企業再生メモランダム・第30回 第6回勉強会 オペレーション

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

「企業再生メモランダム・第16回 勉強会について」に記載したとおり、私は、対象会社の中堅スタッフに言われて、希望するスタッフ向けに勉強会を開始しました。

メモの22枚目は9年前に作成した「第6回勉強会 オペレーション」と題したメモです。

メモの背景

赤字会社のオペレーションというと、皆さんはどのようなものを想像するでしょうか?

これについては、残念ながら、皆さんが想像するような突飛なことはありません。きっと傍目から見ると、「普通のサラリーマン」が日常業務のオペレーションを「普通」に行っているように見えると思います。

「普通の会社」では、業務が属人的にならないように、マニュアル化をしたりIT化を進めたりします。

あえて、人とオペレーションを切り離すのです。

しかし、赤字会社の場合は、スタッフの会社における自分の居場所とオペレーションが一体化していることが驚くほど多いのです。

企業再生も進んでくると、一般スタッフの細かいオペレーションの改善まで踏み込んで行って、業務効率化を図ります。

そのときに論点になるのが、「Aさんしか知りません。」、「Aさんがいないと、その業務は他の人はできません。」というベテラン・スタッフの存在です。

考えようによっては、Aさんは立派な方なのかもしれません。しかし、経営目線からすると、このような脆弱なオペレーションはあり得ないのです。もしAさんが風邪になってしまったり退職してしまったりすると、組織が運営できなくなってしまいます。

なぜこのような状態が起きるかというと、一番は経営者や幹部社員の問題なのですが、これはAさんのやる気と自己保身も影響しています。

Aさんは、当該業務が自分しかできないことが、会社におけるやりがいであったり存在価値になったりしてしまうのです。そうなると、ますます当該業務を他の人には渡さなくなります。

下手をすると、オペレーション改善の一番の抵抗者がAさんになってしまうこともあり得るのです。

業務効率化のためにシステム導入を検討する際に、その業務担当が一番反対するのと同じ構図です。

赤字会社であった対象会社でも、スタッフの会社における自分の居場所とオペレーションが一体化していることが多く見られました。

メモ「第6回勉強会 オペレーション」の中身

1.オペレーションとは?

(1)オペレーションとは?

オペレーションは、経営理念や経営戦略が心や頭に表現されることに対して、体に相当する部分です。どのように優れた経営理念や経営戦略を策定したとしても、しっかりとしたオペレーションがなされなければ不十分です。オペレーションを日常業務と言うと軽く捉えられてしまいますが、オペレーションは経営を支える基盤であり、競争力の源泉ともなる非常に重要な分野です。

(2)目標は「オペレーション・エクセレンス」

オペレーション・エクセレンスとは、オペレーションを競争上の優位性にまで徹底的に磨き上げている状態を言います。オペレーション・エクセレンスを誇る会社では、マネジメントサイクル(PDCA)による進化のサイクルが確立しており、オペレーションの品質の向上を継続的に測定するためにKPIの設定がなされ“見える化”がなされています。

有名な事例では、トヨタ自動車の「カイゼン」であり、マクドナルドの「マニュアル化」が挙げられます。トヨタ自動車、マクドナルドといったオペレーションが強いと言われる会社は、オペレーションの重要性をトップから現場の従業員まで全員が認識しています。

(3)クリエーティブ・ルーティン

クリエーティブ・ルーティンを日本語に翻訳すると、“日常業務の創造“です。

自分たちの仕事を進化させること自体が仕事であると捉えられ、その姿勢が哲学や信念のレベルにまで昇華され、根づいている。

また、自分の仕事だけを考えるのではなく、「仕事の流れ全体を見渡し、一連の流れをより効率的に、よりスピーディに、そしてより正確にするためにはどうしたらよいか」を企業活動に従事する一人ひとりが常に真剣に考えている。

オペレーション・エクセレンスな会社では、クリエーティブ・ルーティンは日常業務であり、目の前にある仕事を淡々とこなすことがオペレーションだと考えている人はいません。

オペレーションの真の意味は、目の前の仕事を「より良く、より速く」行うことであり、そのためにはどうしたらよいかを現場で仕事に従事する全員が考え、知恵を出すことなのです。

2.日常業務を効率化する方法

(1)業務の廃止

業務の効率化を考える前に「そもそもその業務が必要であるのか」どうかを問い直さなければなりません。最大の効率化は、現在行なっている業務そのものをなくしてしまう(廃止)ことです。

(2)業務の自動化

従来人間が行なってきた業務を、ITを最大限活用して自動化することです。様々な帳票類や社内資料の作成は、システムの活用によって自動化が可能です。

(3)業務の簡素化

従来業務の内容をよりシンプルにして手間を減らすのが簡素化です。日頃、当たり前のように何気なく行なっている業務を見直してみると、かなり多くのムダや価値の低い作業が存在します。業務内容そのものを必要最低限のシンプルなものに改める視点が必要です。

(4)業務の標準化

日常的に反復される業務については、業務マニュアルやテンプレート(雛型)を整備することによって、業務そのものを標準化することが可能です。標準化は効率性の追求に役立つだけでなく、安定的な業務品質を確保することにも繋がります。

(5)業務の集約化

共通性、類似性が高い日常的な定型業務が、会社内の複数の部門や拠点で分散して行われているケースがよくあります。日常的な定型業務は、可能な限り集約して、経済合理性を追求することが重要です。PCへのデータ入力業務、顧客からの受発注や各種問い合わせに対応するコールセンター業務などがその具体例として挙げられます。

(6)業務の移管

付加価値の小さい管理・スタッフ業務を全て自社の従業員で処理しようとすると高コスト体質になる可能性があります。現在は、業務のアウトソーシングや契約スタッフ、アルバイトなどのサービスが充実してきているので、内部コストと市場価格を比較したうえで業務の外部への移管を検討します。これによって、経営の変動費化が進み、固定費の小さい柔軟なコスト体質にすることが可能です。

<ご参考>グロービス「MBAオペレーション戦略」



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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