【葛藤】リーダータイプではない人間が組織のトップに立つ方法

イノーバを創業して3年ほど経った時のこと。僕はある悩みに直面していた。その頃のイノーバは、組織が急拡大していて、社長である僕は組織のリーダーとして続々と増える社員を束ねなくてはいけない立場にあった。しかし、実は社長が初めてどころか、僕にはリーダーとしての経験がほとんどなかったのだ。さらに僕はもともと、多くの人をガンガン引っ張っていくようなリーダータイプの性格ではない。チームのリーダーもやったことがなかった僕が、今や社員40名ほどを抱える企業のトップにいる。しかし、ここに来るまでは色々な葛藤があった。

■悩んだ末にたどりついた、レベル5リーダーシップとは?

最初の頃は、自分がもっと強くなければ、大きな声で皆が熱狂するような喋りができないといけない、と思っていた。でも、それは本来の僕の性格とはかなりギャップがある。もし、リーダーっぽくできたとしても、それは本来の自分の姿ではない。更に、当時COOを務めていた女性が、まさに僕が思うリーダータイプで、典型的な明るいキャラクターだった。僕にない部分を補ってもらう意味でも彼女に助けてもらっていたが、本当は僕がこうあるべきなんじゃないかと思い悩んだりもした。

そんな風に色々と思い悩んだ結果、「とにかく自分らしく、強い意志と謙虚さを大切にしよう」という答えに辿り着いた。僕の考えを変えるきっかけになったのが、MBAの組織論の授業で学んだ「ビジョナリー・カンパニー2」(著:ジム・コリンズ)に出てくる、レベル5リーダーという概念だ。

(参考画像:https://leadership4sustainability.files.wordpress.com/2015/05/five-tier-leadership-hierarchy.png

この本では、伸びている会社に共通している項目を研究した結果、リーダーシップには5段階のフェーズがあることが分かったと書かれてる。その1番上であるレベル5リーダーは、「強い意思と謙虚さを兼ね合わせている」と書いてあった。その時は「そんなの当たり前じゃないか」と思った。今考えるとこの時の僕は、本当の意味でこの概念を理解していなかったと思う。

■必要なのは、強い意志と謙虚さのバランス

強い意志と謙虚さの両立は一見、当たり前で簡単そうに見えるが、この2つをバランスよく持ち合わせることは難しい。強い意志ばかりが暴走してしまうと「俺はなんでもできるぞ」という万能感にとらわれてしまう。社長だからって何でもできるということはあり得ないが、ここを間違えてしまう人もいる。

例えば若かりし頃のスティーブ・ジョブズはこのようなタイプだ。若いころは傲慢で自信家で嫌われていた彼も、Appleを追い出されるなどの挫折を経験して、人間として丸くなり、素晴らしい経営者として知られるようになった。

一方で、強い意志がない謙虚さは、卑屈や自分を正しく評価できない、ということになってしまう。そして実際に僕の周りでも、僕が心から尊敬する人はこの2つを兼ね備えている。

そのうちの一人が、イノーバの監査役をしていただいている、関榮一さんだ。関さんは、大手銀行で常務執行役員などを勤められたのち、楽天グループに入られている。同じ楽天にいたご縁もあって、イノーバの社外監査役として支えて頂いているが、輝かしい経歴をお持ちなのにも関わらず、全く偉ぶらない。会社が危なかった時に支えてくれたのも関さんだった。そんな心から信頼できる関さんの姿を見て、僕もそういう人間でありたいと心から思う。

■謙虚であることで得られるメリットとは?

そして謙虚であることには、いくつかメリットがある。まず僕にとって、「謙虚であること」と「自分らしくあれる」ことは非常に似ている。謙虚であることが、自分の性格にとても合っているので、無理して自分を大きくみせようとする必要もない。そして自分らしくいられると、本来の力を発揮しやすくなる。

次に、謙虚であれば逆境にも強くなれる。もし、自分はなんでもできるという意識が強ければ、挫折を味わった時に気持ちが簡単に折れてしまうだろう。でも、「絶対に成し遂げたいことがある。でも、自分一人ではできないんだ」という謙虚な気持ちを持っていれば、周りに「力を貸して欲しい」と言うことができる。実際に、僕はこの気持ちでやってきた。すると、関さんのような先輩方やイノーバに入社してくれた社員など、たくさんの人が集まってくれて、その力を貸りることができた。他の人を動かす時に、力で引っ張るのには限界があるだろう。「助けて欲しい、力になって欲しい」と素直に言える謙虚さは、その人の強みになるのだ。

■レベル5リーダーシップを学ぼう

会社という組織を軍隊に例えるなら、社長は常に最強の戦士である必要はない。皆のことをよく観察して、働きやすい環境を作る。社員がのびのびと成長でき、挑戦したいことがあれば、背中を押してあげる。自分が最強の戦士でいることより、こういった役割を果たすことの方が、僕にとっては重要だ。社長だけど、裏方で皆のことを支えていきたい、というのが僕の思いだ。

多くの人に共感してもらえるようなミッションや、強い意志がない企業は、絶対に大きくなれないだろう。そして金銭的な成功は、自然についてくるものであって、それ自体を目標にするべきではない。社長として、リーダーとして、高い目標を目指すのであれば、レベル5リーダーシップを学んで、強い意志や謙虚さを体現しよう。

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