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企業再生メモランダム・第8回 管理会計の構築について

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

本連載ですが、赤裸々に企業再生の「リアル」をお伝えすることで、経営危機に悩む経営者・幹部社員の皆さんに参考にしてもらいたい、企業再生における人と組織の動きを知ってもらいたい、そして、全ての人が持っているリーダーシップの大事さを知ってもらいたいという想いから、記載させていただいています。

企業再生の「リアル」を記載をすると、結果として、対象会社を経営危機に陥れてしまった一部の経営者や幹部社員の方々については、残念ながら、どう配慮してもポジティブな描写にはなりません。

しかし、これはあくまでターンアラウンドマネージャーからの目線でのコメントであること、また、会社組織で任せられていた役職の役割を果たせていなかっただけで「人格」とは別論点であること(例えば、地域社会で活躍していたり、友人としては友達想いで本当に優しかったり、人として素晴らしい方も多数いらっしゃいます。)については、くれぐれもご留意いただきたく考えています。

メモの6枚目は10年前に作成した「管理会計の構築について」と題したメモです。

メモの背景

以前にも記載したとおり、対象会社は社長によって赤字であることが隠蔽されている会社でした。

私が企業再生に参画した当初は、定期的に経営者及び幹部社員による経営会議が開催されていましたが、売上情報しか共有されず、原価及び販管費については言及がなく、部門ごとの営業損益が分からないのです。

社長が幹部社員や一般スタッフに見せたくなかったものは、地元財界にいい顔をするための不必要な外注費、自己ブランディングのために費消した宣伝広告費、そして、会社を傾けるほどの多額の接待交際費だったのだと思います。

特にその社長は派手好きな方で、私が企業再生に参画する1年前には、まるで自分が代表取締役社長となってからのわずか数年が会社の歴史の全てのような「自分史のような社史」を多額のコストをかけて制作し、対象企業のOBスタッフや地域社会から失笑されていました。

当時の経理部長ら一部の幹部社員は、管理会計が構築され、会計情報がオープンとなって衆人環視のもとになれば、社長も無茶苦茶できないだろうと、社長に対して、情報開示をするように進言したようでしたが、社長は先ほどのような経費が詳らかになることを望まず、その提案を握りつぶしたそうでした。

今後記載することになりますが、当該経理部長は、生え抜き社員の頭領格の人で、当時、社内政治においては社長と対立関係にあった人でした。

「内部統制の限界」という言葉があります。会社法上では大会社の経営者には内部統制システムの構築義務がありますが、経営者がその義務を放棄したり、制度そのものを無視したりした場合は統制が機能しないのです。

まさに対象会社はそのような状況でした。

このような状況下で、株主から送り込まれた私としては、管理会計について言及せざるを得ない状況でした。

メモ「管理会計の構築について」の中身

以下にメモを紹介しますが、専門的な管理会計の構築を想像している人には、えらく拍子抜けするような内容だと思います。

実は管理会計を構築すること自体は難しい話ではありませんが、コーポレート・ガバナンスが利いていない企業において、管理会計を構築するなどマネジメントシステムを構築するすることは、なかなか一筋縄ではいかないのです。

ごくごく当たり前のこと、普通のことができなくなる。病人と同じです。これが企業再生の「リアル」ですし、赤字企業の現実だと思います。

1.現状の問題点

現状の社内における数字は、売上、客数、客単価の前年対比です。少なくとも、各部門の原価及び販管費を明らかにして、営業利益まで情報開示する必要があります。

管理会計システムは、営業ノルマやスタッフを鼓舞するためだけの計数管理ではなく、経営戦略のための管理会計や現場改善のための管理会計にしなければなりません。

2.管理会計システムの構築の仕方

営業部門と経理部門で情報交換をしながら、新しい管理会計を構築します。各部門は事業内容が異なるため、それぞれの事業に沿った管理会計を作る必要があります。

3.情報共有のレベル

各部門の売上、原価、粗利、販管費及び営業利益に関しては、全社的に共有した方がよいと考えます。

また、各部門に、KPIを設定して、当該KPIから逆算して、どうすれば会社がよくなるのかを考え、各人に責任を持たせて(そのかわり権限を持たせて)、担当と期限を決めて、業務改善活動をさせた方がよいと思います。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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