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第18作「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」1976年松竹

さて、第18作目です。

本作のマドンナは、京マチ子。歴代マドンナの中では最年長ということになります。
彼女は、1924年生まれですので、渥美清よりも4歳年上です。
本作撮影時は、52歳。
シリーズの中で、寅次郎よりも年上だったマドンナは、彼女だけですね。
クラシック好き映画ファンですので、彼女の出演作品はかなり見ています。
日本を代表する監督たちの、多くの傑作に彼女は出演しています。
黒澤明の「羅生門」。
溝口健二の「雨月物語」「赤線地帯」。
衣笠貞之助の「地獄門」。
小津安二郎監督の「浮草」。
市川崑監督の「鍵」などなど。
そのそうそうたるラインアップは、彼女一人の出演作で、そのまま日本映画の歴史が語れてしまうほどです。
2019年に、95歳で亡くなった彼女ですが、本作はそのキャリアの最晩年作品ということになります。
そして、彼女の娘を演じるのが、当時22歳の檀ふみ。
この人は、映画やドラマというよりも、NHKの「連想ゲーム」の聡明な紅組キャプテンとしての印象が強いですね。
寅次郎は、この娘ほどの歳の差のある檀ふみにも、「ほの字」になってしまいますので、本作は、ダブル・マドンナ作品といえるかもしれません。



さて、オープニングの夢のシーン。
舞台になっているのは、北アフリカの港町。
映画「カサブランカ」がベースのようですが、セリフに混じっていたのはフランス語。
寅次郎の記憶の中では、「望郷」「霧の波止場」といった戦前のフランス映画もごちゃ混ぜになっていた模様。
そして、日活の無国籍アクションのテイストも少々ありますね。
寅が演じているのは「アラビアのトランス」という謎の日本人。
そこに、現れたイングリット・バーグマン風異国の美女は、我らがさくらです。
毎度のことながら、夢の中のさくらは、いろんなジャンルのヒロインを演じられて、まあなんとも楽しそうです。
トランスは、さくらが探している兄の寅次郎を知っているといいますが、彼を狙う拳銃が・・
悪役として、夢のシーンの準レギュラー吉田義男も登場。
寅が目覚めたのは、散髪屋で、背後には上田電鉄別所線の車両。
ちなみに、父親が満鉄の鉄道技師だった山田洋次監督は、コテコテの鉄道マニアです。
なので、彼の撮る映画の風景には、本当によく列車が走っていて、好きな人にはたまらないでしょうね。


さて、冒頭の寅次郎柴又帰郷騒動です。
とらやの面々が、外を気にしながらなぜかそわそわしています。
小学生になった満男の学校の先生の家庭訪問の予定があるからです。
そんなタイミングで帰ってきてしまった寅次郎。
一同に嫌な予感が走ります。
満男に担任は、産休をとっていたため、現れたのは産休臨時教員の柳生雅子先生(檀ふみ)。
大学を出たばかりの若い美人教師です。
そうとなれば、寅がはりきり出すのがおなじみのパターン。
しかし、そうなると大抵はロクなことにはなりません。
博とさくらを前にして、先生が何を聞いても、寅が横から口を挟んで、トンチンカンなことを答えてしまいます。
おいちゃんが気を利かせて、寅を引き離そうとしますが、美人を前にした寅が動くわけがありません。
その「ええかっこしい」に、博も露骨に不機嫌そうな顔。
家庭訪問が終わると、どこまでも調子のいい寅は、先生をお送りすると言って、一緒に出て行ってしまいます。

とらやの夕餉。
我に帰れば、さすがに出過ぎた真似をしてしまったという反省もあり、なかなかとらやに戻れない寅。
とらやの面々も、さすがに腹に据えかねて、示し合わせてシカトを決め込みます。
その空気を肌で感じる寅ですが、そうとなれば、やはり切れてしまうのが寅の愚かなところ。
結局一同に当たり散らしますが、今回ばかりは黙っていられないのが博です。
子供のいない寅に、親の気持ちなどわかるはずがないといわれてしまっては、寅には一言もありません。
カバンを持って、とらやを後にする寅。
辛いところではありますが、さくらも追いかけることはしません。

さて、とある病院から一台のタクシーが出てきます。
乗っているのは、満男の担任代行の柳生雅子先生。そして、隣に乗っているのは、その母親である、本作のマドンナ柳生綾(京マチ子)です。
タクシーが向かった先は、柴又にある綾が住むお屋敷。
二人を迎えたのは、婆や(浦辺粂子)でした。
退院を無邪気に喜ぶ綾は、まるで子供のようにはしゃいでいます。

寅が旅に出た先は、長野県上田市です。
啖呵売を続けながら寅は、上野電鉄の別所温泉駅に降り立ちます。
駅前には、「寅次郎夢枕」で登場した旅回りの「坂東鶴八郎一座」公演の立看板。
一座の看板女優大空小百合(岡田麻莉)や、座員たちがチラシを配っています。
岡田麻莉は、今回は冒頭の夢のシーンにも登場していましたね。
別所温泉は、一度松茸を食べにいったことがあります。
信州の鎌倉ともよばれているところで、神社仏閣も多く、街のいたるところに、源泉掛け流しの足湯や庭園露天風呂があって、癒されるところでしたね。
ぐるぐると歩き回ったところなので、見覚えのある場所もチラホラ。
もちろん、撮影されたているのは、僕が訪れるよりも30年以上も前の風景ですが、基本こういう神社仏閣系の観光地の景色はそう変わりません。
ちょっと嬉しくなってしまいます。
さて、一座の公演演目は、徳富蘆花の「不如帰」。
ちょっと、ChatGPTに聞いてみました。
この本は明治時代の上流社会を舞台にした川島武男と片岡浪子の恋愛悲劇ですね。
浪子は、当時では不治の病と言われた肺結核に犯されており、武男は看病しながら苦悩するという物語。
大空小百合がこういうセリフを言っています。

「人間はなんで死ぬんでしょうね。」

映画の中の劇中劇というものには、必ず作品のテーマが隠されているものです。
そう考えると、今回の作品の隠れテーマは、もしかすると「人間の死」?
まずはそのあたりを、頭の片隅にインプットしておいて先に進みましょう。
寅は、第8作の中でも、ひょんなことから一座の面々には「先生」と慕われてしまっています。
劇場でも、座長(吉田義男)からは、壇上から紹介されてしまったりでまんざらでもありません。
その夜、宿泊先のいずみ屋では、寅が一座を招いて大盤振る舞い。
そして、いました、いました。
今回は、この旅館の仲居の中に「谷よしの」を確認。ちゃんとセリフもあります。
旅館の二階は大盛り上がりで、宿泊客もみんなのぞき込み、別所温泉の夜は更けていきます。


翌朝、大空小百合の呼ぶ声で目を覚ます寅次郎。
窓を開けると、一座が移動のトラックに乗って手を振っています。
「また、日本のどこかで会おう。」と声をかける寅ですが、仲居の持ってきた宴会の請求書が、とんでもない金額に。
一座に見栄を張った寅には、自分の財布の中身など計算することは出来ませんでした。
結果、無銭飲食で警察に突き出されてしまう寅。
上田警察署からの一報を受けたさくらは、上田に向かいます。
さぞや強面の警察官たちに囲まれて、さすがの寅も神妙にしていると思いながら警察署に向かうさくら。
しかし、そんなさくらの心配は完全に空回り。
無銭飲食の後ろめたさなどどこ吹く風の寅は、警察署員たちを完全に自分のペースに丸め込んでいました。
さくらは、寅が署員たちに振る舞ったコーヒー代まで払わされる始末。
あっけにとられたさくらは言葉を失います。


とらやに戻った寅とさくらですが、収まりがつかないのはおいちゃんとおばちゃん。
寅に敷居をまたがせるなといきりたっていますが、それを諌めているのは、前回寅にブチ切れた博です。
もちろん、無銭飲食の犯人である寅も、金のことで迷惑をかけたことについては素直に反省。
こうなれば、寅への説教は前回の家庭訪問騒動にも及びます。

「ああ、あの時は俺も若かったから。」

そのギャグを聞いて、怒り心頭だっはずのおいちゃんが、おもわず笑ってしまいます。
あれは、なかなか演技では出来ませんよ。撮影現場の良好な空気があればこそ、引き出せた演技だと思われます。
しかし、ここは甘い顔をしてはいけない。
しっかりといい聞かせないといけないと思ったさくらは、寅にたたみかけます。

「仮によ、あの先生にきれいなお母さんがいたとして、その人をお兄ちゃんが好きになったとしたら、私たち誰も文句なんか言わないわ。お兄ちゃんはそれくらいの歳なのよ。」


すると、満男の学校の柳生先生が、とらやに、病院から退院したばかりの、自分の母親を連れて、お団子を買いに来るという展開。
まあまあ、なかなかお上手です。
図らずも、寅にお墨付きを与えてしまった形のさくらは絶句。
綾は、柴又では有名な名家のお嬢様で、おばちゃんもおいちゃんも「柳生様のお嬢様」はよく覚えていました。
つまり、雅子先生は、お嬢様のお嬢様というわけです。
綾は、寅やさくらが子供だった頃のとらやもよく覚えていて、とらやは大盛り上がりです。
寅は、このどこか浮世離れした美しい母親に、たちまちときめいてしまいます。
御前様も、もちろん「柳生家のお嬢様」は知っていて、綾の見舞いにも足を運んでいました。
その綾が、寅を連れて歩いているのを見て、目が点になる御前様。

その夜、とらやでは、柳生家に関する巷の噂が話題のテーブルに乗っています。
タコ社長も、女学生時代の綾に憧れていたことを白状。
8時を回って帰宅した寅は、ほろ酔い加減でいい調子です。
聞けば寅は、柳生家でご馳走になって来たと言います。
さあ、「寅のアリア」が始まります。
しかし、この名調子を文章で書いてしまうほど野暮なことはないでしょう。
ここは是非、映画を見てお楽しみあれ。

寅は、娘が学校に言っている間は、寂しくてしょうがないという綾の元へ、源公を連れて、日々通い始めます。
寅がマドンナの元へ通い詰める時に、源公が付き合わされるのは、このシリーズでは何回か見られるパターン。
それが、「自分はやましいことはしません」というマドンナへの意思表示のつもりなのか、二人きりで向き合う度胸がないからなのか。
このあたりは、微妙なところですが、寺男の源公を連れて行かれて、困ってしまったのは御前様。
源のかわりに、お寺の鐘までつかなくてはなりません。
源の代わりに、柳生家への使いを引き受けたのはさくらです。
しかし、その庭先に、寅と源公がいるのを見てビックリしてしまうさくら。
綾は、寅の訪問を、心の底から楽しんでいる様子です。寅には何も言うことが出来ないさくら。
寅の柳生家通いは、たちまち柴又界隈のトップ・トピックスになってしまいます。

柳生家では、婆やにもしっかりと小遣いを渡して、懐柔してしまう寅。
まるで子供のように、ルンルン気分の綾を連れ出して、源公をおともにピクニックです。

一方、柴又第二小学校では、PTAの会合の帰りに、雅子のいる教室を覗くさくら。
雅子は、忙しく、生徒の描いた絵の貼り出し作業をしています。
さくらは、毎日ように、柳生家を訪れている寅のことが気になって、雅子に謝罪します。
しかし、かえってお礼を言いたいのはこちらの方だと頭を下げられてしまうさくら。
満男の描いた寅の顔におもわず吹き出してしまうさくらですが、母親の話をしているうちに急に深刻な顔になる雅子。
さくらが気にして声をかけると、意を決したように雅子は話し始めます。

「実は、母はもう長くないの。お医者様にも、もう好きなようにさせてあげなさいと言われている。」

言葉をなくしてしまうさくら。
とらやまで一緒に帰ってきたさくらと雅子は、座敷を見てビックリ。
なんと中からは、寅と水元公園を散策した帰りの綾が、手招きしています。
柳生家で、いつも寅がごちそうになっているお礼にと、その夜のとらやには、おばちゃんの田舎料理がズラリ。
病院生活が長く、世間のことにはまるで疎い綾の、天然の「お嬢様」ぶりが、雅子にバラされてしまいます。
そんな綾子に、寅屋の面々は、世間を知るためのいろいろな仕事を提案していきます。
しかし、テキヤ以外にはまともな仕事をしたことのない寅のいうことはメチャクチャ。
一同は笑い転げてしまいますが、喜ぶ母親の姿を見る雅子の表情は複雑です。
そんな雅子の気持ちが理解できるさくらは、一同にはわからないように、勝手に立って、そっと涙を拭きます。

病状が悪化しても、けっして病院には戻ろうとしない綾に、困り果てた雅子が、さくらに電話をかけてきます。
綾は、私の言うことは聞こうとしないけど、寅の言うことなら聞くような気がするから、寅から説得し欲しいという依頼です。
柴又界隈の噂を気にし始めた寅は、一瞬柳生家へ行くのを躊躇しますが、「そんなことどうでもいい」とケツを叩いたのはさくら。
寅は、一目散に柳生家に向かいます。
綾は縁側に安楽椅子を出して、散りゆく庭の落ち葉を眺めていました。
綾の余命のことなど何も知らない寅は、「心配いらない」という綾の言葉に安心してしまいます。
しかし、庭の落ち葉を掃き始めた寅に向かって、綾がポツリと一言。

「人間はなんで、死ぬんでしょうね。」


これは別所温泉で、坂東鶴八郎一座が演じた芝居の中にもあったセリフです。
どうやら、綾は自分の死期を予感しています。
しかし突然、そんな哲学的命題を振られても、悲しいかな、寅の思考回路は単純にしか回転しません。
そのトンチンカンな回答に、笑い転げる綾。

その夜、博とさくらのアパートに、雅子から電話がかかってきます。
要件は寅への礼なのですが、結局、病院にいかない綾の具合は、以前悪いままで、熱も下がらないとのこと。
さくらは「お大事に」というしかありません。
翌日、寅は根津神社の境内で商売をしていますが、ここをパトロールしていた警官がよく知った顔でした。
セリフはなく、舌ったらずの名調子は聞けませんでしたが、永六輔です。
寅が売っていたのは、「くじら尺」という日本伝統の物差しです。
僕の世代ではかろうじて覚えていますね。我が家にもあって、オモチャにして遊んでいました。
ちなみにメートル法の施工で、それまでの尺貫法が違法扱いされ、多くの職人が困惑している状況を憂いていたのが当時の永六輔。
当時、テレビやラジオなどで、盛んに尺貫法復活を呼びかける言論活動を展開しています。
本作へのノンクレジットでの特別出演を見ると、山田監督も永六輔の主張に賛同していたものと思われます。


さて、稼いだお金で買った土産を手に柴又に戻ると、寅が向かう先は我が家ではなく、綾のいる柳生家。
しかし、綾の状態は芳しくなく、雅子から、医者の注射で寝ているところだと聞くと、心配でいてもたってもいられなくなる寅。
なにか自分にできることはないかと雅子に聞きます。
綾が、いつかとらやで食べた、里芋の煮ころがしが、もう一度食べたいと言っていたというのを聞くと、寅はダッシュで帰宅。
その肩には、八百屋で仕入れた里芋の袋が担がれています。
事情を理解したさくらが、おばちゃんに変わって、芋の煮ころがしを作り始めましたが、結局とらやの里芋は、間に合いませんでした。
源公が、柳生家の異常を知らせると、とりあえず屋敷へ向かった寅とさくら。
しかし、柳生家ではすでに大勢の弔問客が、綾の臨終の知らせを聞いて集まって来ています。

「寅さん。お母様ね。今さっき天国に召されたのよ。」

気丈に答える雅子に、寅はかける言葉もありません。
長年、綾の世話をしてきた婆やも、廊下の隅で泣き崩れています。

かくして、シリーズ18回目の失恋が、本作ではこんな悲しい形で成立です。

綾の葬儀が、教会でしめやかに行われています。
その末席には、寅とさくら、そしておいちゃん、おばちゃんの姿も。

雅子が、産休代行を勤めていたクラスにも、正規の教師が職場に復帰します。
彼女が、忙しく家の荷物をまとめている屋敷の庭先に、寅がフラリとやってきます。
借金だらけだったという屋敷の生活は、家を売却することで整理し、新潟の小学校に転任することを寅に伝える雅子。
寅は、綾の余命がないことを自分だけが知らずに、バカなことばかり言っていたことを反省しますが、雅子は首を横に振ります。
そして、寅にこう聞きます。


「寅さん。お母様のこと、愛してくれてた?」

そんな滅相もないと、首を横に振ってしまう寅。
しかし、雅子は続けます。

「でも、お母様はそう思ってたわよ。きっと。」

寅が、柳生家に足繁く通ってくれた日々が、綾にどれだけ生きる喜びを感じさせてくれていたかを切々と寅に伝える雅子。

「誰にも愛されたことのない寂しい生涯だったけど、でもその最後に、たとえ一月でも、
 寅さんという人が側にいてくれて、お母様、どんなに幸せだったか、わたしにはよくわかるの。」

そう言って泣き崩れる雅子に、寅にはかけられる言葉もありません。


旅に出る寅を、柴又のホームで見送るさくら。

「なあ、さくら。人の一生なんて儚いもんだな。」

この一ヶ月の出来事を、走馬灯のように反芻する寅。さくらはコクリと頷きます。
寅は、綾を交えて、いつかとらやで語り合った話題の続きを、さくらに披露します。
綾がこんなことにならなければ、彼女には、花屋を開いてもらって、自分もそこで一生働くつもりだったと・・
それを聞いていた、さくらの目には大粒の涙。
電車に乗り込む寅ですが、電車がいってしまっても、さくらの涙は止まりませんでした。

新年の参拝客でにぎわう、とらやを訪れたのは、孫に手を引かれた婆やでした。
孫はもう立派な青年で、この後のシリーズでも、何回か顔を出すことになる赤塚真人。
この頃の、テレビドラマでは、よく見かけた人ですね。

雅子は、新潟県の六日町で、新しい教員生活をスタートさせていました。
とらやの座敷宅の上には、一同に対する感謝を綴ったハガキが届けられています。
「ここに寅さんが、訪ねてきてくれたら・・」
ハガキにそう綴られているという展開は、吉永小百合出演の二本がそうでしたが、本作のラストはそれが実現してしまうというもの。
雪国の小学生たちと、スキーを楽しむ雅子ですが、そこに現れたのが、いつものいっちょらに長靴だけを履いた寅。
おいおい、冬の雪国で、そのカッコはないだろうというツッコミを入れたくなりますが、やはり防寒服を着た寅では絵になりません。
ここは、役者としての気合の入れどころ。


というわけで、マドンナが、映画の中で亡くなってしまうという展開の本作。
ドラマ版「男はつらいよ」の最終回では、ファンの気持ちを無視して、寅次郎を殺してしまったことを反省した山田洋次監督。
以降映画シリーズになってからは、主演だけでなく、レギュラー陣も含めて、映画の中では、誰も殺さないことを頑なに守ってきた節があります。
誰かを殺すことで、脚本にインパクトを与えることは簡単です。
しかし、あえてその安易なドラマ・ツルギーには頼らず、誰の日常にもある出来事だけを紡いで、泣き笑いの物語にしていくのが山田監督の技でした。
しかし、本作ではあえてその暗黙のルールを破っています。
当然、マドンナが不治の病で亡くなるという展開には、それなりのインパクトがあります。
ですが山田監督は、それをあえて「御涙頂戴」を意識的に避けるように、淡々と描いています。
ともすれば、マンネリに陥りやすいという宿命を背負った本シリーズに、許されるギリギリの変化球をひねり出しては、常に新しいパターンを模索し続けてきた山田監督。
しかし、この展開は、以降シリーズで二度と使われることはありませんでした。

さて、次作は、第19作目「男はつらいよ 寅次郎と殿様」です!

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