ノートルダム寺院の虹
“My heart leaps up when I behold A rainbow in the sky:”
──William Wordsworth
セーヌに浮ぶ船のようだと友人が評したノートルダム寺院。
その優美な姿の向こうにかかる虹。
虹は私にとってのラッキーサイン。
ワーズワースの詩のように、私の心は踊る。
昔も、今も、これからも!
10月の巴里は好天に恵まれていた。
私はその好天気を心の中に取り入れながら、シェイクスピア書店に向かった。
いつもは大勢の観光客で賑やかな書店前の広場だが、この日は人も少なく、私は店の前のベンチに座って、のんびり本を読みながら過ごした。風は少し冷たいが、落葉がハラハラと風に舞う秋らしい昼下がりである。
「落葉の物語」のようなひとときを過ごしてから私は店に入り、宝物がいっぱいつまっているような書棚をしばらく眺めた後、『Cooking for mother』という1950年代のイギリスのお菓子作りの本と『Paris circulation』という巴里のガイドブックを購入した。ガイドブックは以前から欲しいと思っていたので、ホクホクの私である。私の英語の先生でもあるSが言うには、いちばん役立つガイドブックだということだった。
シェイクスピア書店では、本を買うとシェイクスピアの顔のイラスト入りのスタンプをポン! と押してくれる。これがとてもすてきで、このスタンプがあるだけで、一冊の本がひそかな輝きを放つ宝物になる。
そしてこのスタンプは、書店のレジシートに座っている人が押してくれるのだが、誰も店主のジョージのスタンプにはかなわない。このことを発見してからは、なるべくジョージが座っているときに本を購入するように心がけた。ジョージのスタンプは、押し方が力強くていねいで、インクのかすれもなく、芸術的である。
買ったばかりの本を小脇に抱え、お気に入りの本を購入したとき特有の幸福感に包まれて、私は再び店の外のベンチに腰かけ、遅れてやって来た友人と話していた。
この日の幸福感には、心躍る続きがあった。
友人と話しながら空を見ると、ノートルダム寺院に背後に、美しい、大きな虹がかかっているのが見えたのだ。
あっ、虹! 雨上がりでもないのにね。何かいいことがあるのかな。時計を見ると、午後5時15分。
「私、ここでこうして虹を見たことを、これからの人生で、きっと何度も思い出すと思う」
「私も……」
私たちはしばらく何も話さず、心にその虹を織り込みながら、幸福な予感に心を染めながら、巴里の空に夢を敷きつめたように美しくかかる虹を眺めていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?