続・タイタニック (1分小説)
ろくに働きもしない、アル中の父のもとで育てられた私は、幼い頃から、酒の空き瓶だけが遊び道具だった。
小学4年生になったある日、テレビで、ボトルシップの存在を知る。試しに作ってみたところ、もともと手先が器用で性に合ったのか、すぐに夢中になった。
父は、酒くさい声で、私の作品をよく誉めてくれた。
「おまえは、優れた芸術家になるよ。父さんは、母さんとの初デートが、映画の『タイタニック』だったんだ。タイタニック号は作れるか?」
父が原因で、家を出ていった母。
「ディカプリオが、女の人にボートを譲って、海の中に沈んでゆくシーンなら覚えてる」
酒に溺れ続ける父と、どこかで生きているだろう母。
現実は、映画ほど美しくはないけれど、 ちょっとだけ重なったんだ。
ピンセットを使い、瓶の中に、タイタニック号、救命ボートと、順序よく組み立ててゆく。
女性のフィギュアを作り、救命ボートの上に乗せた。
あとは、海に見たてた、青い樹脂を瓶に流し込んで、と。
「父さんは、まだ母さんのことが好きなの?」
救命ボートのへりに、男性のフィギュアの手をつかませる。
「いや、だって、全然連絡を取ってないし。どこに住んでいるかも分からないし」
父は、酒の影響か、それとも照れているのか、赤ら顔。
「どうしているんだろうね、母さん。ねえ、この瓶の中に手紙を入れて、海に流してみない?」
「メッセージ・イン・ア・ボトルって、やつか」
【20年後】
タイタニック号が、とうとう127年ぶりに引き上げられた。
この歴史的なニュースに、今、世界が沸きに沸いている。
「現場から中継です。
先ほど、甲板で、ボトルに入った手紙が2通見つかりました。文面は、日本語で書かれており……」
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