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企業再生メモランダム・第70回 皆さんにお伝えしたいこと①

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの57枚目は6年前に作成した「皆さんにお伝えしたいこと」と題したメモです。

メモの背景

企業再生という仕事は、実に面白いのです。

どうすれば人と組織が変わることができるのか、また、どのように人と組織が変わっていくのかを知ることができるのです。

未熟なターンアラウンドマネージャーには、企業再生を始めたばかりの時期には、以下のように、見えてしまうと思います。

「赤字で今にも潰れそうな会社を助けに来たつもりなのに、なぜか最終的に会社存続というメリットを享受するであろうはずのスタッフから抵抗される。」

経験が不足していると「なんで助けに来てやっているのに、邪魔するんだ。やってられない!」となってしまうわけです。ターンアラウンドマネージャー側に「被害者意識」が芽生えてしまうわけです。

経験あるターンアラウンドマネージャーの目線は違うと思います。

スタッフは、馬鹿ではありませんから、中長期的なメリットは理解しています。しかし、変化が苦しいのです。変化が苦しいから、抵抗するわけです。そこを理解してあげなければなりません。

この苦しい時期を脱すると、一気に正常化が進みます。筋肉痛が無くなって、身体が軽くなるのと同じ理屈だと思います。

人と組織は同じようなプロセスを経て、変化し、成長していくのです。

対象会社は、新経営陣になってからは、経営改革という観点からは何もかもが順調でした。経営成績も黒字となり、人も組織を変わろうとしていました。

今まで下を向いていたスタッフたちが、前を向き始める。企業再生という仕事をやっていてよかったと心から思える瞬間だと思います。

このような状況下で、残念ながら、株主サイドでトラブルが生じていました。私は株主から送り込まれたターンアラウンドマネージャーです。そろそろ役割を終えなければなりませんでした。

私も対象会社が黒字化を果たしたことから、一定の役割を終えたものと自認をしていました。

ただ、短い期間とはいえ、本気で取り組んできた案件ですし、ともに経営改革に尽力してきた素晴らしい仲間もできました。案件が終わるのは寂しい気持ちで一杯でした。

これからは、残った幹部社員とスタッフたちが、自分たちの力で、対象会社の未来を切り拓いていかねばなりません。

メモ「皆さんにお伝えしたいこと」の中身

1.自分の責任と考えられるか

「今、目の前で起きている出来事は、全て自分の責任です。」この考え方が全ての出発点です。

天気のせい、景気のせい、暦のせい、会社のせい、経営者のせい、上司のせい、他部署のせい・・・他人のせいにするのは簡単ですが、何も変わりません。

私たちに求められていることは、主体性です。

常に自分を主語として、話すことであり、行動することです。評論家、批評家、傍観者であってはなりません。

もし会社のために、お客様のために、社員のために行うべきことがあれば、
誰かがそのことをしてくれるのを待つのではなく、率先して自分で考えて動いて欲しいと思います。

もちろん会社は組織ですから、ルールは守らねばなりません。

もし行うべきことが会社のルールから考えて自分の権限を超えているならば、権限を持っている上司を説得すればいいのです。

もし行うべきことが社内だけで解決しないならば、社外に飛び出していって、解決策を持っている人を動かせばいいのです。

リーマン・ショックや東日本大震災など経営危機を乗り越えて、私たちは強くなったと思います。

昔は天気のせい、景気のせい、暦のせい・・・にしていたスタッフが多かったと思います。今はそのようなスタッフは減ったと思います。

自分たちの努力によってお客様が喜んでくれる、実際に数字(売上や集客者数など)が良くなるなど成功体験が蓄積されているからだと思います。

対象会社は素晴らしい会社です。

例え何があっても、他人のせいにすることなく、自分たちの手で未来を切り拓きましょう!

2.人は性善なれど弱し

「人は性善なれど弱し」

私がたびたび紹介してきた経営学者の伊丹敬之教授の言葉です。

本来、人は、平時であれば、善人だと思います(特にサラリーマンはそうだと思います)。

しかし、自分に自信がないなど心にゆとりがなくなると、人は嫌なヤツになります。

例えば自分よりも立場の弱い人を怒鳴ったり、八つ当たりをしたり、地位を利用して部下を無理やり押さえつけたり、誰かの悪口を言ったり・・・まさに弱い犬ほどよく吠えるです。

お客様により良いサービスをするため、周囲の人に優しくするため、部下をしっかり育てるため・・・会社において善人でいるためにも、私たちは強くありたいと思います。

会社における強さとは、① 問題解決能力(スキル)と② 心のゆとり(自分への自信)です。

この強さがあれば、会社において善人として、正しいことをすることができます。

くれぐれも間違えないで欲しいことは、ここでいう善人はただ単に優しい人ではありません。

他人のことを本気で考えて、時には厳しいことも言ってくれる人なのです。

他人に厳しいこと・正しいことを言うと、人間的な成熟度の低い人には、一時的に嫌われてしまうこともあるでしょう。

ただし、その人のことやその人の将来を考えれば、ハッキリと言わなければなりません。

他人に正しく接する強さ。

私たちにはこの強さが求められています。

リーマン・ショックや東日本大震災など様々な経験を経て、対象会社のスタッフは、だいぶ強くなったと思います。

それはスタッフの皆さん全てが、自分たちと向き合ったからだと思います。

これからも会社において善人でいるためにも、スタッフ一人ひとりが更なる強さを身につけてもらいたいと思います。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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