見出し画像

アパートの更新時期が来たから、世界一周の旅へ出ることにした話

旅へ出るタイミングは、人それぞれ。

休暇だったり、何かへのチャレンジだったり、新婚旅行だったり、リタイアだったり、失恋だったり。

私のそれは、「あ、そういえばもうすぐアパートの更新だ」
であった。

かれこれ6年ほど前の話である。


人生を前に進めるために

もちろんそれは出発のきっかけだったにすぎなくて、世界旅行への憧れは昔から抱いていたものだ。

私が決して正社員にはならず、契約社員止まりで何十回と転職を繰り返すのは、いろんな職種への好奇心からではあったが、その根底にはいつも

「行きたい国へ行って、この目で見たいものを見るんだー」
という使命感にも近いミッションが眠っていたように思う。

ならば、
これをさっさと実現しないことには人生が前へ進まない。

すぐに会社に退職を申し出た。


エコノミー症候群がイヤだから、、、

そもそものきっかけは、小学生の頃に見たテレビだった。

「地球温暖化が進むと、氷河が崩れ落ちるこのダイナミックな音も聞こえなるかもしれません」

その前後は全く覚えていないが、なぜかその氷河がとても印象に残った。
大変だー、早く見に行かなくては。

それが、”パタゴニアのモレノ氷河を見に行く”という最初の潜在ミッションとなった。

その後、
・日本の裏側にあるブラジルに行ってみたい。
・イグアスの滝を見たい。
・本場のサッカーが見てみたい。
・本場のアイスホッケーが見てみたい。
・サハラ砂漠でラクダに乗ってみたい。
・イタリアで本場のピザが食べたい。
・スペインで本場のフラメンコが見たい。
・オーロラを見てみたい。。。

と、”死ぬまでにやりたいことリスト”がだんだん増えていった。

当初は、ひとまずモレノ氷河のあるアルゼンチンとブラジルに行こうと思っていた。
でも日本から24時間近くかかるらしい。
24時間座りっぱって、、、エコノミー症候群になる自信しかない。
何かもっと楽な方法はないかなーと思っていた時、
以前、本で読んだ世界一周航空券のことを思い出した。

そうだ、転々と寄り道しながら、ついでに”やりたいことリスト”を叶えながら進めば一石二鳥じゃん!

1箇所ずついろんな場所へ行った方が、各地を存分に味わえるだろうけど、
『地球を1周する』するというフレーズが何より私をワクワクさせた。

これがいい。これにしよう。

ちなみにわたくし、この時点では10年ほど前にハワイとニューヨークに行ったことしかない、飛行機のチェックインの仕方すら覚えていない海外旅行超初心者であった。
都合の悪いことは無視できる才能がある。


ビンボー人生最大のお買い物

いったんワクワクに火がつくと、スタートダッシュにものすごい瞬発力を見せる私。その日から、怒涛のように世界一周航空券について調べまくった。

世界一周航空券は、途中でルートの変更は可能だが、航空券の購入前にルートを一旦完成させ、全ての予約を取ることが必要だ。
使える航空会社やフライト回数などが厳しく決められていて、ルールが複雑なので、ルートを代理で完成させてくれる旅行代理店やサイトがあるのだが、旅行費だけでもギリギリの所持金しかない私は、そんなルート作成ごときに1円たりとも払うものかと、独学で試行錯誤を繰り返し、何度も浜松町のJALプラザに通っては、このルートで予約が取れるかを確認してもらった。

そして、とうとうJALの親切な窓口のお姉さんに
「このルートなら大丈夫です。予約取れますよ!」
と言っていただいた。

世界一周航空券が買える。
買えてしまう。

4大陸ルートにしたので、35万円ほど。
16回のフライト付きで4大陸も回れてこの値段。なんて激安なんだ。
払ってしまえば、もはや出発したも同然。
でも、万年貧乏人の私にとっては、とっても大きい買い物だ。

何しろこの時の全財産、100万円ほど。。。

「1週間、お取置きができますので、ご決断されましたらお電話ください。」

財布を握りしめたまま即決できかねている私に、
「足繁く通ってやっと完成したのに買わんのかい!」とは言わず、
笑顔でこう声をかけてくれたJALの窓口のお姉さん。
ありがたい。

買わない選択肢はほぼなかった。
また振り出しに戻ってしまうのはごめんだ。

でも、かといって、少し落ち着く時間が欲しかった。

スタートダッシュだけはいつもダントツなのに、ゴール直前で
「え?いいんだっけ?本当にこのままゴールしていいんだっけ?」
となぜか急に不安になって立ち止まるところは私らしい。

実は、ものすごい心配性の実家の母親にはまだ何も話していなかった。死にものぐるいで反対されるのがオチだから、ここは出発直前に言おう作戦。

ワクワクとハラハラで、残り少ない日々の仕事も手につかない。
大丈夫かな。。。
大丈夫だよね。。。

よし!

考えたところで解決しない不安は気づかなかったことにして、数日後、JALに電話をし、私史上最大の買い物をキャッシュで済ませた。(←よっ!貧乏人)

行くと決めてからの怒涛の1ヶ月

行くとなったら、なるべく万全の準備をするしかない。
海外旅行保険にも入り、バックパックやら、腹巻き風貴重品入れやら、海外用プラグ変換器やら、ネットで調べまくった世界一周旅行に必要なものを購入。

ブラジルに入るにはビザがいるとのことで大使館へ。
(ここで、ブラジルで不法労働する人だと疑われ、誓約書を書かされてなんとかビザを発行してもらえたというトラブルに見舞われるが、それはまた書く機会があれば。)

サハラ砂漠のあるアフリカ大陸とデング熱が流行っているブラジルにも行くため念の為予防接種を。
(東京医大に渡航専門外来があり、行き先を言うと必要な予防接種をしてくれる。出発まで日がなかったため、いっきに何本か打った覚えが)

旅の期間はノープランだったが、世界一周航空券は有効期間が1年間。
長旅になることを想定し、携帯電話はストップし、以降の国内通話はスカイプで行うことに。
住民票もいったん国外に出すことにして、役所で手続き。(こうすると住民税が取られない)

旅行の準備と、アパートを引き払う準備とで怒涛の1ヶ月だった。

そして、両親に連絡。
「なんで今?」という予想もしない諸々のトラブルがあったものの、なんとかひと段落し、両親はもはや私を止められる段階でないことを悟って、諦めの仏顔で、無事を祈って送り出してくれた。
そんな両親に感謝しかない。

ミッションコンプリート!

出発時には、空港に何時間前につかなければいけないのかもよく知らなかった海外旅行超初心者だった私が、最終的に
4ヶ月ちょっとで16か国を周り、30回ほど飛行機に乗り、

パタゴニアでモレノ氷河が落ちるところを見て、
ブラジルでイグアスの滝を見て、
サンバを見て、サンバを習い、ジャングルの川で泳ぎ、カポエイラを習い、
バルセロナでバルサの試合を見て、
フィンランドで本場のアイスホッケーを見て、
ロサンゼルスでも本場のアイスホッケーを見て、
サハラ砂漠でラクダに乗ってキャンプをし、
イタリアで本場のピザを食べ、
スペインでフラメンコを見て、
フランスでフランスパンを食べ、
アルゼンチンでアルゼンチンタンゴを習い、
グアテマラでスペイン語を習い、、、

と”やりたいことリスト”のいくつかを叶えながら、無事に世界一周をすることができた。

出発時には考えつかないことが起こり、得たものは数えきれない。


旅を終わりにしてもう帰ろうと思った理由

高校の授業で、ある先生がこんな話をした。

「旅」と「旅行」の違いがわかるかい?

帰る日を決めて出発するのが「旅行」
決めずに出るのが「旅」
だとその先生は言った。

私の初めての世界一周旅行はまぎれもなく「旅」だった。

ロサンゼルスが思いの外、寒すぎて長く滞在できないと思った私は、そのあとこのまま、アラスカまで行こうという気持ちもあった。

所持金(全財産)はもう残り少なかったが、行けないことはなかった。

でも、旅を切り上げて帰国することに決めたのには、はっきりとした気持ちがあった。

「一人で見る綺麗な景色はもういいや。次は、お金では買えない景色が見たい」

それは例えば、一生懸命頑張って、チームでいい仕事をして成功したときの景色だったり、何かで日本一になれた時の景色だったり、努力の末にやっと見ることのできる景色だったり。

早く帰って、次のステージへ進もう!!

そう思った瞬間、帰国ルートを予約していた。


得られた宝物

大好きな星野道夫さんの本の中に、たしかこんなくだりがあった。
(言い回し、うろ覚えだけど)

友人「旅先でものすごく綺麗な景色を見たとき、君ならどうやってそれを大切な人に伝える?」
星野さんは答えた。
「僕は写真家だから、やっぱり写真でそれを伝えようとするかなぁ」
友人「僕は、自分が変わることだと思うんだ。自分がそれを見て、何かを感じ、変わること。それを通して、大切な人はきっと何かを感じてくれる」

私は「自分探しの旅」だとか「旅に出ると価値観が変わる」といった言葉があまり好きではない。

自分なんて旅に出たからって見つかるものでもないし、そもそもいつもそこにあるものじゃんと思ってしまう。
価値観だって、旅で変わる人ももちろんいるだろうけど、南極へ行ったって何も変わらない人もいる。
逆に、日常の何気ない生活から価値観を柔軟に更新している人はいて、そういう人はステキだなって感じる。

近場の旅でも、遠くの旅でも、何かを感じとれる人は感じとれる。
そういう意味では毎日の通勤でさえ、旅になりうる。

大事なのは、どこで何を見るかでなく、何を感じるか、なのかもしれない。


私の今回の旅は、だいぶ遠出ではあったけど、

ただ、"見たいものを見たい”、”したいことをしたい”という純粋な好奇心と欲望で出発したに過ぎない。

その結果、お腹いっぱいになるほどの美しい景色や、忘れがたい体験をたくさんしたが、

やってみたかったことをやり遂げられた

という充実感と自信が、何より大きかった。
それは、何ものにもかえがたい宝物となった。


そんなこと、大自然の雄大さに比べたら…って気づける人間でありたい

この旅を通して、生涯忘れないようにしたいことが2つある。

・旅先で色々な国の、たくさんの人に助けられたこと。
大きなトラブルもなく、無事に帰ってこられたのは、全くもって皆さんのお陰です。
ヘルシンキでいきなり迷子になったとき、モロッコで謎の高熱が出たとき、あわや飛行機に置いてけぼりになりそうだったとき、ラッシュ時の駅で声をかけてくれたおじさん、スペインで泊めてくれた友人の友人、ブラジルの川で通訳してくれたポルトガル人のカップル、、、書ききれないのでこのくらいで。

・慌ただしい日常の中でも、地球の大きな流れ、自然の偉大さを忘れない。
今後、日々の暮らしの中で、嫌なことがあったり、忙しすぎて我を忘れることもあったりするだろうけど、そういうとき、あの広大な氷河が大海に崩れ落ちる音だったり、砂漠の砂を生み出した悠久の時の流れだったり、イグアスの滝で感じた地球の果てしない息吹だったり、そういった人間をはるかに卓越した大きな自然の力、悠久の流れがあることを思い出したい。

そうすれば、なんで私こんなちっぽけなことで悩んでるの?とか、忙しさに埋もれそうな時に我を取り戻せる気がするから。

「想定外でした」なんて言葉があるけど、自然の力なんて、とうの昔から人間の想定外だ。
自然に対する畏怖の念を忘れないようにしたい。

旅のその後

旅から帰ってきて以来、以前より地に足をつけて仕事に取り組むことができるようになった。
おかげで、仕事で何かをやり遂げるという達成感も味わうことができた。
いまだに正社員になることへの抵抗感はあるけれど、目の上のたんこぶ的な大きなミッションをひとまずクリアできたことで、人生を少しだけ前に進めた気がする。

けど、アパートの更新時期が来るたびに、どこかへ出かけたくなる衝動には相変わらずかられており、2年ごとに県をまたいで引っ越すというミニジャーニーを繰り返している。

私の祖先はきっと遊牧民かなーと思う今日この頃。

今住んでいるところの次の更新時期は1年後。
その頃には、旅ができる世界が戻ってきてるかな♪

今回の旅で、ルートや出発季節の事情により、やむなくアジア圏は後回しにしたので、次はアジアに行ってみたいな。

皆さんも更新時期には是非どうぞ。

旅の模様も、そのうち書いていきたいと思います〜







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?