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笑顔だけが「いい写真」か。

 フォトグラファー・佐久間ナオヒトです。
 今日は僕が駆け出しのフォトグラファーだった頃の話です。
 もう10年以上前の話なのですが、これはいつの時代にも変わらないことだと思うので書いてみたいと思います。
 
 仕事上の写真に限定していうと、「いい写真」とは「必要に応じられる写真」のことだと思います。

 その企業は毎年株主向けに、年次報告書を作成していて、その報告書用の社長のポートレート撮影をご依頼いただきました。
 僕はテザー撮影(カメラとパソコンをケーブルで繋いで、すぐに写真がモニターに映し出されるように設定した方法)で、秘書や広報の方々と確認しつつ撮影を進めていました。
 今年で創立150周年を迎える大きな企業の社長です。社員だけでなく、株主からも信頼と安心を感じてもらえるような、そんな笑顔の写真を目指していました。
 そして狙い通りの写真が撮れたことをみんなで確認し、撮影は終了となりました。

 数日後に納品を済ませ、そのさらに数日後、今でも忘れられない経験をすることになりました。
 いつもご担当いただいているIR・広報部の女性から大変恐縮した口調の電話が。

 「他に写真はありませんか?」と。

 その年はリーマンショックという世界的な金融危機の翌年で、日本の多くの企業も景気がよくありませんでした。そのような世相で、「企業のトップが笑顔はいかがだろうか」と声が上がったそうです。
 
 結末としては、笑顔をおさめるまでに撮影した写真の中に、先方の望むものがあったので無事に成果物として納品させていただきました。

 が、この経験で強く感じたことは、撮影行為の外側で、フォトグラファーがしっかりと社会とつながっていることの重要性でした。
 自分が社会の真ん中を捉えているか、フォトグラファーである前に一人の社会人でいられるか、と強く自分に問いかける必要性を感じました。

 あの頃の僕がそれをできていたなら、現場で自ら提案や相談をすることができたかもしれないし、もっとスマートに進んでいたに違いありません。

 

 さてさて、ではプライベートワークにおいていい写真ってなんでしょうか。そんなことを考えながら、この写真集をご覧いただくのも面白いかもしれません。


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