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#5 ホワイト企業に入社したのに、パワハラでうつ病になった新入社員のおはなし

前回のnoteはこちらから。

黙っているしかない、でも、忘れられない

別の上司のもとへ移ることが決まり、一時的にハラスメントの呪縛から解放されることになりました。

うつ病の症状は以前と比べ落ち着いたものの、
「あのときもっと言い返したかった」
「やりたい仕事のために我慢して耐えてきたのに」
「私みたいな無能が新しい仕事ができるわけない」

と不安や後悔に苛まされ、まともに仕事ができる状態ではありませんでした。

それまでされてきたことを思い出し、仕事中に泣き出してトイレにこもることしばしばありました。あまりにも人間不信になり、会社で顔を上げて挨拶したり、笑うことができなくなってしまう程でした。

久々に会った友達には「やせすぎて驚いた」「顔に生気がなくて以前のあなたではないみたい」と言われていました。

「辛かっただろうけど、時間がたてば忘れるよ。前を向いて生きていこう」
「憎んでも何にもならない。あの人たちにはいつか罰が当たるから。早く次の人生に踏み出さなきゃ」

ありがたいとは思いつつ、当時の私は非常に心が弱っていて、素直に言葉を受け取ることができませんでした。言ってることは正しいとわかっていても、あまりにも理想論すぎて、そうできない自分に嫌気が差して、言われる度に傷ついていたのです。

「お前らはあの苦しみを味わったことがないから、そんなことが言えるんだ」と言いたい気持ちをぐっとこらえるのが精一杯でした。心配してくれている相手を傷つけ返すことはしてはいけないと、ぎりぎり残った理性で分かっていたから。

本当は彼らが言いたいことは分かってる、私だって忘れたい、でも忘れられない。何度も夢に出てくる、仕事するのが怖い、会社の人たちがみんな怖い。
あいつらは何の罰もなく、今頃忘れて仕事して普通に生活してる。私だけが傷ついて全てを失ったのに…思い出すだけで悔しさで涙が出てくる…

そんな思いを抱えながら会社に行くのは、相変わらず地獄のような日々でした。会社では誰にも本当の事情や私の心情を話せず、黙々と、淡々と、やりたくもない仕事をやり続けていました。

漠然と転職を考えるものの、「こんな自分が他でうまくいくわけない」と自信を失っており、転職する勇気もなく、何のために生きているのか分からなくなりました。


こころの病気は、簡単には治らない

それからずっと、良くなっては悪くなっての繰り返し、精神科に通い、「双極性障害」の傾向があると診断されました。

ハイテンションで活動的な躁状態と、憂鬱で無気力なうつ状態を繰り返す。顕著な躁状態になると自尊心が大きくなり、周囲とのトラブルに発展してしまうこともある。反対にうつ状態では、死にたくなるほどの重苦しい気分に押しつぶされそうになる

私が学生の頃、先に社会人になった先輩や友人たちが、次々にハラスメントにあい転職や休職をしている話を聞いていました。

彼らの話を聞いて、自分は絶対にパワハラやセクハラで人を潰さない、働きやすい会社に入るのだと胸に誓って、今の会社を選びました。

まさか自分の身にも同じことが起きるなんて。まさか三年どころか、一年も持たないなんて


「自分の身には起こらないだろう」と無意識に信じて疑っていなかったのです。なかなか自分の状況がおかしいと気が付かなかった原因の一つに、自分の選択が間違っていたことを認めたくない気持ちがあったからだと思います。

正常性バイアス…「正常化の偏見」と呼ばれる心理学用語の一つで、予期しない事態に対峙した際に、「ありえない」「考えたくない」という心理状況に陥りやすい人間の特性のこと。自分は大丈夫だろうと思い込み、危機的な状況から逃げ遅れてしまう。

転職がどれほどの苦痛の末に下された結論なのか、なぜ言い返したり会社相手に闘うことを選択する人が少ないのか

経験して初めて理解できました。会社が被害者の味方にはなってくれることは非常に稀です。ただでさえ精神的攻撃を繰り返しうけて傷ついている状態で、告発して闘うことは苦しくて辛い、余計傷つけられる。

諦めたほうが傷が浅くてすむ、これ以上加害者たちに関わりたくない…今なら痛いほど理解できます。

早く逃げたい、一秒たりとも会社にいたくない。でもコロナ禍の中、転職も怖い、仕事はやめられない…

時間が経つにつれて、少しずつ傷は癒えていきました。しかし、日に日にある思いが脳内を支配するようになります。

「このまま全てを忘れて生きていけるのか、会社の理不尽を放置して逃げていいのか」と。
#6に続きます。


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