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買うより「作る」ほうがおもしろい(2)

前回はこちらから。

コロナ禍で生まれたもの

アトリエ小屋の横には、見晴らしのいい屋根つきの空間がある。そのスペースで今夜はバーベキューをするよ、と予告されていた。
「焚き火をするこの広場の整備も、コロナ禍でやりました。ここは平らで、後ろにブロック塀があるだけだったけれど、コンクリートをしきました。25キロのセメント、砂利を200袋、下から運ばないといけないから、200回運びました。枕木も1本ずつ持ってきたし、岩盤もクワで削って、バケツで移動してきました。この家の庭は重機が入らないから、業者に頼んでもやってもらえないので自分でやるしかないんです」

 途方もない作業にくらくらしつつ、さらに階段を上がると、家の裏山には、坂と呼ぶには急すぎる斜面にはしごがかけられ、気づけばパヴェルさんはそれを軽々と登っていた。万年運動不足の私は一瞬血の気が引いたが、ためらう間もなく、もう行くしかない。「ひぃ〜〜」と気弱な声を出しながら、少し踏み外せばあっという間に落ちる臨場感抜群のはしごを、パヴェルさんの10倍くらいの時間をかけてよじ登った。そして見上げると、木と木のあいだにまたがるようにツリーハウスがあった。

「2020年の3月のコロナ禍で、7人の子どもたちと一緒に、1ヶ月で作ったの。切った木をみんなで運んで作業しました。家の玄関とか長く使うものは大工さんの気持ちで作ってるけど、ツリーハウスは子どもの気持ちで作りました。アートなんです」
 共同で作りあげたこの家は、どんな子どもでも憧れるような隠れ家だった。中には2人がけのソファがあって、子ども7人が一気に入るには苦しいくらいのちょうどよい狭さ。はしごを登れる人しか入れないところも、隠れ家に相応しい。ちなみに恥ずかしながら私はこの高さを登っただけで筋肉痛に襲われた。

コロナ禍で作ったツリーハウス(写真提供:パヴェルさん)

自作のマリオネットと劇場

それからパヴェルさんは、自作のマリオネットとその劇場セットを見せてくれた。
「チェコはマリオネットが有名だし、子どもが生まれてから、マリオネット劇場のセットをチェコで買ってあげようかなとも思ったんですけど、買うよりも作ったほうがいいなと思って作りました」

「人生ではじめて作った人形は”さるきち”。スペイブル&フルヴィーネクという有名なマリオネットがチェコにはあるけれど、以前それを見ていいなと思ったサイズで、杉の木で作ったの。でもこれは大きいから、子どもたちは本物だと思って怖がるの。そのあと作った人形は最初のよりもひもがほとんどなくてシンプルなのに、動きがいいから子どもにいちばんウケる。この劇場セットを外に持っていくとどこでも人形劇ができるんです。ここの地域ではもう1000回以上かな……ボランティアでたくさんやってます。田舎に劇場がないから、子どもはすごく喜びます」

自作した木製マリオネットと劇場

幼少時代にマリオネットで楽しんだ思い出があるのだろう……という私の予測に反し、パヴェルさんはこう返した。
「いや、うちにはマリオネットも劇場セットもなかったです。日本人だから折り紙作れる? と言われるのと同じ感じで、チェコ人だからマリオネット作れる? って言われることがあって、それで作りました」
 折り紙でツルを折るのと、木製の操り人形を作るのはわけが違う気がするぞ……と首をかしげる私をよそに、パヴェルさんは人形を次々と動かしてみせる。
「子どもが生まれた9年前に作って、その後2年くらいはたくさん作ったけど、そのあとは全然作ってない。僕にとってはもうこれは簡単で、簡単なことはすぐ飽きちゃうの。簡単になると楽しくなくなっちゃう。後半に作った人形は、動きも完璧すぎて、本当はあまりいいとは思わない」

濃厚なツアーをしてもらううちに夜もふけて、お腹も空いてきた頃、パヴェルさんは焚き火の準備をはじめ、いよいよバーベキュータイムだ。火を囲みながら、パヴェルさんにもう少しむかしの話を聞いてみたいと思った。

ご家族と一緒に焚き火を囲む

次回の更新は5月15日(日)18:00を予定。

地下ワンダーランドを「作る」人編はこちらから。

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