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マツケンサンバは世界を救う【留学日記】

突然だが、「マツケンサンバ」をご存知だろうか。

“上様”の愛称で親しまれる日本の名優・松平健が煌びやかな衣装に身を包み歌って踊る、サンバ調の歌謡曲だ。日本で広く親しまれているあのマツケンサンバは、正式には「マツケンサンバII」である。

2004年にCDがリリースされて以降、軽快なメロディ、派手な衣装とパフォーマンスが人気を博し、この「マツケンサンバII」は日本で一大ブームを巻き起こした。

それから時を経て2021年。コロナ禍で鬱屈とした日々を送る人々に、マツケンサンバは忘れられていた喜びと希望をもたらした。SNSを中心にマツケンサンバのパフォーマンスを求める声が高まり、オリンピック開会式への出演も期待された。そして2021年12月31日大晦日、マツケンサンバは17年ぶりにあの紅白歌合戦で披露された。第二次マツケンサンバブームの到来である。私もこの時期にマツケンサンバの虜になった一人だ。

聞くだけで胸踊る軽快なイントロ。ちょんまげとスパンコールの着物を身に纏うマツケンの華やかな登場シーン。特にストーリー性のないただただサンバ風の歌詞と大胆にも「マツケンサンバ」とだけ歌うサビ。

当時アメリカの大学を受験するため辛い浪人生活を送っていた私は、大袈裟でも何でもなくマツケンサンバに救われていた。楽曲が持つ唯一無二の存在感と底知れぬエネルギーに夢中になった。音楽番組でマツケンサンバが披露される度に、テレビに釘付けになっていた。

そして私は先日、そんなマツケンサンバを遠い異国の地、アメリカで演奏するという奇妙な経験をすることとなった。


私はアメリカの大学で吹奏楽団に所属している。今学期最初のリハーサルで配られた演奏曲リストに「Matsukensamba」の文字を見つけた時、私は思わず二度見した。

吹奏楽団を指揮する教授が一体どういった経緯でこの曲を選んだのか詳しくは知らないが、どうやら楽団が昔演奏した曲の中から見つけてきたらしい。

その楽団で唯一の日本人であり、唯一マツケンサンバに親しみのあった私は、演奏前に楽団のメンバーにこの楽曲について紹介してほしいと依頼された。教授がスクリーンとプロジェクターを準備してくれたので、私はマツケンサンバのパフォーマンス動画を流した。

アメリカ人の生徒たちが、やけに光り輝く日本のサムライが理解不能な言語で歌って踊る様子を鑑賞するという、世にも奇妙な構図の誕生である。

私はこの摩訶不思議なコンセプトで作られた日本の楽曲がアメリカでどう受け入れられるのか興味津々だった。

結論から言うと、とにかくマツケンサンバは最高だった。

国が違っても言葉が通じなくても、マツケンサンバは彼らにウケた。初めてマツケンサンバを合奏したあと、皆が通りすがりに「マツケンサンバ大好き!」「あの曲すごく楽しい、最高だね!」と私に声をかけてきた。「今学期演奏する曲の中で、みんなマツケンサンバが一番のお気に入りだって言ってるよ!」とまで言われた。

私たちはこの曲をコンサートで演奏した。今学期すでに二回コンサートを開催したが、マツケンサンバはその二回ともトリを飾ることとなった。皆がマツケンサンバを演奏できることにワクワクしていた。

コンサート当日。壮大なクラシックの楽曲が数曲続いた後、最後にマツケンサンバの演奏が始まると、会場一体が途端に底知れぬ明るさと興奮に包まれた。演奏している私たちも生き生きとしていた。客席では自然と手拍子が沸き起こり、コンサートは大盛況で幕を閉じた。

こうして私は、マツケンサンバをアメリカでアメリカ人と演奏するという不思議な体験をするに至ったのである。


私の苦しかったあの頃を支えてくれたマツケンサンバは、海を越えて、日本から離れたこのアメリカの地でも愛されている。改めて、マツケンサンバの、日本のエンターテイメントの、そして言葉や文化を超越する音楽の持つ力を思い知った出来事だった。

マツケンサンバは今日もどこかの誰かの暗い日々を照らし、世界中の人々に喜びと希望を与え続けている。

そんな最高のパフォーマンスを披露し続けてくれる松平健さんに敬意と感謝の意を表して、この記事を終えることとする。

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