企業再生メモランダム・第43回 企業変革の8段階、本物の危機意識を高める基本戦略と4つの戦術

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの33枚目は7年前に作成した「企業変革の8段階、本物の危機意識を高める基本戦略と4つの戦術」と題したメモです。

これはハーバード・ビジネススクールのジョン・P・コッター教授の著書「企業変革力」からの転載になります。

メモの背景

私が対象会社の企業再生中に読んだコッター教授の本は、組織変革やリーダーシップについて非常に示唆があり、学びが多かったです。

コッター教授の著書に記述がありますが、組織や人が変わるには、まず正しく現状認識をしなければなりません。

当たり前のことではあるのですが、実務上は、この目線合わせをするのが本当に難しいと思います。

人間はどうしても嫌なことから逃げてしまうのです。嫌なことはやりたくないし、嫌なことは聞きたくもないのです。

もし信頼できる人から「あなたがお勤めになっている会社は経営危機が噂されているようですよ。」と聞かされても、「このままでもなんとかなるだろう。」、「誰かが何とかしてくれるに違いない。」など、左から右へ聞き流す人が多くの人間なのです。

人によっては、その信頼できる人から聞いた話が間違いだったかもしれないなど、自分の都合の良いように解釈する人もいるでしょう。

私は企業再生で話をするときには、決まって「ゆでガエル」の話をします。カエルは、直接熱湯をかければ、熱いと危機感を感じて、飛び跳ねて逃げていくのですが、カエルの水槽に、火をくべて、徐々に温度を上げていくと茹で上がって死んでしまうという話です。

対象会社は、前身の会社も含めると、50年以上の社歴を誇る会社でした。実際には、徐々に業績が悪化して、ゆっくりと真綿で首を締められている状態でしたが、スタッフの多くは目の前の危機に気が付けなくなっていたのでした。

対象会社の企業再生中に東日本大震災を経験しましたが、東日本大震災による危機感が共有されていた時には、全社的に変わらなければならない、今までを捨ててどうにか変化してでも生き残らなければならないという士気が醸成され、今まで「ゆでガエル」だったスタッフでも危機感が共有できたと思います。

対象会社に直接的な被災はなかったものの、経営に重大な影響を及ぼす事態が発生しており、また、あれだけ連日のように被害状況が報道されれば、目の前の危機感を認識せずにはいられない状況だったのです。

もし組織や人に変わってもらいたいと思うならば、この東日本大震災の報道と同じくらい、繰り返し、繰り返し、人が本能的に持っている危機感に訴えかけなければならないのです。

メモ「企業変革の8段階、本物の危機意識を高める基本戦略と4つの戦術」の中身

1.企業変革の8段階
(1) 緊急課題であるという認識の徹底
・市場分析を実施し、競合状態を把握する。
・現在の危機的状況、今後表面化しうる問題、大きなチャンスを認識し、議論する。

(2)強力な推進チームの結成
・変革プログラムを率いる力のあるグループを結成する。
・一つのチームとして活動するよう促す。

(3)ビジョンの策定
・変革プログラムの方向性を示すビジョンや戦略を策定する。
・策定したビジョン実現のための戦略を立てる。

(4)ビジョンの伝達
・あらゆる手段を利用し、新しいビジョンや戦略を伝達する。
・推進チームが手本となり新しい行動様式を伝授する。

(5)社員のビジョン実現へのサポート
・変革に立ちはだかる障害物を排除する。
・ビジョンの根本を揺るがすような制度や組織を変更する。
・リスクを恐れず、伝統にとらわれない考え方や行動を奨励する。

(6)短期的成果を上げるための計画策定・実行
・目に見える業績改善計画を策定する。
・改善に実現する。
・改善に貢献した社員を表彰し、報奨を支給する。

(7)改善成果の定着とさらなる変革の実現
・勝ち得た信頼を利用し、ビジョンに沿わない制度、組織、政策を改める。
・ビジョンを実現できる社員を採用し、昇進させ、育成する。
・新しいプロジェクト、テーマやメンバーにより改革プロセスを再活性化する。

(8)新しいアプローチを根づかせる → (1)に戻る
・新しい行動様式と企業全体の成功の因果関係を明確にする。
・新しいリーダーシップの育成と引き継ぎの方法を確立する。
2.本物の危機意識を高める基本戦略と四つの戦術
(1)基本戦略
 頭(理性)と心(感情)の両方に訴えかけ、目を覚まさせ、行動を促す。

(2)戦  術
① 外を内に呼び込む
・内の認識と外の現実との乖離、組織内の現状を明らかにする
・7つのノウハウを使って外の変化を伝え、実感させ、体験させる

<7つのノウハウ>
・ 現場の声を聞く
・ ビデオなどを活用して外の現実を伝える
・ 悪い情報を堂々と伝える
・ 掲示などを使い、目の付くところに情報を掲げる
・ 人を外に出す
・ 外から人を入れる
・ インパクトのある情報提供を行う

② 危機感を行動で示す
・重要度・優先度の低いことは切り捨てるなど、危機感を自らの行動で表す
・会議、会話、メモ、メールなどあらゆる機会を生かして「このままではいけない」と訴える

③ 危機を好機とみなす
・危機を逆手にとり、自己満足を打ち砕く絶好の機会として利用する
・慎重に対処し、不用意に大混乱を起こさないようにする。

④ 変革否定論者に対処する。
・現状維持にこだわる人間を退場させる、または無力化する

何かと邪魔立てする厄介な変革否定論者がいたら、どうすればいいのか。攻略法は3つある。
・ こちらから邪魔者を邪魔してやり、何もできないようにすること。
・ きっぱりと組織の外に追い払うこと。
・ 彼らの行動を白日の下にさらし、周囲の圧力でやめさせることである。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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