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企業再生メモランダム・第13回 社内政治について

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの9枚目は10年前に作成した「社内政治について」と題したメモです。

まるで山崎豊子の小説の世界のようになってしまいますが、赤字会社に社内政治は付き物なのです。避けては通れません。

メモの背景

赤字会社であった対象会社の内情について、もう少し詳細を記載したいと思います。

私が株主から送り込まれた時点で、社内は、数年前に中途入社で代表取締役社長として送り込まれた社長派と地元出身の生え抜き社員である経理部長派に、大きく二分されている状態でした。

私がターンアラウンドマネージャーとして送り込まれる前から、両者は酷くいがみ合っており、個別に、株主に対して、大なり小なり相手側の不正を密告するような状態が続いていました。

しかし、株主は、リーマン・ショック前の好景気で、対象会社も経営成績としては支障がない状態だったため、余程のことがない限りは、株主権を行使したり株主として両者に介入はしたりしない方針でした。

今までも社長については記載をしてきましたので、今日はもう一人の派閥の領袖である経理部長について記載します。

一般的なビジネス感覚では、経理部長が、社内において、発言力を持つということはあまりないことだと思います。

なぜ彼が力を持つに至ったのか。それは、対象会社は過去にも1度破綻をした会社だったからです。過去においても、経営危機を経験しており、そのときに当時の社長の右腕として財務面で活躍をしたのが彼だったのです。

彼は、過去の対象会社の破綻時において、嘘か本当かは分かりませんが、裏帳簿を複数作って金融機関から多額の融資を引き出したことや、出資法や利息制限法を超えた利率で融資するようなノンバンク(いわゆる闇金融)との取引をしたことを自らの武勇伝のように吹聴するような人間でした。

私が派遣されてからも、彼は、会社のお金を握っていたことから、時に、対立する社長と親密な取引先に対して故意に支払いを遅延させるなど、社外の人に迷惑をかけることも一切気にかけず、社内政治を優先して嫌がらせをしていました。

また、対象会社が資金繰りに窮した際に、取引先に一切の連絡を入れずに振込日を遅延させることを頻発し、感覚が狂っていると思ったものです。

彼は、自らは地元の大企業の経理部長で、取引先は下請け先に過ぎないと考えているようでした。

以前も記載をしましたが、当時、株主サイドから送り込まれた私や株主チームでは、どの程度、その社長が地域に根を張っているのか、株主以外のステークホルダーに影響力を有しているのか分かりかねたため、基本的には、社長を残しながら、経営改革を進めるという難易度の高い選択を選んで、企業再生をすることにしました。

このような状況下で、企業再生にあたり、私が最初に行ったことは、幹部社員に対するヒヤリングでした。

社長も、経理部長も、それぞれの派閥の右腕と目される幹部社員、派閥に与さずにしっかりと仕事をしている幹部社員など、幹部社員全員から話を聞いたのです。

当時の私は20代半ばでしたから、若僧となめられていたのかもしれませんが、双方とも、私の前で言いたい放題、相手のことを悪く言うのです。

少し立ち止まって考えれば分かるような話なのですが、私のターンアラウンドマネージャーとしてのミッションは、赤字会社である対象企業を黒字にして企業再生をすることであって、どちらかの派閥をパージ(追放)することではありません。

その社長も経理部長も、そして、当時の多くの幹部社員も、長年の派閥争いで狂ってしまっていたのだと思います。新たなプレイヤーが自分たちのゲームに参加するものとでも思ってしまったのだと思いますが、全く違うロジックで、ゲームチェンジをしに来たことが分からないようでした。

長い時間をかけて、社内政治の低俗な話を丹念に聞いていると、本当の問題が見えてきます。

本当の問題は、この社内政治の状況を奇貨として何も努力をしない、もしくは、こういった状況からか努力をすることを諦めてしまった幹部社員や一般スタッフの存在だったのです。

例えば、片方の派閥から指示を受ければ、もう片方の派閥があるから難しいと回答をするのです。指示を受けた内容が、会社として正しかろうが間違っていようが関係ないのです。常にやらないことの大義名分を持っている状態です。

この人たちは、極めて官僚的で、表立って、声の大きい二大派閥に対して反論をすることはありません。そのようなことをしては、目を付けられてしまいますし、面白くありません。

そのため、彼らはどうするかというと、ただひたすらに、時間をかけてやり過ごすのです。反論すれば角が立ちますから、反論もせず、何もせず、ただ指示を受けたこと、頼まれたことを放置するのです。

これが、この会社で賢く、したたかにやり過ごすテクニックだったのだと思います。

赤字会社ですから当たり前なのかもしれませんが、「普通の会社」の観点から評価すると、全員がおかしくなっていたのだと思います。

メモ「社内政治について」の中身

「社内政治ついて」は、当時のヒヤリング情報のメモのため、残念ながら、秘密保持の観点から、今回は記載できません。

人間は政治的な生き物です。多くの人の生活基盤である会社が潰れそうになるまで社内政治をし続けるということに、人間の愚かさを感じずにはいられません。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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