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ポートランドを知らずして、田舎のまちづくりは語れないーはみ出し者が集まるまちが全米一位になった理由

「田舎のまちづくりを語る以上、ポートランドは外せない」―

2010年以降、まちづくりの文脈でポートランドの名前を聞くことが増えていました。

ポートランドは、ニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコなど…世界中から人が集まるような大都市ではありません。誰もが憧れるような街並みも、「死ぬまでに一度は見てみたい!」と思うような絶景が有名なわけでもありません。

それでも、この「田舎まち」に世界が注目している理由とは?

本日は、地方創生を考える人なら絶対に知っておきたい「ポートランド」をご紹介します。


実は「全米一位」。ポートランドとはどんな場所なのか?

ポートランドは、アメリカ・オレゴン州にある都市です。人口は約62万人。これはだいたい、千葉県の船橋市や鹿児島県の鹿児島市と同じくらいの規模感です。

平均年収は、アメリカ全体平均より少し少ないくらい。中の中から中の下くらいのイメージでしょうか。

これだけ聞けば、あまり「パッとしない」印象を抱くかもしれません。

しかし、ポートランドは、2013年にアメリカのベストシティランキングで1位になった他、様々な「住みたい街ランキング」でも上位ランクの常連です。世界中から移住者が集まり、多い時には週に数百人が移住してくるともあったそうです。

ポートランドが特に注目されはじめたのは、リーマンショック以降。長引く不況の中で衰退していく都市も多い中、不景気の影響を大きく受けず、地域経済を発展させながら、人口も増やしていきました。

・住みたいまちランキング 全米1位
・ブルワリー(ビール醸造所)が多い街 世界1位
・自転車にやさしい街 全米1位

など、様々なランキングで1位を獲得しており、これ以外にも「環境にやさしいまち」「食のまち」「アートのまち」など、独特の文化と個性が際立っています。

そしてこの「ポートランドらしさ」とも言うべきまちの特徴が、つくろうとしてつくられてきたことも、注目すべき点です。

行政と住民がとてもうまく連携しており、綿密に設計されていながら、住民の自主性に委ねられて発展している、世界的に見ても珍しいまちづくりの事例です。

「歩いて楽しいまち」ー徒歩20分圏内のエリアを複数点在させる

ポートランドは、「時代錯誤のまち」とも言われています。なぜなら、自動車交通を抑制したから。国をあげての高速道路事業に反対し、一度開通した道路を撤去した歴史もあります。

まちには自動車ではなく、公共交通機関と自転車がたくさん走っています。

一般的に、人口60万人程度の規模の都市は、車がないと生活がしづらいものです。例に挙げた船橋市や鹿児島市をイメージしてもらうと分かりやすいと思います。

ところがポートランドの場合、中堅地方都市でありながら、公共交通機関がしっかりと整備されているおり、多くの人が利用しています。また、道路には自転車専用レーンもあり、電車やバスにも自転車をそのまま積み込めます。

車を使わなくても快適に過ごせるのは、まちが小さく保たれているから。

ポートランドでは、一つひとつのエリアが「徒歩20分圏内」に収まるようにデザインされています。徒歩20分での範囲で「働く」「遊ぶ」「住む」が完結するようになっているのです。

人は20分以上の距離は歩きたくないし、それ以下の距離だとつまらなく感じるという考え方で、意図的に一区画をコンパクトにまとめてあるのです。

この考え方は、僕のnoteでも度々紹介している「半径200mのまちづくり」とも似ています。

ポートランドはまさに「歩いてたのしいまち」。まちのサイズを小さく保つ以外にもさまざまな工夫がされています。

例えば、歩行者の目に入りやすい低層階のデザインに細やかなガイドラインが設けられており、ガラス張りで店内の様子が見えやすくなっていたり、看板や壁の質感が統一されていたりして、まちを歩いているだけで「ポートランドらしさ」を感じることができます。

また、ゆったりとした歩道には個性的な立て看板や、店舗のベンチなどが並び、道と店の境界が曖昧に設計されています。歩きながら、ちょっと気になるお店を見つけて入るという動線もスムーズです。

車社会のアメリカでも、人が歩きたくなる街や通りは人気が高くなり、そこに住みたいという評価も高まることで、地価にも影響すると言われています。

そうした「徒歩20分圏内のエリア」がポートランド市内に複数点在しており、それぞれのエリアは公共交通機関でつながれています。エリアとエリアは、車で15分くらいの距離感です。

日本の中堅地方都市であれば、駅前の一角だけはお店も人も多いけれど、少し離れれば何もない、という場所が多いですが、ポートランドは小さいけれど盛り上がっているエリアが市内にいくつもある、というわけです。

代表的なエリアとしては、

ダウンタウン
パール
ノースミシシッピ
ノースウィリアムズ
ノブヒル
アルバータ
ロイド

などがあります。

それぞれのエリアに個性があり、例えば新宿2丁目のような雰囲気のところもあれば、高円寺のようなところもあります。エリアごとにその中での暮らし方やライフスタイルがあるのです。

朝は自転車での通勤途中に地元のオーナーが焙煎したコーヒーを飲み、昼は職場の近くのキッチンカーでランチを買い、夜は地元の食材とお気に入りのクラフトビールを買って帰り、家で家族と食べる…。

少しまちを歩いているだけでも、そんな暮らしがありありと感じられます。

ちなみに、ポートランドは、アメリカではじめて地球温暖化に対する政策を打ち出した都市でもあります。

自動車交通を抑制した都市計画や、その他の環境に配慮した様々な取り組みによって、1990年から2013年の間に、二酸化炭素の排出量は14%減。一方で、同期間のGDPは300%以上増加しています。

人口と経済を伸ばしつつ都市圏の二酸化炭素排出量を削減し続けている、貴重な事例です。

「はみ出しものが集まるまち」ーリベラルカルチャーの発信地

ポートランドには、まちのいたるところにパブリックアートがあります。小さなまちの中にアートギャラリーが数十軒あったり、アートイベントにたくさんの人が参加していたり……。日本の同規模の地方都市ではまず見られないような光景が広がっています。

見て楽しむアートだけではなく、音楽も有名です。ポートランドはインディース音楽のメッカであり、ライブハウスやクラブもたくさんあります。ロック、カントリー、ヒップホップ、R&B、ジャズ…などジャンルを問わず様々な音楽を楽しむことができ、人々の生活と音楽が当たり前につながっています。

さらに、道行く人のファッションも個性的です。ただし、ヨーロッパのようなハイエンドで洗練されたファッションではありません。あくまでカジュアルなのですが、それぞれにオシャレを楽しんでいる様子がよく伝わってきます。

タトゥーをしている人も多く、それがまた、ポートランドのアーティスティックな感じととてもよく似合っています。

アート、音楽、ファッション……など、地方の小さなまちとは思えないほど文化レベルが高いのがポートランドの特徴ですが、こうした文化が築かれてきた背景の一つに、まちの歴史があります。

ポートランドを開拓したのは、欧州のカトリック教徒から迫害を受けてアメリカへ渡ってきた人たち。つまり、既成の階級制度や厳格な支配体制などから逃れ、自由を求めてやってきた人たちがつくったまちなのです。

開拓後も造船業以外で目立った産業がなく、就労のために外から入って来る人も少なかったそうです。結果的に、開拓当時のリベラルな価値観が受け継がれ、またそこに惹かれた人たちが集まってきて、独自の価値観と文化が醸成されていったと言えるのではないでしょうか。

ゲイをはじめLGBTの人たちも多く、またそれが当たり前に受け入れられていいるようです。ゲイバーなどもあちこちにあり、かなり盛り上がっています。

ポートランドでは、まちのスローガン的な言葉として

Keep Portland Wired.
―ポートランドは、変わり者のままでいよう!

という言葉が掲げられています。

個性、創造性、価値観、ライフスタイルなど、既存の常識に囚われない人たちが集まるまち、ポートランド。自分らしくあること、ポートランドらしくあることを誇りに思っていることがよく表されています。

僕は良い意味で、ポートランドは「はみ出し者が集まるまち」だなと思っています。

***

さて、そして先日、実際にそんなポートランドに視察に行ってきました。まち歩きから読み取れたポートランドのまちづくり戦略を、次回のnoteにてご紹介します。

お楽しみに!

<参考図書>

株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔

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