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【コラム】新入社員はスーツが似合わない

吾輩は猫を被るニンゲンである。名前はぽん乃助という。

サラリーマンの週末。ジムでストレスを汗で流す者がいる。

その傍ら、居酒屋でストレスを酒で胃に流す者たちがいる。もちろん、私はそのひとりだ。

おもむろに隣を向くと、微笑ほほえましいとは程遠いオジサンたちが談笑していた。そして、その烏合うごうの衆の一人が、得意げな顔でこう話していた。

「新入社員はスーツが似合わない」

うーん、なんか違和感!

確かに言いたいことはわかるよ。私も新入社員のときの写真を見ると、スーツに着られている感が大いにある。

でも、どうして。オジサンたちは、得意げな顔をしているのか。

上司や奥さん、娘たちに悪口を言われている鬱憤でも晴らしているのだろうか。

自分より確実に弱い相手だからか、新入社員のことになると、妙に張り切る人も多い気がする。

いやいや、そんなオジサンたちの事情はどうだっていい。考えているだけ時間の無駄だ。

冷静に考えれば、真実はわかるはずだ。

スーツ姿が似合わないように、新入社員が振る舞っているのだ。

窮屈で漆黒のリクルートスーツを着たら、誰だってダサく見えるはずだ。

短髪の髪を縛って薄化粧したら、誰だってかすんでみえるはずだ。

逆に、新入社員がベテランと同じように、ゆとりのある姿を見せたら、オジサンたちはどう思うだろうか?

きっと、「あいつは大物だな」って、この居酒屋で嘲笑しているのだろう。

新入社員のミッションは、教えてもらうことだ。だから、素直で可愛がられるキャラに自分を仕立てることが唯一の処世術だ。

だから、1ヶ月前まで居酒屋で出禁になっているような大学生だって、似合わないスーツ姿を装い、必死に没個性化しているんだ。

でも。私も年を経たら「新入社員はスーツが似合わない」とか、居酒屋で言っているのだろうか。

なんだか寒気がした。

コメダ珈琲店で酔いを覚ましながら、そんなことを考えてしまった。

酔いが覚め、老いに抗いたくなった私は、足早とチョコザップに向かっていた。


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