな体を動かすのは、大変だったでしょ?」
萌は両手を小刻みに振りつつ、謙遜している素振りを見せた。
知波は続けた。
「ぶっきら棒な息子ですが、慣れたらやさしい子なんで辛抱強くお付き合いください」
と知波は頭を下げた。
「いやいや、こちらこそふつつかな担当ですが今後とも宜しくお願いいたします!」
と萌も深々と頭を下げた。
頭を同時に上げたふたりは、笑顔で視線を交わした。
そして萌は長時間滞在したカイワレ宅を後にした。
⭐︎
外に出ると、トレンチコートから入り込む夜風が萌の火照ってた身体を冷ました。
今夜の夜風は、妙に心地いいなぁ…。
萌自身、恋熱に浮かされていると気づくのは時間の問題だった。
そんなふたりを月がしずかにやさしく見守っていた。
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