-第2章- 先行研究 「インディーズにおけるアナログゲーム開発環境と実践」
2−1 先行研究 -インディーズとは-
インディーズに関する研究は様々に行われている。まず、インディーズの定義について取り上げる。川島(2006)は、以下のように書いている[1]。
「英語のindependentに 由来するindiesの音写であり、大手企業に対する「独立系」を指して、様々な分野に用いられている。」
また、インディーズの呼称について樺島(2009)は以下のように書いている[2]。
「こういったコンテンツやその制作者は、 独立系、インディペンデント、インディー、インディーズ、同人などと呼ばれる。」
しかし、インディーズの「同人」という呼称に対して七邊(2009)は以下のように書いている[3]。
「「インディーズ」という概念は、「プロ」になることを前提に活動をする「アマチュア」としての自意識をもったものや、「メジャー向けコンテンツ」に対する「マイナーコンテンツ」といったコンテクストが入り込んでいる要素がある。そのため、一部の同人ゲーム制作者は 「自分をインディーズ、と呼ばないでほしい「インディーズと一緒にするな」といった言説すら、見られる。」
つまり、インディーズという言葉の定義には、「プロを目指す前の状態を示す言葉」としての意味と「プロを目指していない状態を示す言葉」の2つがある。
本研究では、インディーズの定義を「プロを目指していない状態を示す言葉」として進めていく。それは、インディーズと呼ばれるものが趣味から派生したものであると考えるからである。井上(2011)は、趣味の文化の成立プロセスについて、以下のように書いている[4]。
「文化形成の過程において行政や企業の問題が一定の関わりを見せていることは事実であるが、(中略)、行政や企業の影響力が極端に強かったり、そういったアクターが主導したりすることによって成立した分野ではない。」
このことから、趣味の文化とはボトムアップ型で形成されており、インディーズにおいてもボトムアップ型で成り立ってきたものであると考える。本研究では、あくまでインディーズを「プロを目指していない趣味の状態」であると定義する。
そのインディーズにおける、彼ら/彼女らのボトムアップ型の活動動機について、小林(1996)は以下のように書いている[5]。
「「メディア・ファンダム」を単にメディア・テクストを受容し,受容の「喜び」を共有し合う「コミュニティ」ではなく,そのような「喜び」を生産活動へと転化し,さまざまなメディア資源を利用しながらこれらの生産活動を展開する「コミュニティ」と定義している。」
「メディア・ファンダム」とは、サークルなどのコミュニティを指す。これから、インディーズの文化とは、ある文脈を共有する喜びを生産活動へ転換させていきながら、ボトムアップ型で形成されてきた文化であると考えられる。
2−2 研究手法
本研究は以下の2つの方法を基に行った。
① アナログゲームを制作するプロセスで、プロトタイプを作り、そのプロトタイプを固定のメンバーにテストプレイしてもらい、フィードバックを得て、改善を繰り返し行う。
② ゲームを100個制作し、市場に出す。そして、完成したゲームを展示会に出展し、アンケートにて評価を行なう。
①については、試作したプロトタイプのルールの推移などを把握してもらい、より的確にプロトタイプへのフィードバックを得て、より面白いゲームを作るためである。②については、インディーズにおけるゲーム制作環境の現状についての実践例を示すためである。
また、本研究の流れ図を以下に示す。
参考文献
[1]川島 漸(2006)、「新聞記事・雑誌記事等にみる「インディーズ」概念の定着過程」、『ポピュラー音楽研究 Vol.10』、p128-p142
[2]樺島 榮一郎(2009)、「個人制作コンテンツの興隆とコンテンツ産業の進化理論」、『東京大学大学院情報学環紀要 情報学研究 No77』、p17-p41
[3]七邊 信重(2009)、「同人・インディーズ・ゲーム制作を可能にする「構造」− 制作・頒布の現状とその歴史に関する社会学的考察− 」、『コンテンツ文化史研究』p35-55
[4]井上 明人(2011)、「ユーザー・クリエイティヴ・ネットワーク 〜ユーザー・クリエイションを考えるためのメカニズムを再考する〜」、『情報社会学会誌 Vol.5 No.3 』、p15-p29
[5]小林 義寛(1996)、「密猟的文化 -あるいは草の根の創造活動の可能性へ向けて-」、『生活学論 叢1』、p97-p106.