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企業再生メモランダム・第17回 仕事の優先順位について

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの12枚目は9年前に作成した「仕事の優先順位について」と題したメモです。

多くの人にとって企業再生は縁遠い世界だと思うので、誤解があるかもしれませんが、企業再生とはビジネスモデルの再生だけで成し得るものではなく、本質的なところは、そこにいる「人の再生」なのです。

もし優れたビジネスモデルに作り直したとしても、会社に社内政治に明け暮れている幹部社員とモチベーションの下がった一般スタッフしかいなければ、実行するに足るケイパビリティ(組織的な能力)がなく、ビジネスにすらならないのです。

赤字会社は人を蝕みます。

人として正しいことは何なのか、仕事の素晴らしさ、誰かのために努力することの素晴らしさが分からなくなるのです。

そのため、本連載では、毎度、まるで新卒社員に対して説明しているかのように、「普通の会社」や「普通のサラリーマン」では当たり前のことが繰り返しメモに登場します。

メモの背景

対象会社は地方企業の大会社でしたが、地方企業ならではの特徴がいくつかありました。以前ご紹介した「地縁」や「血縁」による入社以外に、東京で働いている人からすると信じられないようなことが沢山ありました。今回はその代表例を2つほど紹介します。

1つ目の特徴は、対象会社は地元の大企業ですので、地元の高校から、優秀な高校就職者を毎年のように採用していたことです。

現在、私は、いろいろな縁があって、一般社団法人スクール・トゥ・ワークを設立して、高校就職改革をテーマとする社会活動をしていますので、高校就職についても少しご説明をしたいと思います。同団体が発表しているデータ集を抜粋しながらご説明をしたいと思います。

同団体では、大学院卒・大学卒とそれ以外のいわゆる「非大卒」と言われる分断を憂慮して、若者キャリアにフォーカスを当てて活動しています。大学院卒・大学卒の最終学歴の人からすると、それこそ目から鱗が落ちる統計データかもしれません。

若者における最終学歴別就業人口によれば、大学卒は42%に対して、高校卒は25%となっています。そして、「非大卒」(中学卒、高校卒、専門学校卒、短大卒、高専卒)は51%で過半数を占めます。

高校就職者の98.1%は就職ができています。しかし、3年で4割近くの高校就職者が離職してしまいます。つまり、高校就職者はどこかしらの企業にほとんどの生徒が就職することができますが、ミスマッチしているのです。

同団体では、このミスマッチの理由は、決して高校就職者の能力不足ではなく、キャリア教育不足と就職活動方法にあると考えています。

高校就職者は、「一人一社制」という事実上の高校就職ルール(戦前から続く慣習。法律ではありません。)に基づき、1社しか志望することができず、ハローワーク・学校を通じて就職した者の割合は85%にも上ります。

高校就職データによれば、県外就職は18.8%で、多くの高校就職者が地元で就職しています。さらに、業種別で言うと、製造業40.4%、卸売・小売業11.0%、建設業8.3%などに対して、情報通信業1.0%、金融業・保険業1.1%となっています。

2つ目の特徴は、これも地方特有だと思いますが、高校時代の評価基準が、年齢を重ねても続いていくのです。

例えば、「あいつは愚連隊のリーダーだった。」、「彼は野球部のキャプテンだった。」や「彼女は高校時代から勉強ができた。」など、対象会社では、いろいろな人物評を聞いたように思います。

これは高校を卒業して間もない人の話でもなければ、20代の人の話ではありません。信じられないことに、例えば、還暦間近の人物が、未だに高校時代の過去を軸に評価されていたのです。

地元の頭の良い高校出身者が、地元の公務員、銀行員、インフラ系(鉄道や電力など)社員として就職していくのが地元のエリート・コースと言ったところでしょうか。

一度でも、例えば東京やその他地域の大学に進学して、地元を転出してしまったら、この地元コミュニティからは離れた人間と評価されていることが多かったように思います。

しかし、面白いことに、地方の人々の多くは、東京が大好きで、東京に憧れがあると同時に、東京に嫉妬と羨望を感じている人が多いように思いました。東京に出て行った人も、東京から来る人も同様です。

私が対象会社の企業再生をした数年後に、ばったりと旅先で元スタッフと出会って話をしたのですが、そのスタッフは大学卒だったため、高校卒のベテラン・スタッフから嫌がらせにあって辞めたという退職の真相を教えてもらいました。

人事採用の話になると、社長は、自身が高校卒のため、大学卒の最終学歴の方の採用を嫌がっていました。「地元貢献」・「地域貢献」の美名のもとに、業務上必要であっても、ハイキャリアな人材の採用は敬遠されていました。

中途社員の採用方法も、リクナビやマイナビなど人材メディアではなく、ハローワークを通した採用が中心でした。信じられないことに「地縁」や「血縁」で一定の中途採用はまかなっていました。

もちろん、地方企業にも様々あるとは思いますが、特に赤字会社であった対象会社では、東京のビジネス感覚では信じられないことが沢山あったように思います。

メモ「仕事の優先順位について」の中身

仕事は、以下の4つに、大別されます。

1.短期的に考えて、必要かつ重要な仕事
2.短期的に考えて、必要だが重要ではない仕事
3.中長期的に考えて、必要かつ重要な仕事
4.中長期的に考えて、必要だが重要ではない仕事

決められた日常業務は、上記1及び2です。そして、決められていない日常業務の改善業務や問題解決は、上記3です。

対象会社では、幹部社員から一般スタッフまで大半のスタッフが、決められた日常業務にほとんどの勤務時間を費やしています。

善意ある一部のスタッフが、決められた日常業務だけでなく、決められていない日常業務の改善業務や問題解決までしてくれますが、本来、これは善意に甘えるのではなく、会社として取り組まねばなりません。

会社をより良くするためには、決められていない日常業務の改善業務や問題解決をしなければなりません。日常業務を変えていかねばならないのです。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介

 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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