見出し画像

アスペルガー症候群の娘と母の濃密な12年 『平行世界』 蕭美玲監督

山形国際ドキュメンタリー映画祭2023の「アジア千波万波部門」で上映された蕭美玲(シャオ・メイリン)監督の「平行世界」。日本監督協会賞を受賞した力作。すみれとエツオが鑑賞直後の感想を語ります。

エツオ:どうだったかな。

すみれ:いやぁ、すごい。3時間の映画とは思えないほど、よくまとまってて、すごかった。いい映画だったと思う。強く人に勧められるし、どこかの映画館で上映されるんじゃないかな。

エツオ:これはどこかでかかるだろうね。

すみれ:上映後のQ&Aで監督が、自分の感情を抑えるために映像を撮っていたといっていたけど、自分を客観的に見るためという意味もあったことが分かる作品だった。(監督の娘の)エロディはフランスに留学したんだよね。

エツオ:中学までは台湾の学校に行っていたんだけど、中学校に馴染めなかったんだよね。友達もいなくて。どっちから言い出したのかはわからないけど、自立の仕方を学ばなきゃいけないということで、中学校を卒業したら、エロディの父親が住んでいるフランスに行ったんだよね。

すみれ:母親からすると、自分が亡くなったあとの娘が心配ということだね。

エツオ:そこで、母親(監督)がエロディに「あなたは芸術と料理が得意だから、フランスに行くのがいい」と言うんだよね。

すみれ:そういうことね。

エツオ:エロディは、芸術と料理が得意で、特にお菓子作りが好きなんだと。両方ともフランスが世界一ということで、フランスに行った方がいいという話になって。それまで、父親の話はほとんど出てこなかったんだけど。

すみれ:父親の名前はなんだっけ?

エツオ:ジルね。途中までは名前しか出てこなかったけど、高校生から、エロディはパパの国に行ってパパと暮らすということになった。そのときは、二人で泣きながら。

すみれ:変化が嫌いな子がよく、そんなことを思い切ったなと思った。普通の日本人の子でもなかなか思い切れないことなのに。

エツオ:そうだね。エロディも泣きながら、わかったと。中学時代もときどきフランスに行ってたみたい。二人で話し合って決めたんだろうけど、映像に映っているのは、最後に決断するシーン。母が娘を説得するというか、お互いに納得するような話をしていたね。母親はエロディに「自立の仕方を学ばなきゃいけない」ということを繰り返し言ってたね。

すみれ:羊のぬいぐるみのメイメイもいたね。

エツオ:メイメイは最初、台湾にいたんだよね。エロディがフランスに行ったときに一緒にメイメイを連れていかなくて、台湾に置いていった。母親が「本当にいいの」と何回も念押ししていたけど、置いていったんだよね。自分の代わりだという感じで、メイメイを家に残していった。だけど、途中からメイメイはエロディのそばにいたから、彼女が台湾に戻ってきたときにフランスに連れていった感じだね。

すみれ:お母さんのために置いていったという感じだったのかもしれないね。

エツオ:ところで、この映画はどこが良かったかな?

すみれ:アスペルガーの子の映画だと聞いていたんだよね。アスペルガーについては、正しい知識というか、リアルにどういう子がアスペルガーなのかあまり知らなかった。そういう病質を持った子が葛藤してる様子を見て、自分を納得させるためにすごいエネルギーがいるんだなと思った。変化に弱いところもあるんだろうけど、ちょっとした変化を見逃さない。そんなエロディの横顔の力が強かったなと。横顔がすごい美しい子だったね。いろんな変化を敏感に感じ取っている。何かを見てるというまなざしが、すごく印象的だった。

エツオ:僕が連想したのは、この前に見たNHKの『ギフテッド』というドキュメンタリー番組。知能は高いけど、発達障害だったり、発達障害気味だったりする人が出てきた。こちらは確かに苦悩しているけど、それなりに頑張っている、という感じだった。

すみれ:エロディも、あそこまで絵が描けたり、創作活動ができるんであれば、相当なものが与えられているんだろうね。

エツオ:そう思うけどね。ただ、NHKの番組もそういう葛藤を描いているけど、かなりマイルドにしているんだなと思う。もちろん、人によって大きな差があるんだろうけど。

すみれ:印象的だったのは、エロディが近眼になった場面。最初、特別な目の病気になったのかと思ったら、ただの近眼だったんだよ。

エツオ:だけど、それを認めるのがなかなか難しいんだよね。

すみれ:変化を受け入れること自体が難しい。合理的に目の検査すればいいという話じゃなくて、それを受け入れられない自分の気持ちに寄り添ってほしいと。全然、考えていることが違う。

エツオ:エロディと父親の会話で出てきた「決められない」っていうの
も「そうなのか」って思った。そうなると、大変だよな、本当に。

すみれ:その一方で、やっぱり人に認められたいっていう気持ちもあるんだよね。サボテンとハリネズミの話が出てきたけど、そういう感じで、エロディにも誰か理解してくれる人がが現れるといいなって思うけど。

エツオ:理解してほしいということだね。

すみれ:あと、父親はフランス人だから、絶対に譲らない。重要な話をしているのに、こんなに拒絶されたら何から話せばいいのかと。フランス人ってそういう感じだね。

エツオ:ロジカルに言って、相手を突き放してという感じ。母親のほうはもともと現代美術家で、それがきっかけでドキュメンタリーを撮るようになったらしい。だから、映像がすごく綺麗なんだよ。構図もしっかりしていて、クオリティの高さを感じる。編集には3年間かかったということだね。

すみれ:でも、編集している間に、娘と会話をしていると思うから、それはそれでいいことだよね。

エツオ:離れている間に、映画を編集したということだね。では、この映画の点数ですが、10点満点で何点かな?

すみれ:8点くらいかな。8点か、9点くらいになると思うよ。もう超
力作だよね。この監督の前作も見てみたいな。

エツオ:僕は、10点満点でいうと9点かな。この後で、もっといい映画が出てくるかもしれないけど、いまのところは最高点。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?