見出し画像

映画「レイクサイドマーダーケース」2005年東宝

少々クラシック映画寄りの映画鑑賞になっていたので、比較的新し目のミステリーが観たくなりました。
そこで、Amazon プライムのラインナップから選んだのが本作です。
最近とは言っても、もう19年前の作品ですから、若い人から見れば、すでにクラシックかもしれません。
ちなみに、ここ30年くらいの現代モノ作品で、時代が古いか新しいかを見分ける方法があります。
それは携帯電話ですね。
登場人物が使う携帯電話のフォルムで、いつころの作品かはだいたいわかるようになりました。
本作では、まだガラケーが使用されていますので、「おお、あの頃か」と理解できるわけです。
通話が終わると、パタンとたためるのは、今から思えばなかなかオシャレでした。

本作の原作は「レイクサイド」。著者は東野圭吾。
ミステリー作家としては、今でも現役のトップランナーです。
物語のテーマは、中学受験戦争。
湖のほとりの別荘に集まった三組の親子。
いずれも、中学受験を目前に控えた子供を持つ親たちです。

家族その1。柄本明、黒田福美。
家族その2。鶴見辰吾、杉田かおる。
そして、主人公に役所広司。その妻に薬師丸ひろ子。
この二人は別居中で、娘の受験のために仲のいい夫婦を演じることになるという設定です。
そこに招かれた塾講師に豊田悦史。
反対に招かざる客が、主人公の愛人で、本作の被害者でもある女性カメラマンの眞野裕子。
この人だけ知らなかったのでWiki してみたら、元サッポロビールのキャンペンガールだそうです。
映画の中では、美しいヌードも披露してくれます。

物語は、ほぼこの別荘周辺で展開していくので、舞台劇の味わいがあります。
広義に捉えれば、クローズド・サークルであり、ある意味では密室劇と言えるかもしれません。

合宿中、会社の所用で別荘を離れていた主人公が戻ると、自分を訪ねてきた愛人が頭を鈍器で殴られて殺されています。
そして、全員が観ている前で、妻である薬師丸ひろ子が「私が殺した」と告白。
被害者が夫の愛人というわけですから、動機としては非常にわかりやすい。
当然主人公は愕然とします。

しかし、観ている方は、物語はまだ中盤ですから、主役の一人である薬師丸ひろ子のこの告白には必ず裏があると勘ぐります。
話の展開的には、少なくとも、彼女の他に真犯人はいるだろうと推測してしまいます。
ここで思い出しました。
彼女の過去の主演作品の中で、本作同様「私が殺しました」と、物語の途中で告白する作品がありましたね。
1984年の角川映画「Wの悲劇」です。

こちらでは、女優の卵を演じていた薬師丸ひろ子が、劇中劇のヒロインを演じ、母親役の三田佳子の罪を引き受けるという展開でした。
現実の方でも、この舞台劇とシンクロするような事件が描かれ、薬師丸ひろ子が女優開眼した映画として作品としても記憶に残っています。
本作では、それから20年を経て、今度は母親役を演じるようになった彼女が同じような展開に。

もし推察どおり、薬師丸ひろ子が仮に犯人ではないとすると、犯人はいったい誰か。
色々な仮定が頭を巡り出します。
(まあ、ここまではネタバレではないでしょう)
主人公の役所広司はハズれるとしても、残りの俳優陣は皆んなヒトクセあって、誰が犯人でもおかしくありません。
見渡して、まず真っ先に怪しいのは、塾講師の豊田悦史。
俳優としてのネームバリューから言っても、真犯人を演じるにはおかしくないキャスティングです。
面構えも犯人向き。
しかし、ミステリーとして、もっとも怪しい人物がそのまま犯人というのでは芸がありません。
いくらなんでも、彼ではないだろう。
映画オタクとしては、ストーリーとは全く関係のないところで、下衆な推理をしてしまうのは苦笑い。

三組の夫婦は、子供達のために殺人の隠蔽をすることを決意します。
それぞれ事情あれど、子供の将来を思う親心は一緒。
彼らは一致団結します。

この計画をリードしていくのが医師であり、この別荘のオーナーでもある柄本明。
この人の場合は、ちょっと年齢が気になったのでWikiしてみました。
1948年生まれとのことですから、撮影時で57歳。
中学お受験の息子がいるわけですから、単純計算で45歳の時の子供というわけです。
妻役の黒田福美は、1956年生まれですから、撮影時で49歳。
37歳の時の子供ということになりますが、今時はこれくらいの高齢出産はありかもしれません。
歳をとって授かった子供は可愛さもひとしおといいますから、この事件にもうまく絡まります。

もう一組の家族は、鶴見辰吾と杉田かおる。
思い出しました。
この二人は、過去にもドラマでカップルを演じていましたね。
15歳同士で、子供を作ってしまうという、当時としてはかなり衝撃的な設定でした。
そのドラマは、1979年の「3年B組金八先生」第1シリーズ。
覚えている人も多いかもしれません。
その二人が、25年後には、中学受験を控えた子供の両親を演じるというのもなかなか感慨深いものがあります。

共演といえば、主人公の役所広司と黒田福美の共演映画も思い出しました。
伊丹十三監督が1985年に製作した「たんぽぽ」という作品です。
ラーメン・ウエスタンと銘打った伊丹監督の嗜好を前面に押し出した食道楽映画です。
二人は、ストーリーとは全く関係なく登場するヤクザと情婦の役。
卵の黄身をキスをしながら口移しするシーンは、そこらのAVよりもよっぽど艶っぽかった印象です。

などなど色々な雑念がよぎってしまっうのはオールド映画ファンの悲しい性でしょうか。
映画の展開ですが、案の定、薬師丸ひろ子の殺人告白から、ストリーは二転三転。
最後にはオチもついて、楽しませてくれました。
ミステリー映画としては合格ではないでしょうか。

子供を溺愛するために次第に常軌を逸していく親たち。
その中で、主人公の役所広司だけが、正論を主張していくのですが、その彼もまた次第にその渦の中に飲み込まれていきます。

塾講師のトヨエツが、三組の親たちに向かってこう言い放ちます。

「子供は親の背中を見て育つんですよ!」

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?