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企業再生メモランダム・第9回 CFTの設置について

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

私がクロス・ファンクショナル・チーム(以下「CFT」といいます。)という言葉に出会ったのは、1999年にカルロス・ゴーンさんが日産自動車に来て経営改革をし始めたときのニュース番組ですから、高校生のときではないでしょうか。

今となっては、保釈中の大逃走劇もあって、いろいろと評価が分かれるカルロス・ゴーンさんですが、私はコスト・カッター、ターンアラウンドマネージャーとしては素晴らしい腕を持っていると思っています。

日産自動車の企業再生は、20年以上経っても、なお、光り輝く実績ですし、実務上も参考になる点が多いと思います。

メモの7枚目は10年前に作成した「CFTの設置について」と題したメモです。

メモの背景

映画や小説でよく描かれるように、多くのサラリーマンは、売上・利益に追われる忙しい毎日を送っているものと思います。

しかし、企業再生であったり経営権争いのアドバイザリーであったり「キワ」の仕事が多い私からすると、真っ当な方向で努力することに大変なサラリーマンは幸せだと思います。

企業再生が必要な赤字会社の多くは、本連載においてご紹介している対象会社のような状況と、似たり寄ったりな状況がある会社ばかりです。

赤字会社の多くでは、社内政治やセクショナリズムが蔓延し、パワハラなど弱者に対するハラスメントが横行し、何が正しいか分からなくなってしまっている幹部社員や一般スタッフであふれかえっています。

信じられないかもしれませんが、時には、社長ですら、何をやっていいか分からないという人がいます。

本来は、世のため人のため、一緒の目的のために、一緒に働く仲間です。それが信頼し合えない。私は企業再生の仕事をさせていただいて、一歩外からこのような会社を見てきて、こんなにも苦しいことはないと思います。

このような状況を変えていくには、愚直に、「お客様のため」や「売上・利益の拡大のため」という仕事・ビジネスの本質に立ち返るしかありません。

一度おかしくなった会社を「普通の会社」にするためには、この組織を生まれ変わらせたいと強く願うリーダーが、向かうべき方向を指し示して、全てのスタッフに対して、繰り返し、繰り返し、同じ話をして、熱量を持ってコミュニケーションするしかないないのです。

会社の組織は、通常、部長、課長、一般スタッフというような「縦割りの組織」が一般的です。

しかし、赤字企業の多くはセクショナリズムが蔓延しており、なるべく自分が責任を負わないように最小限の仕事しかしないなど、組織が硬直化しています。

これを打開するために、「横ぐしの組織」としてCFTを設置するのです。

CFTを設置することで、企業再生を遂行する経営陣とミドル・マネジメント・一般スタッフとのコミュニケーションの場を作ることができます。

これによって、お客様との接点を持つ最前線の現場スタッフの情報を吸い上げることができますし、ボトムアップの経営戦略を立案することができます。そして、ターンアラウンドマネージャーから、一般スタッフに対して、ビジョンを語るなどして、直接的にモチベーションすることができるのです。

経営陣と一般スタッフの風通しが良くなることで、従来の組織図の上司だけが連絡窓口(レポートライン)を独占することができなくなります。

情報の独占ができなければ、恣意的な情報操作はできなくなり、まともな行動しかできなくなるのです。

メモ「CFTの設置について」の中身

メモには、「横ぐしの組織」であるCFTが議論すべき、全社的な問題点にかかるテーマも10項目ほど列挙されていますが、ここでは、CFTの必要性と進め方について、ご紹介をしたいと思います。

1.CFTの必要性について

対象会社の組織は、本社機能と各部門に分かれており、組織ごとの指揮命令系統、すなわち、組織図で表示されている「縦」の指示で日常業務を行っています。 

日常業務をこなすだけであれば、新たに組織図でいう「横」の組織を作る必要はありませんが、今回は、前述の全社的な問題点を解決する手段として、横断的組織であるクロス・ファンクショナル・チーム(CFT)を作りたいと考えています。

今回、私たちは、多くのスタッフを巻き込みながら問題解決をしたいと考えています。

このCFTを設置することによって、① 全社的な問題点の解決、② 人材交流の活性化による一体感の醸成、③ スキル向上を図りたいと考えています。

なお、CFTの成功事例としては、日産やGEが有名です。

2.ポイント

(1)現状は似たような業務であったとしても、部署を超えて、問題点や解決策が共有化されていません。
 ⇒ 情報の共有

(2)どうしても議論が、部署内だけに留まってしまいます。
 ⇒ 部署や部門を越えた全社目線・経営目線の議論

(3)部署を越えた人事交流がありません。
 ⇒ 組織の壁(セクショナリズム)の打開

3.進め方

(1)CFTのチームリーダーとメンバーが、目的と目標の設定と共有、プロセスやルール、スケジュールの確認を行います。目的と目標の設定については経営陣から指示を与えます。

(2)積極的に外部情報を収集し、チーム結成以前の固定観念やセクショナリズムを弱めたいと考えています。同時に、多角的で多様な外部情報の共有を目指します。

(3)収集、共有した外部情報を目的と目標に基づいて優先順位付けし、必要であれば目標の再設定を行い、その実行のための戦略と施策を設計します。

(4)CFTのチームリーダーとメンバーの皆さんには、経営陣に対して、戦略と施策のプレゼンテーションをしてもらいます。

(5)経営陣にプレゼンされた内容が満足に足る内容であれば、社内に告知し、すぐに当該戦略と施策を実行します。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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