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【エッセイ】エンパス!現実主義の母と私と幽霊と 22. 旦那の癌宣告

  ここで先に言ってしまうが、旦那は癌ですでに亡くなっている。
 病気が分かったのは私たちが友達夫婦となって三年が過ぎた頃だった。

 最初は本当にただの風邪だと思っていた。
 でも咳がなかなか止まらなくて、ようやく地元の病院に行ったと思ったら大きな病院へ行けと紹介状を渡されてきて……。

 大きな病院ではそこで一番の実力のお医者さんに診てもらえる事になり、旦那はラッキーだと呑気に鼻歌なんか歌ってたけど、その時点で私は嫌な予感がした。
 その先生が診るという事は、それだけ何か重い病気じゃないだろうかと。

 精密検査を受け、後日、二人で診断結果を聞きに行ったら案の定、病名は肺癌でステージ4。すでに手術は出来ない状態だった。


 現実的な面で見れば、原因になり得る事なんていろいろ思い当たっていた。はっきりとした因果関係は分からないけど、まずはヘビースモーカーだったしね。

 タバコは本当に朝から晩まで吸う人で、いくら私が体に悪いからやめてと言っても全く聞く耳を持たなかった。
 菌に対しても無頓着で、トイレに行ってもあまり手を洗わない人だったし、薬害に対しての危機管理も薄かったように思う。

 というのも、その頃には本格的ではない【なんちゃって農業】をやっていたのだが、農薬とか撒く際にマスクをしなかったり肌を露出していたりして……。
 だから農薬吸い込んではゲホゲホしてるのをしょっちゅう見たし、そこで私がマスクしろと言っても言うこと聞かない人だった。


 ただ、そういう思い当たる原因はあれど、病名を知らされた際、私が真っ先に思ったのは『もしかしたら私のせいで旦那が病気になったのでは……?』という事だった。

 友達夫婦となる前、自殺未遂した時に私は本当に凄まじい怨みの念を旦那に対して向けてしまった。
 あれから日が経ち、いくら表面的には仲良くしてても、時折ふとした時にあの時の恨みや憎しみが蘇る……。
 丑の刻参りじゃないけど、そういった怨念みたいなものが似たような効力を発揮して、だから病気になったのではないだろうかと。


 罪悪感を抱きつつ……、あとはこうなる運命にある事を私はきっと心のどこかで予期していた。というのも、一つ思い出した事があったのだ。

 あれは結婚する前、一人暮らししていた彼の家に私が遊びに行った時の事だった。

 その頃にはもう結婚話が出ていて、私は一人、浮かれ気分で未来に思いを馳せていた。
 これからこの人と幸せな結婚をして、子供が出来て、お爺ちゃんお婆ちゃんになるまで仲睦まじく暮らすんだなぁと、そんな事を考えていたと思う。

 ところがその時、スッと胸が冷え込んだ。
 目の前にあった暗いPC画面を見ているとザワザワした気持ちになってくる。

 ――未来に彼はいないかもしれない。

 漠然とそんな思いが胸をよぎった。
 暗い画面に映る自分のシルエット。そのまま未来の自分を想像した時、私一人がそこに取り残されているようなそんな気がしてゾワッと鳥肌が立ったのだ。


 もちろん、そんな訳がないとすぐにそれは否定した。見なかったふり、何も感じなかったふりをして、あの時の事はずっと忘れて生きてきたのだ。それを突然パッと思い出し……。

 本当、都合悪い事は見ないふりをしちゃうよね。あの時、確かに悪い予感はあったのだ。せっかく守護霊様たちが事前に教えようとしてくれたのに私はそれを打ち消した。


 まあ、とにかく癌宣告を受け、しばらく穏やかだった結婚生活はまた少し荒れ模様となってしまった。
 何より現実を受け止められない旦那が一時的にだが、また前のDV旦那に戻ってしまったのが辛かった。

 そもそも、そういう重い病気を宣告された人って、その現実を受け入れるまでいくつか段階を踏むのだそうで……。
 まずは落ち込み、そして怒り、そうやって段々と現実を受け入れていくというのだ。

 だからその過程を旦那も経たに過ぎないんだろうけど……。

 タイミングが悪かった。あの時はちょうど旦那が怒りの段階にいる時に私が体調を崩してしまった。
 旦那からすれば、貧血に目眩、偏頭痛で気分悪くなった私がトイレでゲーゲー吐いていたのがよほど気に食わなかったらしい。
 いきなり「俺の方が重病だ!」とブチ切れては私を殴りつけたのだ。フラフラだった私は吹っ飛んで壁に頭を打ちつけて……。


 本当にあの時は心臓をグサグサ刺された気分だった。好きで具合悪くなってる訳じゃないのに、またあなたは私にこんな扱いをするのかってドロドロしたものに呑まれてしまって……。

 当然旦那の方が重病なのは分かっている。今がそういう怒りの段階にいた事も分かってはいたのだ。
 だけど簡単には割り切れない、許せない気持ちが勝ってしまい夫婦仲は険悪になった。私の中ではまた怨みの念が再燃したし。

 それまでは病気になった旦那に対して心配だったり罪悪感、悲しかったり労ったり、出来るだけ寄り添おうと、そんな気持ちがあったけど、暴力によりそれが一気に失せてしまい、自業自得だざまあみろ! とかそんな酷い事を思ったり。本当に幼稚で未熟者な私なので申し訳なかったと思うけれど。


 とにかく、その後しばらく家庭は荒れ模様だった。だけどその状況を落ち着かせたのが奇しくも毎度おなじみ不思議体験だった訳で……。

 また急にこの手の話をねじ込んでしまうが、どうやらあの時、旦那側にいる守護霊か誰かが私に憑依したらしいのだ。

 私自身うろ覚えでハッキリしないが、荒れている旦那にその守護霊か誰かが説教をしたらしく、憑依が解けた直後に見た旦那は何やらひどく動揺し、そして妙にションボリしていた。

 聞けばその説教の内容だが、「自分で寿命を決めたのだぞ!」とか、「病気も自分で課したくせに!」とか、「そのふてぶてしい態度は何だ!」とか、「駄々っ子か!」とか何とかで(あまり言いたくないのかボソボソ喋っていた)私が感じた感覚で分かりやすくまとめると、

【お前自身がこの人生でこなすカリキュラムと寿命を決めて生まれてきたのだぞ! 誰でもない自分が病気になるという課題を選択したくせにそのふてぶてしい態度は何なのだ! まるで宿題をやりたくないと騒ぐ子供だな! お前は駄々っ子か!】と、要はそういう事だろう。

 声は私の声だが、お爺ちゃんみたいな口調で、姿もそう見えたという。


 旦那はそれが初めての不思議体験だったらしく、それまでは半信半疑だったけれど豹変した私を見て信じざるを得なくなり……。

 まあ、何にしても説教をしてくれた事はありがたかった。それを機に旦那もようやく現実を受け入れるようになっていったし、気性も落ち着いた事で表面的にはまた穏やかさを取り戻せたし。

 しかし、そうは言っても私は未熟者なので内心複雑な思いだった。
 旦那の為に毎日人参ジュースを作ったり民間療法を試したり体を労ったり出来る限り尽くしていたとは思うけれど……。
 でも、やっぱり殴りつけたあの日の事を謝ってもらっていないので、表面上は気にしていない風を装いながらも、しばらくは根に持ったままだった。


 
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