見出し画像

短編小説Vol.07「放埒に憧れて」


蝉の大合唱が、鳥籠の向こう側から聞こえる。
まるで僕を呼んでいるかのようにしつこく、泣き続ける。

ダメだ。
ここで、我慢しないと僕は受験に失敗してしまう。
今は我慢。とにかく我慢だ。

いや待てよ。
なんで予備校という名の鳥籠に僕は引き篭もっているだろう。
向こう側には、放埒を教えてくれる蝉が僕を読んでいるわけではないか。

僕は自分自身を見つめ直してみた。
シャツのボタンを1番上まで止めている。
勉強一筋で遊ばない、生真面目なタイプ。

そんなタイプでいいのか。
蝉がしつこい問いかける。

いや、僕は未来の希望なんか破いて、放埒したいんだ。
そうだ。
飛び立ってしまおう。
この鳥籠から。

午後2時。
夏の最高潮の中、僕は理想的な未来へと飛び込んだ。
そこはただ暑く、刺激的で、何より新鮮だった。
何年ぶりだろう。こんな暑さは。
僕の細胞が踊り狂っている。色めきだっている。

そうだ。その制服も脱いでしまおう。
駅のコインロッカーに、そんな無個性な服は預けてしまおう。
そして、駅のロッカーで用意していた私服に着替えるんだ。
僕はいつも放埒を望んでいたから、その手段はもちろん準備万端だ。

しかも今日は、町1番の花火大会の日。
僕の個性を全面に押し出して、花火大会で花火の如く、花を咲かせてやるんだ。
待ってろ、花火。

大人っぽくなんかなくていい。
周りに合わせなくたたっていい。
僕は自分らしい放埒するのだ。

蝉よ。ありがとう。
僕はこのまま行きます。

そんなことを思いっていると、僕の体をクーラーの風が無駄に冷やした。
目を覚ますとそこは、いつもの鳥籠の中であった。
僕はいつまで鳥籠の中。
周りの目から逃げられないんだ。
だた放埒に憧れて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?