見出し画像

ミロンガの壁の花期を超えて学んだ事

タンゴを踊りに行くミロンガという場所は、時にとても残酷だ。入場料を払って会場の中に入っても、全く踊れない日というのがある。踊れない、というのは誘ってもらえないことを指すし、時には踊る相手がいないということも指す。

タンゴの聖地ブエノスアイレスのミロンガに、私たち外国人が行く場合、まずはフロアに出るのが最初のハードルだ。誰も知る人がいない場所にポツンと行ってしまうと、なかなか誘ってはもらえない。男性は相手の踊りがどのレベルなのか分からないと誘うに誘えず、まずは品定めをしているものなのだ。逆にいうとわたし達はどの程度踊れるのかを見てもらう必要があるのだが、うまく相手を選ばないと、振り回されて恥ずかしいことになる可能性もある。新顔専科の猛獣もいるので注意が必要なのだ。そんな訳で最初の1曲は重要で慎重を要す。現地の人と行って、程よい相手を紹介してもらうのが一番の成功法と言えるだろう。

さて、そこそこ踊れるというのが周知の事実となると、その後の一定期間は入れ食い状態というのを味わう。一般的にアジアの女性はきちんと基礎から習っているし、性格的に従順で、正確にフォローできる(男性のリードの通りに踊れる)為、踊る相手として人気が高いというのが第一の理由。次に、ミロンガはタンゴの先生、タクシーダンサー(ミロンガでダンスのお相手をする職業)だらけなので、見込み客である新顔の外国人には、営業目的のお誘いも絶えないというのが第二の理由。だから最初のうちは、結構誘ってもらえて楽しいミロンガライフが送れる。タンゴ留学でも短期の場合はこの楽しい期間のうちに終了できてよろしいかと思う。

しかし長期で住むとなると話は変わってくる。男性にとっては目新しさもなく、生徒にも客にもならないのが判明した、まあまあの踊りの女性を誘う旨味はがくりと落ちる。毎晩足が痛くなるまで踊っていたのが嘘みたいに、ほんの数タンダだけしか踊れない時期がやってくる。前に踊ってくれた人が、今日はチラリとも見てくれない。ということが起きてくるのだ。
このガッカリな壁の花期に、体制を立て直さないと楽しいミロンガライフは手に入らない。悔し涙を噛み締めじっくり観察してみると、踊りが上手いだけがよく誘われる理由じゃないみたいだった。

画像1

とりあえず基本は踊り。猛烈にクラスに通い、同時に質問した。「どんな相手が踊りたくなる相手なのか?」という超ストレートな質問に困惑する人も多かったけど、親切に教えてくれた先生やダンスの相手もいた。今思うと超恥ずかしい。
最終的に、テクニックの問題ではなく寄り添い感の方が重要っぽいということが分かった。最低限物理的に重くない。その上で音楽性が同質だとか、僕のリードに耳を傾けてくれるとか、そんな部分に好感を持つ男性が多いみたいだ。その頃は全然理解できなかったけれど、アブラッソ(抱擁)がいいこと、と多くの人が口にしていた。

同時期に気づいたのが、ミロンガはコミュニティでもあり挨拶と知り合い作りが大切なのだということだ。踊りの好みとは別に、知り合いだから踊るという相手がみんないるのだ。そしてそのプライオリティは結構高い。

よく見るとみんな大体踊る相手のローテーションが決まってるみたいだ。それぞれ踊る相手リストを自分の中に持っている。それは回転寿司のネタ選びみたい。大好きネタ(踊りの相性がいい相手)と、定番アイテム(友だち)、そして季節の旬ネタ(新顔・外国人)みたいな感じ。食べれる分量は決まっているから、自分でいい具合に組み立てて満足な夜に仕上げていくのだ。大好きネタが入荷していないような日は、普段食べないネタも久しぶりにつまもうかな、みたいな気になったりするよね。ミロンガが空いている日に、それまで見向きもしてくれなかった人が、急に誘ってきたりするのは、そんな具合なんだと思う。

ご挨拶を欠かさず、知り合いも増えてきたら、誘ってもらえる機会も増えてきた。いつの間にか、わたしもショーケースでお呼びを待つ不人気ネタから、自分で組み合わせを楽しむ側に。昔ほど食べられないのと同様に、一晩中踊り続ける体力もない。いつしかわたしも『アブラッソが合う相手がいい』とか言い出して、量より質が大事になると、フロアには沢山の人がひしめき合っているのに、踊りたい相手の選択肢というのは狭くなっていく。これはこれでちょっと複雑な気分。

タンゴというのは一人では踊れないので、どの段階でも誰と踊るか問題は果てしなく続いていくみたいだ。

それはタンゴ界のサラブレッドちゃん達にも起きたりする。彼女達はいわば歌舞伎界の子供みたいなもので、幼少期からミロンガで踊り始めた羨ましいタンゴ女子。外国人ミロンゲーラとサラブレッドちゃん達のミロンガ観の相違と類似点は面白いと思うので以下YouTube、オススメです。

こちらの動画は、現在存続の危機にあるブエノスアイレスのミロンガ支援活動の一環として無料配信されています。ミロンガの魅力に共感してくださり、そしてご支援の気持ちを頂けましたらとても嬉しいです。ありがとうございます。


この記事が参加している募集

#一度は行きたいあの場所

52,605件

読んでくださり、ありがとうございます。 サポートのお気持ちとても嬉しいです。ありがたく受け取らせていただきます。感謝💕