恋愛は追う派?追われる派?トランスジェンダーにおける恋愛の正解とは

気づけば私は自分から追いかける恋愛ってのが出来なくなっていた。

学生時代、片思いをしていた男の子がいた。もちろん当時の私も男の子。告白なんてできないし、そこに未来はない。好きになるだけ無駄なのだが、それでも気持ちってのは不思議なもので頭でどう説得しても聞く耳を持たない。

なんの期待もできないことを前提で「おはよう」と声をかけて、反応をしてもらって、それに人知れず喜ぶ。遊びに誘ってゲーセンなんかに行く。ファミレスでご飯をする。デートにならないお出かけをして、一喜一憂して。彼に彼女が出来るとこれまた人知れず泣いたりして。彼女を優先されてまた泣いて。友達にも打ち明けられない感情は行き場をなくして、そんな気持ちを持ち続けてしまう自分を嫌っていく。

その時、私は自分というものを改めて理解した。私という人間は自分から人を好きになってはダメなんだと。そう抑えておかないと自分自身が傷つき続け、ボロボロになる。結局私の片思いは泣くだけ泣いて、知らぬ間に終わった。

自分から人を好きにならない人間ってのはどうやって恋愛をするのか。答えは簡単だ。相手から好きになってもらえば良いのだ。

そんな1+1=2!みたいな発想で始めたのがゲイアプリだった。

自分の顔写真を載せてアプリに登録する。そこから相手からのイイネを待ち、来た中から「イイネありがとう」とメッセージを送る。やりとりをして、会って、相手の家に行って、初対面なのに、男同士なのに抵抗なくヤルことヤって。好きにはなれないけどとりあえず付き合って。そんな関係を何人かと経験して。

だがそれまで出来なかった男性との交際ってのに、恋愛市場での自分ってのを受け入れられた感じがして。好きにはなれないけど彼氏ができるってことが嬉しくて、まだ10代だったのに自分の感情ってのが抜け落ちたみたいに恋愛もどきなそんなことに夢中になった。


「人を好きになる」ってのには色々ある。恋愛的に好き、友達として好き、家族への好き、人として好き、一緒にいて楽しいから好き、嫌いじゃないから好き。ゲイアプリで知り合った人の中には好きになれた人もいるが、学生時代の片思いとは少し違っていて、胸が締め付けられることってのはあまりなかった。

そうこうしてる間に私は女装を始めた。そして女として男性と知り合うことが増えた。今までにない感覚。男としてしか見られなかった自分が、女として意識される。これが学生時代だったなら当時の片思いの彼とはまた違った関係になれたのだろうか。そんな期待が出てしまったのか、私は懲りずにまた人を好きになってしまった。

何度かデートを繰り返して好きだなーと思った。まだ軽い感じ。元が男ってことを知っても受け入れてくれた。結構好きな感じ。その上で手を繋いだり、キスをしたり、イチャイチャした雰囲気になることが増えた。あーーー、はい、好き。もうこの時点で大好き。

そんな人に私は自分から告白をした。その結果、ちょっと渋られた。

「好きやねん、私と付き合って欲しいな」「俺、あんま付き合ったこととかないから、彼氏っぽいこととかできひんと思うで?」「大丈夫!気にしやんから!」断りたそうな雰囲気に気づけず、勢いで付き合おうとする私。「私と付き合うの、嫌?」キスまでしてきた相手に追い討ちを続ける私。「嫌とかじゃないけど…」逃げ道を探す男。「なら良いくない?」強行突破しようとする私。「なら、うん。いいよ。」折れる男。

こうして後に激泣きすることになるお付き合いが始まった。

付き合い始めは楽しかった。少し年下の男の子。恋愛経験も、経験人数も少ないらしく、聞けば1人とか2人だとか。一方のとりあえずアプリで知り合った相手と行為に及ぶ私。告られればとりあえず付き合う私。私たちのお付き合いにおいてこの彼氏との力関係は明白だ。私は彼の犬になった。

付き合い始めて数ヶ月の頃。大好きなこの彼氏と手を繋いでデートしてる最中に、脳内お花畑の私はつい「結婚したらぁ〜赤い屋根のお家に子犬と〜、んで暖炉の横には彼氏くんがおってぇ〜」なんて言った時、その彼氏は言った。「結婚って、無理やん?Sちゃん子供産めれへんし、俺、子供欲しいし」「え?」この時点で目頭に涙が溜まっていく私。

「じゃあなんで付き合ってるん?」「だってSちゃんが付き合ってって言うたんやん」「確かに」泣きそうになりながらも納得してしまう私。そして私はトドメを刺される。「Sちゃんから言われて付き合うことにはなったけど。俺、結婚したいし子供も欲しいから他の子とも遊んだり出会ったりするつもりやで?」私は街中で、この男の握った手を離せずに、声を出さず、ただその場でボロボロと泣いてしまった。

好きって気持ちは不思議だ。ここまで言われてもなお、私は彼とは別れられずに関係を続けていた。男時代、片思いをしてても未来はない、好きになるだけ無駄だと思っていたが、まさか付き合っている相手に対しても未来はなく、好きになるだけ無駄になるとは思わなかった。

最終的に「そんな泣くほどなん?なら俺が他の子と結婚したら庭に犬小屋でも建ててそこにSちゃん住んだら?」「そうする」ということに至った。彼の未来に辛うじて私は介入できたが、家には上げてもらえなかった。。。


そんな彼氏との関係を辞めなかったのは、そこまで言われてもまだ好きだったからってのも一つだが、もう一つ「彼氏が他の女と遊ぶなら私も他の男と遊んで良いやん!」という発想に至ったからだ。ということで私は各週末で彼氏、新規、彼氏、セフレ、彼氏、新規、彼氏、男友達というルーティンを過ごした。

だがそんなことを続けていると仲良く至った男からこんな風に言われる。「Sちゃんのことが好きやから俺と付き合ってほしい」と。なるほど、これは困った。

他の男と遊ぶことは自分の中で納得はできるが、彼氏が増えることは別問題。私はそんなに器用では無い。もちろんこの告ってきた男は私に名目上の彼氏、もとい私が『他の男の未来の犬』ということは知らない。

好きな男との未来はないし、ここはキッパリ新しい男に乗り換えるべきか?今この機会を逃すと、次に今の彼氏と別れる決断を下せるのは来世になるかも知れない。

私は新しい男に乗り換えることにした。付き合っていた彼氏とは自然消滅(もともと私から連絡しないと連絡がなかった)。晴れて私は犬小屋の未来から脱却できたのだ。そしてその半年後。告ってきた新しい彼氏に振られた。クソが!!!

プチ遠距離恋愛だったこともあり、仕事の忙しさを理由に振られたのだ。たぶん仕事ってのは嘘だと思うが。犬小屋に住めって言われるよりも優しい嘘だ。

自分から好きになってもダメ。相手から好きになられてもダメとなると、もう私には恋愛における選択肢は無くなった。今後も私はとくに大好きって気持ちになることもなく、告られた相手と適当な付き合いをするだけになるのだろう。そんな風に思っていた数日後。今の旦那と出会って現在ではなんやかんや結婚するに至った。

私たちの関係はこうだ。旦那が好きになった後、私も好きになった。なるほど、両者で互いを好きになるのか。その発想は今までなかった。恋愛における当たり前のことを私は今までして来なかったのだろう。どちらかだけって関係が当たり前になりすぎていた。

現在はとりあえず平穏な日々を送っている。互いに好き合った関係というのは安心感が違う。私が「旦那、大好きだよ♪」と言うと旦那は私の手を取ってこう言う。「俺も大好きやから冷蔵庫からビール取ってきて♪」と。

これがハッピーエンド、めでたしめでたしになれば良いのだが、今後の続きはまだわからない。旦那が他に目移りするかもしれないし、私がイケメンの誘惑に負けてしまうかもしれない。

結婚しても関係は現在進行中。結婚後にも未来ってものは存在する。なのでまた変化があればどこかで書くね。

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