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「citrus+」JULY1st感想 ~君は必殺のジャブを受けたことはあるか~

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 2020年10月16日、はるまつ村を激震が襲う。

 コミック百合姫12月号発売を告知するサブロウタ先生のツイート。そこに映し出されていた「citrus+」の表紙には、至近距離でつかみ合うはるみとまつりの姿があった。

まつりが原因の一端で柚子が怪我をして以来、まつりは学校を休み続けていた。まつりの自責の念に気づかなかった柚子は謝りに行くと言うが、謝られると辛いだろうとはるみはまつりの気持ちを思いやる。そんなはるみに芽衣は「会いに行く適任者はあなたかもしれない」と告げる。はるみは悩んだ末、まつりに会いに行くことを決め…。
(コミック百合姫12月号 citrus+あらすじより引用)

 前回の引きからこれまでにないはるまつ回の到来を確信し、発売日までの一ヶ月間を期待に胸を膨らませながら過ごしていた。
 そこに投下された超弩級のはるまつ。
 はるまつ村の民は歓声を上げた。

 至近距離まで顔を近付けながら、にらみ合い、取っ組み合いのように互いを掴み合う手と手。
 さらにアオリ文の「本音の届く距離で」
 はるみもまつりも滅多に本音を明かさず、壁を作って本心を隠すタイプであり、はるみとまつりが出会ったばかりの頃のエピソード無印3巻描き下ろし「まつりとはるみん」ではまつりがはるみの壁の内側を暴こうとしてケンカする場面が描かれているが、そんな二人がついにこれまで足を踏みいれてこなかった領域に入ろうとする。

 期待は最高潮に達していた。

 そして迎えた翌17日。コミック百合姫12月号発売日。
 興奮に震える手を抑えながら、真っ先に「citsu+」の掲載頁を開いた――

(以下ネタバレを含みます)









 ギャル衣装に身を包み、学校か柚子に教えられたのかスマホの情報を頼りにまつりの自宅を訪れたはるみ。そこはホテルと見紛うほどの高層マンションだった。当然エントランスはオートロック完備。両親共に仕事が恋人だと言われるほど多忙であり、良家の子女が多く通う藍原学院に娘を通わせられるくらいなのだから、実は水沢家もかなり裕福なご家庭なのでは……?

 「友だち」ではなくあえて「知り合い」を自称するはるみ。「学校の先輩」とは言わないあたりがはるまつの微妙な距離感を表していますね。友達というほど近いわけではないけれど、ただの先輩後輩というほど世間一般的な間柄とも言いにくい。結果選んだのが「知り合い」というのも、見舞いに来るにはやや遠いような気がするけれど、互いを知っているという意味ではあながち間違いでは無いのかもしれない。
 元々柚子を介して知り合った二人は「柚子お姉ちゃんの友達」「ユズっちの幼馴染み」という柚子を間に挟んでの関係性でしかなかったわけだけれど、こうして二人を直接つなぐ名前が付くというのは、はるまつがこれまで歩んできた道程の中で得たものの一つなのだと思います。

 お土産がどら焼きというのがおばあちゃんっ子なはるみらしい。紙袋の「サブロウ堂」やcitrusのマークのような細かい芸がいいですね。

 インターホンを無言で切られ、やはり拒絶されたか……いや、子どもがドアから出てきたのでなるほど、その隙に入るんだな! と思いきやその幼稚園児ほどの男の子がはるみに近付いてきて、発した台詞が「みずさわです」 ……は?

 はいいいいいいいいいいぃぃぃっっっ!!?????

 えっ、ちょっまっ、みずさわ!? って、あの水沢!?? 水沢まつり!!?

 驚き、混乱している間に閉まるドア。「……おねえちゃんがかえってくるまでいっしょでいいですか?」って、やっぱりまつりの弟ぉぉぉぉぉッッ!!!!!?????? 弟いたの!!!!?? あれだけ「妹」キャラでいたのに実は「姉」だったの!!!!???????

 扉絵や単行本2巻通常版のはるまつツーショットですら激震に襲われるはるまつ村に、こんな、核弾頭級の展開が投下されたアアアァァァァッッッッッ!!!!!

(阿鼻叫喚)
(混乱。そして大混乱)

 案の定、他のはるまつの民もこれまで一切触れられてこなかった弟の登場によって混乱の渦に陥っており、親戚説、養子説、近所の子説など本当に実の弟か? という疑いすら持たれる始末。個人的にはここであえてまつりの家族構成に複雑な要素を入れる意味は無いわけなので、素直に実の弟と受け取って構わないのではないかと思います。初対面のはるみに「ちぢんだ?」と思わせたり、はるみのおっぱいに興味津々で「お前もか?」と複雑な表情をさせたりと、まつりを彷彿とさせる面もいくつもあり、まつり自身「ひとの弟」とはっきり言っているわけですし。

 しかしこれまではるみもまつりも「妹」同士とされてきたはるまつ観を大きく転換させなければならなくなりました。「妹」であるはずのまつりが実は「姉」だった。考察を深めるのはこれからですが、これはこれでエモい……

 ただ一つ気になるのが柚子は弟の存在を知らなかったのかという点ですが、服装から幼稚園児だと仮定すると年齢は推定4~5才。まつりが高校1年生15才なので、弟が生まれたのはおよそ小学校高学年の頃でしょう。無印3巻でまつりと柚子が再会するまで、いつから会っていなかったのか明記はされていませんが、柚子が中学生の時までは一緒にいたことはこれまでも何度か描写されているので、弟が生まれたのはほぼ同時期か柚子が引っ越した直後と考えられます。とするとまつりが自分から話さない限り柚子が弟の存在を知らないのも決して不自然ではないでしょう。特にまつりは柚子を「姉」として慕い、自分以外の「妹」(芽衣)に最初は強い敵対心を抱いていたことからも、自分が「姉」になったことを積極的に言おうとはしないのではないでしょうか。むしろ弟の存在はまつりにとって必ずしも喜ばしいものではなかったのかもしれません。
 「お留守番のときはどんな人が来ても外に出ちゃダメ」と弟=いのりを叱る様子からも「姉」としての責務を果たしているようですが、柚子達と遊んでいる時のような明るさはなく、弟の前では素の姿を出すことが出来ないでいるよう。
 しかも、プライベートをはるみに見せることをよしとしないまつりは当然はるみを追い返そうとし、はるみも大人しく引き下がろうとするが、いのりが口にした「やくそく」という言葉によって結果、はるみはまつりの家に上がることになる。恐らく普段から「約束は守らないといけない」と教えており、そんな弟の目の前で約束を破ることはできないと判断してはるみを家の中に入れたのでしょう。そこからもまつりが弟にとって「良い姉」をしていることが窺い知れます。

 そしてこの同じ方向を向きながら「……したんですか?」「……した」のやり取り。いのりの言う「やくそく」が本当かどうか(少なくともどら焼きを食べるという話はしたはず)を探り合うこの視線を合わせないやり取りに、互いに腹の内を見せようとしないはるまつらしさが満ちています。じゃれ合うはるまつも良きですが、こういう少ない言葉でも互いに十分理解できているはるまつが最高。

 家に上がってから表情を見せないまつり。対してお客さんであるはるみのために重い牛乳を頑張って持って自分で淹れてあげるいのりが本当に良い子! ちっちゃいお口でどら焼きにかじりつく小動物のような姿に戸惑いの表情を見せるはるみの中ではきっと、「まつりの弟」というイメージと目の前の光景にギャップを感じているのでしょう。そう考えると確かにいのりが実の弟ではないと疑いたくなる気持ちも分かります。

 そして、ついに、まつりの部屋へ……! というところで次回に続く。ラストのまつりの表情はまさに無。何も読み取らせようとはしない、これまでで一番分厚い壁が張り巡らされているようで……

 出会った時から警戒心と壁を隠そうともせず、一緒に遊ぶようになったり柚子と芽衣のために協力したりと距離が近づいたように見えながらも、なかなか本心は見せずにいたふたりがついに正面からぶつかることになるというはるまつの民待望の展開で最大級の期待をしていたはるまつの民を待ち受けていたのは、扉絵から弟の登場という大衝撃の連続。しかも必殺のパンチを立て続けに食らい既に満身創痍だというのに、まだ導入のジャブに過ぎないなんて一体誰が予想し得たでしょうか? 今からこれでは次回以降、どうなってしまうというのだ……いっそひと思いにトドメを刺してくれ。

 さらなるはるまつ過剰摂取に恐れ戦きながら、次号を待ちます。

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