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学級崩壊が残したもの

何気なくネットを検索していると思わぬ記事に出会うことがある


ある人が体験した学級崩壊のエピソードを読んで
色々と考えさせられたのだけれど


「学級崩壊」か


私も過去に似たような体験があることを思い出した

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私は田舎の小学校に通う5年生だった
私の学年にはクラスが3つあったのだけれど
私のクラスの担任は、志村先生(仮名)という
当時30代半ばの男性でみんなに陰で「シム」と呼ばれていた


「なんでうちらのクラスは担任がシムなんだろうね、
1組はやさしい大木先生(仮名)だし、
3組は面白い藤本先生(仮名)なのにね」


クラスメイトたちは志村先生の陰口に花を咲かせていた


子供の基準なんて今考えてみれば、
自分たちに都合の良い大人を持ち上げて、それ以外の大人は
容赦なくこき下ろしているだけのような気もするのだけれど
当時のみんなの意見は「志村先生は気に入らない」
ということで完全に一致していたのだった

正直な話、私も先生のことをそんなに好きではなかったけれど
志村先生は別にそんなに悪い人ではなかったと思う

担任教師としての職務はきちんと全うしていたし
あの当時、自分の周りにいた教師たちの質を考えれば
かなりまともな先生だったと思う

でも、もし志村先生に非があるとしたら

自分の見た目に気を使わないとか
注意する時に大声で責め立てるとか
生真面目すぎて人間味がないくらいである

でも、今考えれば許容範囲内の事ばかりだった

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クラスの女子のリーダー格だったAちゃんは
放課後、学校からあまり遠くない公園で会議をすると
クラス全員の女子に通達をしてきた

私は気の進まないまま、放課後に公園に向かった
そこには既に、Aちゃんと何人かの女子たちが集まっていた
しばらくすると全員の女子が集まった


「今日は会議をするよ、議題は志村先生!」


Aちゃんは、勇ましく志村先生のことをディスり始めた

「シムって最悪だよね!だからみんなで懲らしめてやろうと思う
もう、男子たちにも話はつけてあるからさ」

Aちゃんは持ち前のフットワークとコミュ力で
男子のリーダーたちと話し合い、
志村先生に対する反乱の準備を進めているようだった


もう、ここまで来たら気弱な私には嫌だなんて言えない…


Aちゃんは、私だけではなく他の女子にも圧をかけて
志村先生に嫌がらせをする手はずを整えるために
ここで会議をすると言ったに違いないのだ


みんなは顔を見合わせて、シムへの反乱の意志を確認しあっている

なんとなく場の空気が志村先生への敵意と
妙な興奮と高揚感でざわめき始めているのを
私は居心地悪く感じていた

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次の日から、嫌がらせが始まった


授業中に男子がわざと大声を出してさわぎはじめると
志村先生が大声で注意をする
それを見た別の男子が笑いながら志村先生を茶化す
女子たちはクスクス笑いながら男子たちと一緒に先生を茶化した


志村先生が職員室から教室に戻ってくると
黒板に大きく「志村しね!」と書いてある
志村先生は黒板をだまって消していた


志村先生に提出する国語のノートに
ふざけたいたずら書きや先生の悪口を書いて出す
勿論、国語の課題はやっていない


職員室の近くで志村先生を見ると、他の先生にも見つかるように
クラスの男子が志村先生を馬鹿にした変な叫び声をあげる


先生が配ったプリントを、本人の目の前で紙飛行機にして飛ばす
他にはプリントにいたずら書きをしてゴミ箱に捨てる


そのほか、数えきれないくらいの陰湿な嫌がらせを
クラスの子たちは志村先生に繰り返した
情けないけど、小心者の私はそれを見ていることしかできなかった


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志村先生は、どう思っていたんだろう?

当然、傷ついていたに決まっているけれど
先生はそれを一切、私たちの前で表すことはなかった

それが災いしてか、クラスメイトたちは先生への嫌がらせを
エスカレートさせていったのだった


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そんな荒れた毎日は、突然に終わりを迎えることになった
志村先生がついに自分の気持ちを表明することになったからである


今でもはっきり覚えているけれど
それは秋もそろそろ終わり、冬の足音が聞こえてきそうな日だった

その日は授業がすべて終了し、帰りの会も終わろうとしていた


「ちょっとみんないいか?
先生がプリントをこれから配るから、
そこにお前たちの先生に対する本当の気持ちを書いてほしい」


志村先生は突然そう告げると、おもむろにプリントを配り始めた

「先生ー!もう帰りたいんですけどー!」

お調子者の男子がいつもの調子で茶化したけれど
なんとなくいつもと違う、不穏な空気が流れていたこともあり
みんな不満げな顔をしながらもプリントを受け取り文章を書き始めた

みんなが書き終わり、プリントを回収し終わった後
先生はそれに軽く目を通してこう言った

「ここには本当の気持ちは書いていないな、
帰りの支度が終わったら、先生は仕事があるから
30分後にまたここに集まること」


そう告げると、志村先生は職員室に去って行った
その後みんなが口々に不満を漏らす


「書かないと、家に帰してもらえないと思ったから
書いてやったのにさ、なんだあの態度は?」

「書くことなんてなんにもないから、特になしって書いたんだけど
それが気に入らなかったのかな?」

私も、特にないと書いたのでこれを言った子の気持ちは分かった


そう思いながらも、他の気持ちが頭をもたげてきた
なんだか、これから起こることが怖かったのだ

志村先生が保護者を呼んで自分たちの悪行を訴えるのか
それとも校長先生や教頭先生も巻き込んで盛大に
クラス全員が怒られることになるのか…

「私、帰るよ…」

私と同じ恐怖を抱いたと思われる、とある女子が口を開き
ランドセルを背負って教室を出て行った

「私も帰る!」

私は反射的にランドセルを背負い、彼女の背中を追いかけて行った

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その後、クラスの子に聞いた話によると
私と一緒に出て行った女子の2人以外は全員
最後まで残り志村先生と話し合ったそうだ

再び先生からプリントを受け取ったみんなは
思うままに、志村先生に対する罵詈雑言を書き込み提出したらしい

それを読んだ志村先生は涙を流しながら
みんなの前でこう言ったそうだ


「…そうか、先生はお前たちにそう思われていたのか…」


「…でも、本当のことを書いてくれてありがとう…」


その後は先生が少し取り乱して、泣いてしまったため
学級会議は解散になったそうだ


それからはなんだかみんなが気まずくなってしまって
先生に対する嫌がらせは収まった

生真面目でいつもクールな表情をしていた志村先生が
あれだけ取り乱した姿を見てしまったのは
みんなにとってショックな出来事だったようだ


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今になって私は思う、「先生だって人間だから」と


当時はみんな幼すぎて、
嫌いな人間に嫌がらせをすることに
躊躇することはなかったけれど
これがあの当時、みんなと同じ立場の
クラスメイトに対するイジメだったら
あそこまでエスカレートすることはあったのだろうか?と

そしてそれは多分なかったと思う


きっと先生だったからみんな甘えていた


先生だったら大人だから、
子供の嫌がらせなんてなんとも思わないと思っていた


先生だったら大人だから、普通に耐えられると思っていた


先生だったら大人だから、みんな許してくれると思っていた


自己中の極みかもしれないけど当時は本気でそう思っていた


先生にも心があるって、気付くことができなかった


今更気付いたって遅すぎるにも程があるんだけれど

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志村先生は次の年

持ち上がって私たちの学年のクラス担任になることはなく
一年間休職した

そして私たちが小学校を卒業した年に
遠い小学校に異動してしまって、今は何をしているかも分からない


「学級崩壊」


文字にすると軽く聞こえてしまうかもしれないけれど

私にとっては今も、思い出したくはない暗い記憶として
あの当時の出来事が心の中にこびりついたままくすぶり続けている


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