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「プロジェクトを成功させるという職業」 PMの基本姿勢や立ち振る舞いを徹底解剖 〜お悩み解決編〜

プロジェクト全体の計画や実行、品質や納期などに責任を持ち、プロジェクトの目標達成に向けて先導していくプロジェクトマネージャー(PM)。

第1回第2回に引き続き、今回も『プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本』著者の橋本将功さん(パラダイスウェア株式会社 代表取締役)とSun*のプロジェクトマネージャーチームを統率する青木 史也(株式会社Sun Asterisk)、下田 佳(株式会社Sun Asterisk)がプロジェクトマネジメントにまつわるトークディスカッションを行いました。


キックオフで北極星を確認し、覚悟を計る 

——PM業にある程度慣れた後、その後のキャリアをどう設計するようになりましたか?(PM歴8年目)

橋本:受託企業のPMであれば、プロジェクトによって独自性があって、テーマも関わる人たちも一新し続けるので、飽きないですよね。

青木:そうですよね。全く違うジャンルの映画や本をずっと見続けられる感覚です。新鮮さを感じ続けながら仕事ができます。

橋本:とはいえ、PM歴8〜10年に差し掛かると、みなさんそれぞれ次のキャリアへ踏み出している印象がありますね。僕の場合は、自分で起業する道を選びました。フリーランスになって、より難易度の高いプロジェクトにトライする人もいらっしゃいますし、青木さんのように組織全体のプロジェクトのマネジメントに回り、人を育てることに尽力される人もいます。

青木:私はPM歴8年経ってから旅にでました。PMは需要の高い職能なので、一度仕事から離れても、帰ってきてからまた仕事に戻ることができるかなと。旅に行く、という選択をして正解でした。

——キックオフで意識していることはありますか?(PM歴2年目)

青木:全員に参加してもらうことで、プロジェクトがスタートしてから「それは聞いていませんでした」と言われることがないようにエビデンスを残します。バイネームで、その場にいる全員の役割を明確にし、合意を取ります。その人自身が理解していると共に、プロジェクトメンバー全員が共通でわかっていることが重要です。

また、このプロジェクトが、「なんの価値を生むのか・どういう貢献をするのか」を表すキーメッセージをフレーズとして残すようにもしています。そのフレーズは資料を作成するときに記載したり、ホワイトボードに書いておいたり、進行中は常に思い帰れる状態にしますね。

橋本:大前提ですが、絶対に手ぶらで望んではいけません。キックオフをするタイミングでは、まだなにも決まっていない、ということもあるでしょう。それでも、青木さんがおっしゃったような、「誰が何をするのか・このプロジェクトでは何を目指しているのか」は決めておきましょう。そこに対して異論があっても構いません。とにかく、「こちらへ向かってみんなで進んでいくよね」と、話ができる状態を整えておくことが大事です。

僕は新規事業やDXプロジェクトに関わることが多くあります。それらのプロジェクトでは、ざっくりしたガントチャートをより重視しています。プロジェクトの今後の予定を提示しておかないと、上層部の方が不安に思う場合があります。その安心材料としてガントチャートは用意しますね。

青木:クライアントがエンタープライズ企業だと、キックオフに上層部の責任者がやってくることはありますね。

橋本:責任者の方にマイルストーンを共有し、「ここで判断が必要になってくる予定です」とあらかじめ伝えておくことは、現場にとってもプラスに働きます。その段階で不安を解消しておかないと、必要でないタイミングで頻繁に様子を確認されることもありますから。

青木:マイクロマネジメントが始まりかねませんね。

橋本:意思決定者の「アウト」ゾーンがどのへんか探るのも、初期の段階でします。新規事業やDXは、プロジェクトとしては成功率が高くないギャンブルです。なので、「このギャンブルに賭ける気があるのか?」を確かめるんです。シビアな判断をする際に、どのくらいのやる気・熱意で臨んでるか、その姿勢が影響してきますから。

青木:覚悟が足りずに判断ができない方もいます。

橋本:その場合、誰に判断を委ねるかは当たりをつけておくといいですね。組織図には載っていないけれど、決定権を握っている方がいらっしゃるケースは大いにあるので。

青木:ステークホルダーの見極めは最初が重要ですよね。

橋本:そうですね。ただ、経験が浅いと、コミュニケーションをとって言葉尻から責任者の姿勢を汲み取るのは難しいと思います。経験10年ある先輩のPMにキックオフだけ同席してもらって見極めるのもいいのではないでしょうか。先輩にいてもらうことで、先方に「今回のPMはジュニアクラスだけど、場合によってはシニアクラスのPMが前に出てくるな」と印象付けられるでしょう。その後のコミュニケーションがスムーズなものになることも期待できます。

——熱意や覚悟というワードが出てきました。相手のそれらをPMから盛り上げる工夫をすることはありますか?

青木:私は感情移入するのは20%に抑えて、80%はドライに接していますね。

橋本:私も敢えてドライな態度で接しています。それでも、たとえばプロジェクト初期の要件定義の資料なんかを読んでもらえれば、僕が寝ずに書いていることはわかると思うんです。熱意をもってプロジェクトに向き合っていることは、言葉にせずとも伝わるものだと考えています。

フィードバックは理由を明確に、期待を込めて

——プロジェクト進行をスムーズにするために仕掛けていることはありますか?

青木:信用を積み重ねておけば、いろんなことがやりやすくなりますよね。そして、PMに対するクライアントからの信用は、小さなことの積み重ねで成り立っています。時間を守るとか、言われたものをきちんと準備するとか、当たり前のことをしっかりと完遂する。そこで疑われてしまうと、他のこと全部に疑心を抱かれるかもしれません。

橋本:たった数分の遅刻でも、大きく信用を損ねます。特に事業会社が相手だと見過ごせない損失になると思います。就職氷河期の時代に、電車の遅延で2〜3分遅刻をしてしまって「お前とは仕事せん、帰れ」と言われたことがありました。今の時代にあっても、事業会社にはこの感覚が残っているのではないでしょうか。

——時には、メンバーへネガティブフィードバックをする必要が発生すると思います。うまく実施するコツや意識していることはありますか?(PM歴8年目)

青木:私はポスト的にそういった場面が多いですね。意識しているのは、人ではなく、事実・事象にフィードバックをすることですね。また、プロジェクトのゴールまでの時間は限られるので、プロジェクト観点でその人がどこまで改善できるかを見極めます。「できなかったら、他の人に交代する可能性もある」とプレッシャーをかけながらも、いかに早く・ベストなやり方でできるか?それが遂行できれば成長につながることも伝えるようにしていますし、「期待している」ということも伝えます。

橋本:ネガティブフィードバックってすごく苦手で……。なので、自分でメンバーを選べる場合は、その必要がない人選にしますね。ただ、100%完璧な人はもちろんいないので、なんらかの場面でネガティブフィードバックをすることにはなります。その際は、相手のスタイルや人格の話ではないことを示すために前置きをし、「プロジェクトにこういう影響があるから改善してほしい」と要望を言い、「これはあなたの成長に繋がるはず」と前向きな言葉も加えます。

相手がブリリアントジャーク(優秀な能力を保持しているが、周りに悪影響を与えてしまう人)の場合、僕はその人の生い立ちや経歴まで知ったうえで、なぜブリリアントジャークになってしまったのかを考えます。その人以上にその人のことを考えている自負があります。それだけ真剣に向き合っていれば、こちらの言葉も素直に受け入れてもらいやすくなります。

青木:あとは強い表現を使わないようにも意識していますね。怒ったら負けだと考えているんです。

橋本:PMってイライラしがちな仕事なので。「感情が先行して喋ってしまいそうだ」と感じたら、そのときはグッと堪えて、ロジックで話せる状態になってから相手のところへ行きます。人って、転落するときは大体失言がきっかけだと思っているので、言葉にはとにかく気を遣っていますね。

青木:そうですね。PM業では、言葉選びには特に気を付けないと。

橋本:いくら動機が正しくても、伝えている内容が素晴らしくても、表現がダメだと全部が台無しになります。

——PMとして、複数案件を並行してマネジメントすることもあると思います。スイッチコストはどのように対処していますか?(PM歴7年目)

橋本:案件はPMの稼働量に波があります。PMが一番頑張るべきはプロジェクト計画と要件定義のフェーズです。その大きな波をずらして進行すれば、複数案件も並行してできます。僕は多い時で7〜8件を担当してましたね。

ただ、波をあらかじめずらしていても、トラブルや見積もりとのズレの発生で、稼働の波が被ってしまうこともあります。そんなときは、メールの返信や、プロジェクト計画の設計などの種類の違う仕事を“三角食べ”のようにちょっとずつつまみぐいするスタイルでやっています。

青木:7〜8件はすごいな……。私は多くても4案件ですね。橋本さんのように波をずらしてスケジュールしていますね。それでも、工数がどこで跳ね上がるか不確定なことが多いので、極力前倒しでリスクヘッジしています。

——同時並行で管理していると、情報が混濁してしまわないのでしょうか?

橋本:考えないといけないことは全て資料に落とし込んでいるので、情報が混濁することはないですね。FigJamやMiroを活用し、案件にまつわるタスクは全てメモで可視化しています。頭の中のことを外にダウンロードする感覚です。そうすると、思考がすっきりします。同じことを何度も何度も考えるのって、ネガティブな影響があると思うんですね。なので、それをまず無くします。

青木:私は日常の中でもiPhoneのメモ帳アプリにタスクを落とす癖がついていますね。

橋本:メモ程度で十分だと思います。フォーマットへ起こす手間と、考える手間はイコールではないので。でも、FigJamは革命だと思いましたね。デジタルに落とす効率が格段によくなりました。


開発工程と技術者を知ってもらうことできちんと対価をいただく

——クライアントと工数認識の違いが生じた場合はどのように対処していますか?

青木:見積もりのタイミングでどのくらいかかるのか詳細に提示するよう心がけています。バック、フロント、レビューも含めて、各工程でどれだけ工数がかかるのかを見せることで理解につなげるんです。事後に、追加の要望で調整が必要になった場合でももちろん細かく説明をしますね。ITリテラシーの差があることを前提に、難易度もお伝えします。

橋本:僕も同じアプローチをとっていますね。クライアントは画面しか見ていないので、「ここを直して」というのが簡単にできるもんだ、と誤って考えているかもしれません。なので、相手のリテラシーによっては、見積もりの説明の際にMVCモデルを書いて、画面を変更することでデータベースやアプリケーションロジックも必要になるんですよ、と丁寧に説明することもあります。

大切なのは、「お金を払っていただいているのは、人の時間に対してなんですよ」というのを実感してもらうこと。値切り癖のあるクライアントもいらっしゃいますが、値切りは、「働いてくれている技術者に給料を払わない」と言っていることと同じですから。コンサルで入っているクライアントでは、懇切丁寧に説明しても値切りをしてくるような顧客と仕事をしている場合、「撤退しましょう」と伝えることもありますね。

キックオフで、クライアントと開発メンバーが顔を合わせることは、クライアントに「この人たちの給料を払っているんだ」と実感してもらう効果もあると思います。最近だと、すべてがリモートで進行することも少なくありませんから、なおさら、人に対してお金を払っている感覚が育まれにくいのかもしれませんね。それでも、最初の5分や喋っているときなどは必ずカメラをオンにするなどして、クライアントにメンバーを意識してもらうようにはしています。

青木:カメラのオン・オフなどをグランドルールであらかじめ加えておくといいですね。私はキックオフ資料に5つほどグランドルールを記載して、共通認識を最初の段階でつくるようにしています。

——値切りが稟議条件に入っている場合も多いかと思います。

橋本:そうですね。「値切りをいれないといけないので、それ前提で高めに算出してください」と事前に伝えてくれる担当者の方もいらっしゃいます。また、社内で「あの企業は一度値切らないと稟議が通らないよ」という情報が回ってくることもあるので、そういった企業に対してはバッファーを20%から50%に上げるなどの対応を行いますね。

青木:エンタープライズ企業に多い傾向ですね。大体、二段階で交渉が行われます。

橋本:商慣習なんでしょうね。これからも「人の時間に対して払っているお金なんですよ」ということは、丁寧に伝え続けて、変な商慣習をなくしていければと思います。

——そのバッファーはどのように設定しているのでしょうか?

橋本:意思決定をスムーズに行うクライアントであれば、20%。そうじゃないクライアントであれば工数が増えるので50%でしょうか。僕の経験則だと、たとえ開発がトラブルも少なく進行しても、結局20%分必要になることがほとんどですね。ごくごく稀にバッファーを残して完了した場合は、ドキュメンテーションやデザイン修正などに対応してクライアントに還元すると喜ばれます。

——開発メンバーから「見積もり時点の想定よりも実装の工数が超えそうです」と報告があった場合、どうされますか?

青木:あらかじめバッファーをとっておいて、融通が効くようにします。そのバッファーも超えるようなら、開発現場にもっと介入する必要がありますね。クライアントとのスケジュール調整も発生するかもしれないので、その用意にも取り掛かります。

橋本:なぜ想定よりかかっているのか、理由を聞いた上で見通しを確認します。見積もりは単なる見立てなので、その通りにいかないことは普通にあります。特に新しい技術を取り入れていると、見積もり通りはなかなか難しいでしょう。経歴20年を超えるエンジニアでも、「工数が想定以上になります」と報告してくることはあります。タスク一つひとつで判断せず、プロジェクトバッファーの全体がどんな配分になっているかを意識して考えることが大事ですね。

——全3回にわたって、経験に基づく貴重なお話をありがとうございました。

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