すみれの言葉

これまでに書いたブログや取材記事のアーカイブです。 新規の書下ろしではありませんが、ポ…

すみれの言葉

これまでに書いたブログや取材記事のアーカイブです。 新規の書下ろしではありませんが、ポツポツ更新してゆきます。

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最近の記事

修道院のおひるご飯

 神と共に生きることを選んだ人々が、厳しい戒律に従って暮らす場所。それが修道院です。  修道院という神聖な囲いの中では、厳しい戒律を守りながら、規則正しい生活が続けられています。そこにあるのは、何かを見つめながら、何かに希望を抱きながら、何かを祈りながら過ぎてゆく静かで豊かな日々。でも、その豊かさは、私たちが思うそれとは少し違っています。物質的なものではなく、心が満たされることによって生まれてくる静かな安らぎのようなもの、といえるのかもしれません。  修道院では、祈りの生活を

    • 続・青いエアメール・アエログラム

       フランソワ・トリュフォー監督作品の中には、しばしば手紙が登場する。その手紙は、言葉よりもときに饒舌だ。そして、ナレーションに導かれて呼び覚まされ、立ち上がる感情は、言葉よりも豊かでデリケートだ。  そして、トリュフォーの作品に限らず、フランス映画は手紙の使い方が実にうまく、心にくいほどだ。  フランス映画と言えば、エリック・ロメール監督の『冬物語』の中に、こんなセリフがある。  Je suis une fille  Introuvable  愛する人との別れ際、自分の住

      • 青いエアメール・アエログラム

         アエログラム・スィル・ヴ・プレ。  私がパリで頻繁に使ったフランス語の一つは、このフレーズだったと思う。巴里滞在一週間も過ぎる頃になると、ヴァン・タエログラム・スィル・ヴ・プレに変化して行ったが、それはアエログラムにすっかりはまってしまった私が、まとめて購入するようになったからだ。もっとも私の場合、知っているフランス語はほんの少しだったので、必要最低限の言葉だけを覚え、使っていた。だから、見方を変えれば、これは私にとって必要な、そして重要なフレーズだったことになる。  私が

        • ノートルダム寺院の虹

          “My heart leaps up when I behold A rainbow in the sky:”                  ──William Wordsworth セーヌに浮ぶ船のようだと友人が評したノートルダム寺院。 その優美な姿の向こうにかかる虹。 虹は私にとってのラッキーサイン。 ワーズワースの詩のように、私の心は踊る。 昔も、今も、これからも!  10月の巴里は好天に恵まれていた。  私はその好天気を心の中に取り入れながら、シェイクスピア書

        修道院のおひるご飯

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        • 修道院
          0本
        • パリ
          12本

        記事

          Salon de The de la Mosquee

           ある日の午後、リュウ・ド・ラ・クレを歩いていた私は、このあたりにエキゾチックなアラビアンカフェがあったはず、と思い、イスラム寺院の塔を目指して歩いてみた。すると、リュウ・ド・ラ・クレから歩いて5分ほどのろころの角に、それらしい入り口が見えた。ここが巴里最大のイスラム教寺院・モスケの一角にあるカフェである。  モザイク模様に覆われた美しい壁面の回廊、中庭のカフェスペースなど、すべてがエキゾチックで魅力的。深呼吸しながらその風景を堪能してから、併設されたカフェでお茶を飲むことに

          Salon de The de la Mosquee

          私の移動祝祭日

          “If you are lucky enough to have lived in Paris as a young man, then wherever you go for the rest of your life, it stays with you, for Paris is a moveable feast.” -Ernest Hemingway to a friend, 1950  ヘミングウェイの『移動祝祭日』のこのフレーズと、”A Good Café on

          私の移動祝祭日

          続・La Charlotte de l'Isle

           或る日の午後、メトロの7番線に乗り、Sully-Morlandでおりてみた。この日はここからセーヌを渡り、サン=ルイ島まで歩いてみようと思ったのだ。だが、地上に上がってみると、さっぱり方角が分からない。道路案内を見ながらどっちの方角かなぁ、と思案していたら、若い女性が「どうかしましたか」と声をかけてくれたので、「サン=ルイ島に行きたいのですが」と言うと、「この道をまっすぐに歩くと橋があるので、そこを渡ればサン=ルイ島ですよ」と教えてくれた。笑顔のすてきな女性だった。  教え

          続・La Charlotte de l'Isle

          小さなピンク色のカフェ La Charlotte de l'Isle

           友人とシェイクスピア書店で待ち合わせをして、サン=ルイ島にあるカフェに向かう。  ドゥブル橋を渡り、ノートルダム寺院の前を歩き、ジャン23世広場を横切り、サン=ルイ島を渡る。この日は見える景色のすべてが晩秋の色に染まっていて、絶好のお散歩日和だった。  カフェのあるサン=ルイ通りには、夢のような色彩とキュートなドアを持つ小さな店が軒を連ねている。クレープの店、アイスクリームの店、ピクルスの店、ジャムや紅茶の店……どれも思わず立ち寄りたくなる魅力的な店ばかりである。  お目当

          小さなピンク色のカフェ La Charlotte de l'Isle

          何かしらのおまじないが必要な街

           日曜日の夜、夕食を食べるために、友人と二人、セーヌ河沿いにあるお気に入りのカフェへ行った。ドゥブル橋の近くにあるこのカフェの窓からは、ゴシック建築の最高傑作と言われるノートルダム寺院が見える。道往く人たちの多くはカメラ片手の観光客で、午後8時とはいえまだ明るい巴里の街は、ノートルダム寺院や橋を渡る人たちをロマンティックに映し出していた。  私たちはロンドンから帰って来たばかりで、自分が思う巴里とロンドンの違いについてずっと喋っていた。  友人は、ロンドンがどんなにすてきでも

          何かしらのおまじないが必要な街

          『記憶の絵』を読んだカフェ

           朝おきると地図を見て、今日はどこに行こうかな、と考える。それが予定のない日の私の朝の日課だった。  ある日の私は、St-Paul方面へ出かけようと思い立った。目的は、駅近くにある「ホテル・ジャンヌ・ダルク」を訪ねることである。森茉莉が住んでいた同名のホテルとは随分離れた場所にあるので関係ないだろうとは思っていたが、ホテルを訪ねれば何か手掛かりを得られるのではないかと思ったのだ。  メトロの5番線に乗り、バスティーユまで行き、そこで1番線に乗り換えると、ひと駅目がSt-Pau

          『記憶の絵』を読んだカフェ

          巴里のアップルパイ

           シェイクスピア書店のすぐ裏手にある「ザ・ティー・キャディ」というカフェが気に入り、三日にあけず通った。カフェの前の公園には、巴里最古の木と言われるニセアカシアの木が生えていて、その木のエネルギーがカフェの中に静かに注がれているような気がするところも、お気に入りの理由のひとつだった。  ただし、巴里の通常のカフェの相場から考えると、ちょっといいお値段である。しかも、テラス席はない。だが、扉を開けて入るここは、いつ出かけても、ロンドンの古い伝統的なホテルのティールームのよう

          巴里のアップルパイ

          巴里のカフェ

           巴里のカフェのギャルソンをはじめとする人たちの接客態度は、全く粋ですてきである。  私は、巴里のレストランやカフェで何度も何度もすてきな気分を味わったが、巴里の本を読んでいて、その秘密がわかった。ギャルソンたちは、その仕事をお金を払って買うのだそうだ。そう考えると、自分が担当するテーブルのオーナーは、彼ら自身ということになり、彼らのプロ意識に徹した仕事ぶりも、なるほど、と納得する。  ある日、ノートルダム寺院のそばのカフェを出て、サンミッシェル通りを歩いていた友人と私は、カ

          巴里のカフェ

          ジョージ・ホイットマンの日曜日の朝のパンケーキ

           シェイクスピア店のオーナー、ジョージ・ホイットマンが日曜日の朝に焼くパンケーキのことを、友人が教えてくれた。シェイクスピア書店の2階はフリーで泊まれるホテルになっていて、世界各地からやって来た人たちにベッドが無料で提供されている。これは、そんな彼らにジョージがふるまう日曜日の朝ごはんである。  是非とも食べてみたいと思った私は、ジョージに「日曜日にパンケーキを食べに行ってもいい?」と尋ねたところ、「もちろん、いいよ。おいで」と言ってくれたので、ある日曜日の朝、朝食抜きでシェ

          ジョージ・ホイットマンの日曜日の朝のパンケーキ

          紅茶のたびに思い出す人

           イギリスを舞台にした映画や小説の中で、すてきなお茶のシーンに出会う度に、その優雅な雰囲気に憧れたものでした。一日に何度もお茶を飲むイギリス人は、朝起きてすぐのアーリーモーニングティーに始まり、就寝前のお茶まで、多い人なら一日に七、八回はお茶を飲むといいますから、お茶に関してはさまざまなエピソードや物語があるにちがいありません。  何度もあるお茶の時間の中でも、午後三時過ぎから四時にかけて、つまりアフタヌーンティーにあたる時間は、別名「黄金の時間」とも呼ばれるそうです。友人を

          紅茶のたびに思い出す人

          たったひとりのためのオペラ

           朝ドラ『エール』に三浦環が登場したとき、かつて彼女について書いたことがあるような気がしたのだが、思い出せなかった。そして、彼女について何かを「書いた」ような気がしたのは、彼女の評伝を読んだことがあったからだろう、と片づけていた。  だが、そうだった、「コアン ド ローズ」の津志本さんを取材したときに教えていただいたのだった、と今になって思い出したので、見つけたその記事を、ここに書き写しておこう。  たったひとりのためのオペラ「コアン ド ローズ」の津志本貞さんから教えてい

          たったひとりのためのオペラ