![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/126298532/rectangle_large_type_2_9e6d11d3dc22e4c12bef69b9c397213e.png?width=800)
「祈り/彼らとの時間」
どこかでなにかが焼けたみたいな匂いがする。
薪なのか、餅なのか、石油なのか。
師走は必ず、なにかがどこかで燃えている。
一番暖かいセーターを
奥からひっぱり出して着る。
スーパーではペンギン型のカキ氷機がいつまでもワゴンに乗せられている。
(きっと目の上についた割引シールは
剥がすと後が残るだろう。)
あの子が居なくなったのは夏だったのに
思い出すのは毎年冬だったりする。
煙草が一番おいしかった日。
ちぐはぐで哀しいのにみんな元気でいて欲しい。
神様はわたしのお願いを叶えてくれなくて良い。
ただ海の真ん中で浮かんでいるわたしを
忘れないでいて欲しい。
話しかけてくれると尚、良い。
毎朝、同じマグカップにコーヒーを入れて。
お腹が空いてなくても焼いてしまう食パン。
いつもと同じ手順でお風呂に入り(頭から洗う)
似たような時間に眠る。
どんなに慎重に過ごしても昨日と今日は違う。
その当たり前を知る。
私は祈ることしかできない。
毎日、同じように過ごすことは祈り。
生活の時間に祈りは込められている。
イエスキリストが産まれて一夜明けた朝も
こんなに静かでなんでもない日の
始まりだったかな。
昨日の匂いがかすかに残る、寒い朝。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/126298684/picture_pc_e9f58d1074c1fdb710493747a4a61fbd.png?width=800)
私たちはききたい。
彼らが話すことを。
花瓶が、
置き時計が、
針山が、
指輪が、
プレパラートが。
積み上がらない過去。
忘れたことも忘れるような厖大な平凡の中で、
記憶を持っているのは彼らでしょう。
絵・なかやまほなみ(店主)
@nakayama.honami
言葉・タザワモエ(note:砂まじり)
細い道を歩いて角を曲がると、メモリー・シーという名前のお店がありました。
どこで生まれたのか、
最初の持ち主は誰なのか、
いくつの名前と、
思い出も持って、
店主はちぐはぐな彼らを愛していました。
ある年の12月、わたしはメモリー・シーに言葉を贈りました。
そこにいたこと。
彼らがわたしたちよりも覚えているということ。
祈りを込めて。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?