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運命の人。

「私はきっとこの人と結婚する。」
16歳の夏。私はそう直感した。
女子校に通う私は同じ街の男子校に通うある人に恋をした。

1学期の期末テストが終わった7月のある日。
その街の中高一貫校へ通う生徒たちのたまり場になっているとある場所へと友達と出掛けた。

制服を着た男子学生のなかに水色のチャックシャツを着た金髪で長髪、日に焼けた顔、
いかにもチャラチャラした風貌の彼がいた。

彼を見た瞬間に私の胸は高鳴った。
生まれて初めての一目惚れだった。
しかし制服を着ていない彼は大学生だし手の届かない存在だと思った。
私は遠くからずっと彼を見つめていた。

後に大学生だと思っていた彼が実は男子校に通う同級生だとわかった。

そして私の恋は静かに動き出した。
夏休み前に16歳になる私の誕生日会に友人たちが彼を呼んでくれたのだ。
そこで私たちは初めてお互いを知った。
近くで見る彼の横顔は線香花火のせいかとてもキラキラしていて美しかった。
ドキドキしてろくに話もできない私だったけれど、
帰り道が一緒だという偶然は私たちを近づけてくれた。

そこからの2週間余りは毎日のように電話をした。
学校帰りは一緒に帰ったり、
友達と大勢でカラオケやボーリングをしたり。
私が誘った花火大会へ行ったり。
毎日毎日彼のことを考えた。
着信音が鳴るとドキドキしながら画面を見た。

彼は奥手だよ。とみんなが言っていた。
私は自分でも不思議なくらい積極的に彼にアプローチした。
他の女の子に渡したくない。
この人とずっと一緒にいたい。
ただその一心だった。
そんな風に思った人はたった1人彼だけだった。
駆け引きという言葉はその頃の私にはなく
ただ真っ直ぐに彼を思っていた。

8月に入ってすぐに私たちは付き合うことになった。
なかなか進まない私たちの関係をみて友達が間に入ってくれたのだ。

電話で好きって言おうと決めたけれど、いざ彼の声を聞くと恥ずかしすぎて言えなかった。
そのとき一緒にいた彼の友達に私の告白を伝えてもらった。

電話口に戻ってきた彼の一言目は
「これからよろしくお願いします。」だった。
照れ屋の彼にはそれが精一杯だったらしい。
私たちは正式にお付き合いをすることになった。
正直付き合うときの形やきっかけは何だっていい。
ゴールではなくスタートだから。
絶対にこの人と付き合いたい!と強く願った私の思いは彼に伝わり見事に成就した。

それからは毎日がドキドキと大好きの連続だった。
彼を想うと食事が喉を通らなかった。
デートで食べるハンバーガーはできれば小さいものがいいと思った。
ただその一方で、彼の前では自分を偽ることはしなかった。
それ以前は好きなアイスクリームは抹茶なのにストロベリーといってみたり、
デートでクレープを食べるときはホイップいっぱいの可愛いものを頼んで気持ち悪くなったり。
そんな自分を演じていたけどその必要はなかった。

私は彼が自分のことを好きだという自信だけはあった。
好きだという自信。というと少し驕っているようにも聞こえるが実際には
自分のことを大切に思ってくれている。
という自信。
これは恋愛においても結婚生活においてもとても重要なたった一つ見過ごしてはならないものではないかと思う。

私たちはどこにでもいる普通の高校生カップルだった。
カラオケに行ったり満喫に行ったり。
買い物をしたりお散歩をしたり。
放課後は一緒に帰ったし、朝まで電話もしたし、授業中には先生の目を盗んでメールもした。
電車を何本もやり過ごして少しでも長く一緒にいたかった。

彼を知れば知るほど好きだと思ったし、
嫌いなところは何もなかった。

しかし別れは突然やってきた。
付き合って半年を少し過ぎた頃から段々彼の態度が変わってきた。
電話が少し短くなった。
毎日のように会っていた放課後も用事があるからとすっぽかされた。
あきらかに私からの別れを待っていた。
でも私は言わなかった。
それでも一緒にいたいと思っていた。
ついにある日の電話で「別れよう」と言われた。

次の日私は学校を休んだ。

彼が好きだった歌を聴いて泣いた。
彼と行った場所を通れば泣いた。
友達に別れ話をして泣いた。
ご飯を食べながら泣いた。
恋愛映画を観て泣いた。

別れたあとも彼は電話には出てくれた。
「ちゃんとご飯は食べろよ」
「学校はちゃんと行かないとダメだよ」
などと優しく言われたけれど、その優しさがなんだか寂しく感じて泣いた。

そのうち彼も段々電話に出てくれなくなった。
そして私たちは疎遠になっていった。
でも私は彼を忘れられなかった。
共通の友達が大勢いる中で彼の情報はすぐに耳に入ってきた。
あの子と遊びに行ったらしいよ。
あの子は好きらしいよ。
あの子と付き合ったらしいよ。
あの子と別れたらしいよ。

私は前に進めなかった。
進めないのではなく進まなかった。
1年半の間、他の誰とデートをしても付き合うことはしなかった。
それは彼と戻ったときに付き合ったときのままの自分でいたかったから。
彼にずっと変わらずあなたを想っているよと伝えたかった。
そのときは真っ直ぐに芯を貫きたかった。
いつかまた私と彼は一緒になるときが来る。となぜかずっと感じていた。

そしてまた私たちは最接近することとなる。
友達同士が付き合い始めたことをきっかけに何ヶ月かぶりに彼に会った。
久しぶりに会った彼は何も変わっていなくて
私の好きだった彼がそこにいた。

亭主関白なくせに寂しがりやなところ。
消して人の悪口は言わないのに悪ぶっているところ。
自分は学校をサボるしタバコも吸うのに私には絶対させないところ。
友達も家族も飼い犬も大切にしているところ。

また私たちはそれから少しずつ会うようになった。
放課後も待ち合わせをして一緒に帰った。
ただ付き合ってはいなかった。
それでも私はよかった。ただ一緒にいたかったから。

そんな関係が半年くらい続いた頃、
学校で友達から私の噂を聞いた。
私たちの関係を揶揄するようなものだった。
みんなそんなふうに思ってたんだ。とショックだった。
彼に伝えた。
どう思って彼に伝えたのか今はもう覚えていないけれど何気なしに今日こんなことがあったんだー。と。
すると彼は私にこう言った。
「ちゃんと付き合おう」

そういうところが好きだと思った。

そこからは以前の付き合いよりも私が私でいられた。
大きなハンバーガーでも恥ずかしがらずに食べられるようになった。
大好きだという気持ちはずーっと変わらなかった。

高校を卒業すると彼の環境は目まぐるしく変わっていった。
しかし物理的な距離が離れても心の距離を感じたことはなかった。

「俺と結婚してください」
奥手だった彼が言ってくれた。
出会いから15年が経っていた。

あの恋はあの恋のまま
私にぴったりと寄り添っている。

日常の中、ある瞬間にあの切ないまでの好きの気持ちを思い出す。
恋愛漫画を読んだとき、
一緒に聞いた歌が流れたとき、
寄り道したあの街並みを歩くとき。
私たちはいつでも16才のあの頃に戻ることができる。
尊くて純粋で熱かった。

好きで好きで胸が張り裂けそうなあの恋を
想うとき
私はいつだって目頭が熱くなる。
そうだ。
きっと私は今も彼に恋をしている。

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