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黒塗りの白い折り紙

  朝、息子が唐突に白い折り紙を持ってきた。恐竜柄のレッスンバッグからクレヨンを引っ張り出し、何やら熱心に書いている。
 15分後。
  「おてがみ、できた〜!」
 白かったはずの折り紙は一面を黒いクレヨンで塗り潰されている。息子は良い出来だと自負しているのだろう、とても満足げだ。
 何も知らずにこんなものを貰えば、きっとお友達はギョッとするだろう。ゴリゴリと力強く塗りつぶされていることも、色が黒であることもなんだか不気味だ。私なら、何か恨みでも買ってしまったのだろうかと、一生懸命に記憶を辿るだろう。あの設定保育のときか?いや、あのお砂場遊びのときか?
 そんな母の心配をよそに、製作者である息子は「かけるくんにあげるの」とニコニコ。
  息子がそんなお手紙を書いたのには、もちろんわけがある。

  数週間前。黒いクレヨンとその仲間たちを主人公にした絵本を買った。「くろくんとふしぎなともだち」というものだ。クレヨンの色の名前プラス「くん」「さん」という分かりやすいネーミングのキャラクターが愛らしい。ストーリーのテンポが良く、聞き手はもちろん読み手もわくわくできる。
 息子の食いつきが良かったので、他の“くろくんシリーズ”も見てみることにした。そして最近、書店で見つけたのが「くろくんとちいさいしろくん」だ。
 絵本の中で、白いクレヨンのしろくんはある日、仲間とはぐれてしまう。しろくんはすっかり落ち込んでしまうが、探せど探せど仲間は見つからない。
 ある日、元気のないしろくんが思い切り絵を描けるよう、くろくんたちは大きくて真っ白い画用紙を用意する。しかし。
 「ぼくはしろだから、しろいがようしは むりだよ…。」
 他のクレヨンたちが楽しそうにお絵描きするのを見て、しろくんはますます寂しくなってしまう。そこでくろくんは名案を思いつく。
 くろくんはしろくんのために、白い画用紙を黒く塗り潰したのだ。
 「わ〜い!くろくん!どうもありがとう」
 しろくんは黒くなった画用紙の上で嬉しそうにお絵描きを始め、元気を取り戻す。お話の中に、そんな一コマがあったのだ。

 どんぐりであれイイ感じの棒であれ、自分が手に入れて嬉しいものを相手に見せたり分け与えたりするというのは、子どもにとって重要なコミュニケーションであり、愛に満ちた行為だと思う。相手が喜ぶかどうかはさておき。それがヨダレでぐっしょり濡れた食べかけの小さなパンであれ、ダンゴムシであれ、とにかくあげたいのだ。きっと笑ってもらえると思うから。きっと「ありがとう」と喜んでもらえると思うから。
 息子は4歳ながらに、くろくんの思いやりとユーモアに感銘を受けたのだろう。息子が黒く塗りつぶした白い折り紙は、くろくんたちの思いやりとユーモアを乗せてお友達の手に渡った。
  「この上にお絵描きしてねって言って、お手紙あげたよ!」と息子。しろくんを笑顔にした黒い画用紙を、大好きなお友達にも贈りたいと思ったんだよね。

 ただ、かけるくんとかけるくんのお母さんはそんな経緯を知らない。黒塗りの呪いのお手紙と思われてしまっては、くろくんの面目も立たないだろう。かけるくんやかけるくんのお母さんに会ったときには、まだコミュニケーションの拙い彼とくろくんの代わりに、黒塗りの白い折り紙の真意を伝えておこうと思う。

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