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スーツケース&トラベルグッズ用語大辞典

あ行

赤平工場

日本製スーツケースを製造するエース株式会社の工場。現在、部品から完成品まで一貫生産で製造する国内唯一のスーツケース製造工場。1971年に操業開始。当時、技術提携していたサムソナイト社のデンバー工場と緯度がほぼ同じという環境条件から選ばれたという逸話がある*1。敷地面積:110,330㎡、建物面積:34,569㎡と広大な面積を有しており、工場及び社屋の一部は赤平が炭鉱で栄えていた時代に炭鉱会社が使用していたものを使用している*2。

出典:*1:エース株式会社 新川柳作記念館HP *2:赤平観光協会HP


アルミニウム合金

スーツケースのボディやフレーム、伸縮ハンドルのチューブ部分に古くから使われている素材。重厚で堅牢性が非常に高い。表面はヘアライン仕上げという髪のような細い線が一直線に並んだような外観をしている*1。ボディの多くは合金番号5000系のアルミニウムが用いられるが、アタッシェで有名なゼロハリバートンでは6000系のものが使われていた*2。外部から一定以上の力が加わると変形し元に戻らなくなってしまうが、旅の思い出として好まれる側面がある。

出典:*1:株式会社三和鍍金HP *2:CLUB Lightning


アルミニウム調

ポリカーボネート等の樹脂製スーツケースの表面をアルミニウムのような金属調に仕上げたもの。ヘアラインを印刷したものやホログラムフィルムを用いたもの、表面のフィルム内側にアルミニウム等の金属を蒸着させたもの*1 など、様々な種類がある。樹脂製品の軽さを活かしながら高級感がある。

出典:*1:PRTIMES


アルミフレーム

スーツケースの開閉部分に採用される一般的なフレーム。マグネシウムフレームと比較すると重い*1 が、曲げ強度*1 で勝り、腐食が起こりにくい*2 ため、多くのフレームタイプのスーツケースで用いられる。マグネシウムフレームに比べて安価なために、販売価格とのバランスで採用されることも多い。

出典:*1:大阪富士工業株式会社HP *2:不二ライトメタル株式会社HP


IATA(イアタ、アイアタ、国際航空運送協会)

International Air Transport Associationの略で通称イアタもしくはアイアタと呼ばれる、世界の航空運輸企業の団体。1945(昭和20)年設立、カナダのモントリオールとスイスのジュネーブに本部を置く。航空運賃の発券・運用ルールの決定や、航空会社間の連帯運送の協定、運送業務に必要な事項の決定、航空運送の安全・能率的な活動の推進などが主な業務。近年はIATAに加盟しないLCCの台頭が目立ってきている。2015年には機内持ち込み荷物の小型化を促す新規格(高55cm×幅35cm×奥20cm)を提唱したが、浸透していないのが現状。


インナーフラット

スーツケース内側収納スペースが平らになっている構造。キャリーバーの凹凸を埋めて平らにしているため、収納容量は狭くなり、重量も重くなる。また、キャリーバーを完全に外側に後付けする構造のタイプもあるが、航空会社によるスーツケースのサイズ規制は本体総外寸で計測されるため、実質の収納容量が少なくなる。その為、近年はあまり見かけなくなっている。


ウルトラストリング®

ポリプロピレン織布にグラスファイバーを積層し圧着・成形することで、圧倒的な軽さに加えて、従来の素材よりも強固さと強靭性の向上に成功した新素材で、エース株式会社の独自素材*1。網目状の独特の質感が特徴で、デザイン性もある一方、カラーリングや加工の安定性を担保するのが難しい素材でもある。

出典:*1:エース株式会社


ウレタンタイヤ

多くのスーツケースのキャスターに使われているPU(ポリウレタン)製のタイヤ。摩耗に強く*1、安価なため重宝されているが、時間が経つと湿気による加水分解*2や紫外線による劣化*2が起こり、ボロボロになる。長持ちさせるには定期的に押し入れから出して使用する方が良い。また雨の日に使った後は、水分を拭き取ってやると良い。

出典:*1:株式会社ユーエイ *2:SOLOTEX


ABS樹脂

A(アクリロニトリル)、B(ブタジエン)、S(スチレン)を原料とする合成樹脂。強度のバランスに優れ、寸法安定性が高いためスーツケースのボディやパーツ類に使われる樹脂素材。ボディでは、ポリカーボネートが主流になるまではABSが主流だった。現在も自動車や電化製品、住宅用建材など様々な工業製品に使われている。

何が違う?スーツケースの素材について


エキスパンダブル

専用ファスナーを使用して容量を拡張できる機能。拡張することで約1泊分(10L前後)収納量が多くなる。旅先で荷物が増えた際に便利。また、「行きは綺麗にパッキング出来たのに、帰りは綺麗にならない」というユーザーも多いので、予備スペースのような使い方がおすすめ。デメリットとしては若干重くなる、広げた際は走行安定性が下がるなどがあるが、最も重要なのは航空会社のサイズ規定。広げると機内持ち込みサイズ規定オーバーになるため、預け入れしなければならないので要注意。


Xバンド

スーツケースの収納スペースに入れた荷物を押さえるバンド。クロスバンドとも言う。まれにY型のものもある。樹脂製のバックルでバンド同士を連結し、絞って荷崩れを防止する。中仕切りと呼ばれる生地やメッシュ等で荷物を覆ってから用いると、効果的に押さえられる。


LCC

ローコストキャリアの略。格安航空会社。機内持込手荷物のサイズ、重量制限が厳しく、受託手荷物が有料となる場合も多いので要注意。


エンボス加工

ボディ表面に凸形状やマーク、柄等の浮き出し模様をつける加工。強度向上のために設けられた細い円筒状のエンボスはリブと呼ばれ,曲がりにくくなるだけでなく、衝突時に接触面積が少なくなるため傷もつきにくくなる。凹みをつける加工はデボス加工と呼ばれる。

本来、誤用であるが、ボディ表面の細かい凹凸に対して、シボ加工の意味で用いられる場合もある。

スーツケースのビジュアル~表面加工の世界~


オートリターンハンドル

手を離すとバネの力で元の位置に戻るハンドル。バネが強いと、大きな音を立てて勢いよく戻るため、ゆっくりと静かに戻るハンドルが好まれる。戻る勢いは、バネの強さの設定によるもの、オイル式ダンパーを組み合わせたもの*1 など、様々である。

出典:*1:エース株式会社


OKOBAN

Travel Sentry社が2009年に開始した遺失物発見連絡サービス。 OKOBANの名称は日本の交番に由来する。約2800の空港、400社以上の航空会社が採用する手荷物捜索システムとリンクしており、OKOABNタグに記載されている個別認識コード(UIDコード)をOKOBANサイト(PCのみ利用可)に登録すると、 遺失物習得者がOKOBANサイトにコードを入力することで所有者にEメールが届くシステム。日本ではTravel Sentry社と繋がりの深いサンコー鞄(株)が初めて導入したが、他メーカーへの普及率は高くない。


か行

カードロック

専用のカードキーを挿入して施錠、開錠するロック機構。紛失した際の対応が難しく、現在はあまり見かけない。


CURV®(カーブ)

ドイツのプロペックスファブリックス社のポリプロピレン自己強化プラスチック*1 で、サムソナイトが2008年にスーツケースに採用した。ポリプロピレン織布を積層し圧着させた、超軽量の耐衝撃性に優れた素材。スーツケースのボディにするための加工が非常に困難で、独自の特許加工技術*2 により商品化された。車に潰されても復元する動画プロモーションが発売当初、大きな話題になった。

出典:*1:PROPEX *2:サムソナイトHP


カーボンファイバー(炭素繊維強化プラスチック,CFRP)

炭素繊維で樹脂を強化したプラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics, CFRP)の俗称。高い強度と剛性、圧倒的な軽さから金属代替の先端素材として用いられ、建築分野や航空業界、自動車業界で浸透し、スーツケース業界にも下りてきた。CFRPは、炭素繊維に熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)を含浸させたプリプレグという状態で成形し、オートクレーブという窯で長時間焼き固める方法*1 が主流だが、一日の生産量が限られ非常に高価な部品となってしまう。また伸びがないため脆く、想定外の衝突が起こるスーツケースのボディとしては耐衝撃性に課題があり、トリミングや穴あけ等の加工が困難という課題もある。現在は、成形時間の短い熱可塑性樹脂のタイプも見られ物性も改善されているが、それでもなお高価で、スーツケースとしては最先端素材という希少性が売りとなる位置づけの素材である。なお、伸縮ハンドルのチューブ部分の素材として採用されることもある。

テクノモンスター*2 やゼロハリバートン*3 で、アタッシェやスーツケースのボディに採用した商品が見られる。またハートマン*4 で伸縮ハンドルに採用された商品が見られる。

出典:*1:東レ・カーボンマジック株式会社 *2:テクノモンスター

*3:ゼロハリバートン *4:aviationwire


外寸(本体サイズ)

スーツケースボディのみのサイズ。容積を把握するための指標として用いられる。キャスター、ハンドル、底鋲等の突起部は含めない。

航空会社のサイズ規定は突起物まで含めた「総外寸」となるので要注意。


機内持込サイズ

スーツケースを機内に持ち込めるサイズ。日本ではキャビンサイズとも呼ばれるが、海外ではキャリーオンサイズと呼ばれる。多くの航空会社の国際線と国内線では、100席以上の飛行機で「3辺の合計が115cm以内」、国内線の100席未満の小型飛行機で「 3辺の合計が100cm未満」となっている*1。これはハンドルやキャスターも含めた「総外寸」となる。インチで長さを表すアメリカでは22インチ(約56cm)がキャリーオンサイズとして販売されている。

*1 機内持込手荷物の規定は、航空会社によって異なる。


キャスターストッパー

スーツケースのキャスターを固定出来る機能。揺れる電車の中や傾斜のある場所で固定させておくことが出来るため、近年人気の機能となっている。ただし、キャスターを固定したまま動かしてしまうユーザーが多く、故障の原因にもなっている。基本的にはスーツケースの蓋側か底側のどちらか一方のキャスターが固定されることになるが、蓋側のキャスター固定の場合、「固定したままうっかり2輪状態で動き出してもキャスターが壊れにくい」ということをメリットに謳っているメーカーが多い。また、ストッパー機能があることで若干重くなったり、ストッパー機構の取り付け場所によっては収納スペースを圧迫するなどのデメリットもある。


キャスターのタイヤ径

タイヤ径が大きいほど地面との転がり摩擦が少なくなり,始動抵抗、走行抵抗ともに小さくなる*1。また走行中に段差を乗り越えやすく、回転数が少なくなることでタイヤの寿命も長くなる。ただし、キャスター径が大きくなれば本体容量を圧迫することになり、全体重量も重くなりやすいため、一般的に4輪自在キャスターのスーツケースではφ50、2輪固定式キャスターでは比較的大きいφ60~70が採用されることが多い。走行性に機能を振った商品では、4輪自在キャスターでφ70を採用したものもある*2。

出典:*1:中部産業株式会社

*2:ACE Online Store プロテカ フリーウォーカーD


キャリーオン

トラベルグッズ用語としては、スーツケースの上に乗せて荷物を固定することを指す。別名セットアップ。キャリーバーに通す穴がついているバッグのことを指すキャリーオンバッグという。航空用語としては「機内持ち込み手荷物」全般を指す。


キャリーバー

スーツケースを押して歩くための伸縮する取っ手及びバー部分。軽さを出すため、アルミを使用することが多く、リブ(溝)を入れて強度を出しているものも多い。左右に振るとぐらつきがあるが、これは衝撃を逃がしたり、出し入れをスムーズにするための仕様である。また、重量のあるスーツケースを持ち上げる際にこの部分を持つユーザーが多く、故障しやすい場所でもある。高さの段階調節が出来ないものから、数cmきざみで調節出来るものまで種類は様々。キャリーハンドル、プルアップバー、PUバー、伸縮バーなど呼び名は複数あるが全て同じ。海外では一般にテレスコーピングハンドルと呼ばれる。


鏡面加工

ボディがピカピカと光沢のある加工。表面にキャップシートと呼ばれる透明のフィルムを圧着することでこのような光沢が生み出される。リブ等の凹凸が少ないボディでは傷が目立ちやすい。

何が違う?スーツケースの素材について


グリスパックキャスター

日本の錠前部品メーカー「株式会社日乃本錠前」が開発した高品質キャスター。キャスター内部に搭載された固形の潤滑油が走行するたびに少しずつ注入されるため、スムーズな走行性を実現している。


クロスバンド

スーツケースの収納スペースに入れた荷物を押さえるバンド。Xバンドとも言う。まれにY型のものもある。樹脂製のバックルでバンド同士を連結し、絞って荷崩れを防止する。中仕切りと呼ばれる生地やメッシュ等で荷物を覆ってから用いると、効果的に押さえられる。


携行品損害保険

「居住している住宅外において身につけているもの=携行品」が旅行中に破損や盗難などの偶然な事故により、損害を受けた場合に保険金が支払われる補償サービス。旅行保険や旅行保険付帯クレジットカードに含まれている。スーツケース以外の「携行品」の主なものとして以下のようなものが挙げられる。

● バッグ ● カメラ ●時計 ● スマホ端末 ● パソコン ● 旅券 など


コーナーパッド

スーツケースの角部分に装着されることのあるパッド。「スーツケースを守る」という謳い文句で装着しているメーカーも多いが、樹脂製のスーツケースではそれほど際立った効果はなく、強固そうな印象やデザイン性で採用されることが多い。角落ち防止に対して一定の効果もあるがパッドの素材による。衝撃を吸収するジッパータイプよりも、衝撃を受け止めるフレームタイプの方が効果は得られやすい。パッド取り付けのために穴が開くことでボディの強度が下がり、衝撃を受けてそこから亀裂が入ることもあるため、コーナーパッドの有無を重要視する必要性はそこまでない。RIMOWA*1 に代表されるようにアルミニウム合金を折り曲げてボディとしたスーツケースについては、穴が開いているため、コーナーパッドで穴を覆う必要がある。

出典:*1:RIMOWA


さ行

シリンダーロック

鍵穴に鍵を差し込んで施錠、開錠するロック機構。多くのスーツケースで採用されている。ピッキング技術が無い限りはダイアルロック(ナンバーロック)よりも防犯性が高い。鍵の紛失リスクがあるというデメリットが存在する。


シェル

スーツケースのボディのこと。貝の殻のように薄い局面状のパーツを表す設計用語。


シボ加工

スーツケースのボディ表面やパーツの表面につけられる細かい凹凸のこと。質感を似せたり、美観を向上させたり、擦れキズを目立たせなくするため、また金型による成形性を高めるために表面に着けるテクスチャのこと。砂目や梨地、皮革調、幾何学模様等、様々な種類がある。金型の表面に放電や薬品によるエッチング、またはサンドブラストで削ってつけられた凹凸*1 を樹脂表面に転写することでシボとなる。

出典:*1:棚澤八光社

スーツケースのビジュアル ~表面加工の世界~


受託手荷物

航空会社に預けられる手荷物のこと。無料で預けられるサイズは、現在多くの航空会社では、「3辺の合計が総外寸157cm(62in)以内」と定められている*1。規定サイズを超えたものは、超過料金が発生する場合がある。重量オーバーについても厳格な規定があり、超過した場合は貨物扱いになるため、高額な追加料金が発生する場合がある。

*1無料受託手荷物の規定は、航空会社によって異なる。


シングルキャスター(単輪キャスター)

その名の通り、タイヤが「シングル=単輪」のオーソドックスなキャスター。形状、素材によって異なるが、ダブル(双輪)タイプより若干軽量になる場合が多い。シングルキャスターは、タイヤを両側から支える構造のためキャスターの強度が高い。細かな旋回性はダブルタイプより劣るが,走行中の不意な旋回の影響を受けにくく進行方向を維持しやすい。またボディに取り付ける部分のえぐれが少ないため、ダブルタイプと比較して僅かに容量が大きくなる。

走行時には、キャスター径や軸部分の摩擦、重量、また荷物によるボディの変形、パッキングによる荷物の偏りの影響が、走行抵抗や引き心地に大きく影響するため、キャスターのタイプによる性能の違いは体感されにくい。


スーツケースベルト

スーツケース本体に巻き付け、保護するベルト。フレーム式スーツケースが強い衝撃を受けた際に、鍵が壊れて中身が飛び出してしまうことがある。またファスナータイプのスーツケースでも詰めすぎや衝撃により、ファスナーがパンク(破裂)することがあり,このようなトラブルを避けるために装着する。また、スーツケースの目印として、ファッションで使用されることも多い。スーツケースにTSAロックが付いていない場合に、代替としてTSAロック付ベルトが使用されることもある。


静音キャスター

メーカーによって名称は様々あり、仕様も異なるが、従来品のウレタンキャスターと比較して静音性を向上させたものの総称。代表的なものに「フリクエンター静音タイヤ」、「HINOMOTO SILENT RUN」「エース サイレントキャスター」などがある。騒音測定テストでは音圧レベルのデシベル[dB]*1 や、人の耳で聞こえる大きさの尺度に置き換えたソーン[sone]*2 という単位で表される。dB値は対数のため大きさの比として表すのが煩雑で、一般的に10dB下がると約半分の音に聞こえるといわれている*3。一方、sone値は比例尺度のため、割り算により比で表すことができる*3。

走行音が大きいとユーザー自身が不快に思うのはもちろんだが、特に住宅の密集した地域では早朝の出張や旅行で住宅街に音が響くのを嫌って静かなキャスターのケースが選ばれる傾向にある。

出典:*1:エンド―鞄株式会社 *2:Proteca *3:小野測機


総外寸(全体サイズ)

キャスターやハンドル等の突起部分を含む全体のサイズ。航空会社のサイズ規定はこの総外寸で表記される。


ソフトケース

本体ボディがナイロンやポリエステル、ターポリンなどで作られた布製のスーツケース。布だけでは形が維持できず、樹脂製の芯材が必要なため重量がある。中には、テントのように支柱に生地を突っ張らせることで軽量化を実現しているものもある。ボディが縫製によって作られるため、外側のポケットが充実しており、出し入れしやすいものが多い。また、蓋が薄く、本体は深い箱状の形状をしていることが多い。

ソフトとハードの違いについてはこちら


た行

ダブルキャスター

その名の通り、タイヤが「ダブル=2輪」のキャスター。双輪キャスターとも呼ばれる。全体では計8輪となる。形状、素材によって異なるが、シングルより若干重くなる場合が多い。ダブルキャスターは、シングルキャスターのスーツケースと比較してタイヤの接点により囲まれる領域(支持基底面)が大きいため安定性が高い*1。またキャスターの接点も多いことから石畳のような凸凹道での走行安定性も高い。一つのキャスターの両側のタイヤが独立して回転する差動回転により、旋回性に優れる*2。特に狭い範囲での小回りが利くため、オフィスの椅子やテーブル、病院の点滴スタンド等でよく採用される。リモワが採用して以来、デザイン性を重視して追随するメーカーが多く、またタイヤが多く頑丈そうな印象を与えるため、現在主流のキャスターになっている。構造上、落下衝撃で車軸が変形し、タイヤがハの字に曲がってしまうことがある。

走行時には、キャスター径や軸部分の摩擦、重量、また荷物によるボディの変形、パッキングによる荷物の偏りの影響が、走行抵抗や引き心地に大きく影響するため、キャスターのタイプによる性能の違いは体感されにくい。


出典:*1:わくわく直観堂 *2:東海キャスター


ダイヤルロック

暗証番号を合わせて施錠・解錠するロック機構。(一般的には3桁)鍵の紛失リスクが無いため、2022年現在、主流のロック機構となっている。万が一、暗証番号を忘れたり、暗証番号が変更されてしまっても一つずつ合わせれば開錠出来るため、トラブルにも強い。反面、盗難された際に開錠されやすいというデメリットでもある。ナンバーロックとも呼ばれる。


TSAロック(ティーエスエーロック)

アメリカ合衆国国土安全保障省の運輸保安庁から認定を受けた、施錠機構の総称。「赤い菱形(TravelSentry 社製)」または「赤い松明(SafeSkies 社製)」の2社が存在する。アメリカ領土内の全ての空港では、預け手荷物を米国運輸保安局が検査するため、解錠した状態で荷物を預ける必要がある。しかし、TSA ロックがあれば職員が特殊ツールで解錠するため、施錠したまま預けられる。しかし渡航時の状況や航空会社によっては、TSAロックであっても施錠しないよう求められる場合もある。

2015年、ネット上でマスターキーの3Dデータが拡散されたため、3Dプリンターで合鍵が誰でも作成可能となる事態となってしまった。ある記事によると、TSAはユーザーの安心デバイスであって、航空安全保障体制の一部ではないと回答したとのこと*1。完全なものではないという認識が必要である。なお、TSAシリンダーロックに関してはメーカーによってそもそも鍵の種類が少ないものもある。

出典:*1:https://theintercept.com/2015/09/17/tsa-doesnt-really-care-luggage-locks-hacked/


トップオープン

前面上部がフタのように開閉することのできるポケット付きスーツケース。フロントオープンがボディ前面が手前に開くのに対して、トップオープンは上部から見下ろすように開くので、トートバッグのようにガバッと荷物を入れることが出来る。非常に使い勝手の良いポケットだが、コーナー部分にジッパーを付けるため、開閉の際に引っかかりを感じる場合がある。また、鍵の部品を取り付ける位置取りが難しく、メインのジッパーの両方を一緒に施錠出来ないスーツケースも多く見られる。(トップオープン部分だけ南京錠の仕様になる場合がある)

従来は山一株式会社の独占機能だったが、2016年に倒産して以降、現在は様々なメーカーより類似形状のものが発売されている。(トップオープンの名称は現在、株式会社協和が積極的に使用。)


な行

南京錠

シャックルと呼ばれるU字型の掛け金に、保護対象物を通して施錠する可動式の錠前。スーツケースでは、ファスナーを開けられないようにする目的で、スライダーを固定するために用いられることが多い。開閉には鍵や数字、アプリと連動したものまで様々ある。携帯性に優れ、TSAロック非対応のスーツケースやバッグの防犯用としての需要があることから、旅行用としてはTSAロック対応のものが多く販売されている。


ナンバーロック

暗証番号を合わせて施錠・解錠するロック機構。(一般的には3桁)鍵の紛失リスクが無いため、2022年現在、主流のロック機構となっている。万が一、暗証番号を忘れたり、暗証番号が変更されてしまっても一つずつ合わせれば開錠出来る可能性が高いため、トラブルにも強い。反面、盗難された際に開錠されやすいというデメリットでもある。ダイアルロックとも呼ばれる。


は行

ハードケース

本体ボディが硬質の素材でシェル状(貝の殻のような形状)に形成されたスーツケース。真空成形と呼ばれる方法で作られるものは、ABS樹脂やポリカーボネート(PC)樹脂、PC/ABS混合樹脂等が素材として用いられるのが一般的。射出成型という方法で作られるものは、ポリプロピレン樹脂が一般的。その他に、アルミニウム合金や、カーボンファイバーを用いたハードケースもある。海外では、ハードサイドラゲージと呼ばれることもある。メインの収納スペースの開閉方法はジッパータイプとフレームタイプに分かれる。

ハードとソフトの違いについてはこちら


破損証明書(事故証明書)

航空会社が荷物を破損させてしまった場合、補償をするために発行する証明書。税関通過前の「手荷物サービスカウンター」で発行される。航空会社による補償対象外となった場合でも、携行品損害保険を請求する際の「第三者証明書」として必要となることがある。


ヒノモト

正式名称は「株式会社日乃本錠前」。日本の錠前部品メーカーだが高品質なキャスターを製造するメーカーとして世界的に有名。キャスター側面に「HINOMOTO」と記載されていることが多い。

(株)日乃本錠前ホームページ


フロントオープン

スーツケースのボディ前面に手前に開くポケットの付いたスーツケース。ジッパーが増える分、耐久性は低下するが、書類やパソコンなどを収納しやすく、圧倒的な使い勝手の良さから機内持ち込みサイズのスーツケースでは主流となっている。機内持ち込み以上のサイズでは、預け入れする場合が多いのでラインナップは少ないが、50~60L程度の中型サイズではフロントオープンも増えつつある。中型サイズでは開閉のしやすさを考慮して、ハーフサイズのポケットになる場合がある。

耐久性以外のデメリットとしては、パッキングの仕方によって、ポケット側が重くなりがちなので、走行の際に体と反対方向にスーツケースが振られる傾向がある。従来はジッパーで開閉するものばかりだったが、最近はパネル開閉式も登場している。


ベアリング

キャスターの回転する軸をなめらかに回転させる部品。「軸受(じくうけ)」とも呼ばれ、摩擦によるエネルギーの消費を抑え、発熱を減少させることで、部品の焼き付けを防ぐ。また、タイヤの摩耗を減らし、キャスターの寿命を向上させる。軸の面で回転を支える「すべり軸受け」とボールの点で回転を支える「転がり軸受け」に大別される。ミネベアミツミ社製のベアリングが有名。


ポリカーボネート

2022年現在、最も使われることの多いスーツケースのボディ素材。強度、耐衝撃性、耐薬品性、透明性に優れ、ABS樹脂より薄い厚みで用いれることから軽量化が可能で、スーツケースのボディ素材として重宝されている。

何が違う?スーツケースの素材について


ポリプロピレン(PP)

非常に軽く、強度の高い樹脂素材。安価で射出成形に向いているため、キャスターや、底鋲等、さまざまなパーツで用いられる。ヒンジ特性(屈曲させても破壊されない特性)に優れるため割れが起こりにくく、ボディ素材としても用いられる。特に、中国メーカーの安いスーツケースのボディで大量に用いられている。主要メーカーでは、真空成形(エースのプロテカ、ラグーナライト)やプレス成形(サムソナイトのアメリカンツーリスター、ビボライト)で作られたPP樹脂のスーツケースもある。色味は鈍く、白っぽい仕上がりになる。

PPを引き延ばし、それを織って作ったPP織物は、高強度素材として、超軽量のスーツケースに採用されている。よく知られるものに、サムソナイトのスーツケースに用いられているCURV、TUMIのテグラライトに用いられているTegris、エースのプロテカで用いられているウルトラストリング等がある。

何が違う?スーツケースの素材について


ま行

マグネシウムフレーム

マグネシウムはアルミニウムと比較して重量比強度、重量比剛性が高いため、強度を保ったまま軽量*1 フレームを実現できる。一方、腐食が起こりやすく塗装等の表面処理が必要であったり*2、曲げ加工では200℃以上の熱間での加工が求められる*2 など、アルミニウムに比べて製造上の厳しい管理が要求されるため高価なフレームになる。エース株式会社のプロテカ チェッカーフレーム*3 や、サンコー鞄株式会社のSUPER LIGHTS MGC*4 などが知られる。

出典:*1:日本マグネシウム協会HP *2:三協マテリアル

*3:ACE Online Store *4:サンコー鞄株式会社HP


マグネットロック

マグネットキーを使用して施錠、開錠するロック機構。紛失した際の対応が難しく、現在はあまり見かけない。


ミネベアミツミ

正式名称は「ミネベアミツミ株式会社」。世界品質のベアリング製造メーカーで、直径22mm以下の小径・ミニチュアサイズのボールベアリングでは世界一のシェアを占める。真円度と真球度が高く精巧な作りのため、摩擦や騒音が小さく、耐久性が高い*1。エース株式会社の「プロテカ」ブランドや、エンドー鞄株式会社の「フリクエンター」ブランドなどに搭載されている。

出典:*1:ミネベアミツミ


メッシュカバー

スーツケース内側にあるメッシュのカバー。荷物を押さえておく役割を持ち、目隠し効果はあまり無い。


メッシュポケット

スーツケース内側にあるメッシュのポケット。基本的には荷物の押さえと目隠しの役割をするパネルに付属している。


ら行

ライソフ(Lisof®)

日乃本錠前と三菱ケミカルが共同で開発したエラストマー系新素材。静粛性テストでは54.1dbを記録しており、同社の従来製品ウレタンキャスターと比較すると7.3db静かになっている。加水分解に対しても強い。「HINOMOTO Lisof® SILENT RUN」の名称で販売されている。


リブ

設計用語で、平板部や肉薄部を補強するために施される、面と垂直な板状の構造。語源は肋骨(rib)から。樹脂成形品では、厚みを一定に保ちながら剛性や強度を持たせ、広い平面部の反りを防ぐために不可欠の構造となっている。スーツケースにおいてはボディやキャリーバーのチューブ部分などのパーツに施される溝を指すことが多い。ボディ部分のリブはファッション面でもスーツケースの個性となっている。


例外承認対象品

トラベルグッズにおいては主に海外で使用する変換プラグを指す。変換プラグは国外での使用を目的としているため、日本国内の電気規格(PSE)を基本的に取得していない。ただし、日本国内では使用出来ない旨を表記することで、経産省の例外承認を受けて国内販売が可能になっている。日本国内で使用しても過電流等で機器が壊れることはないが、保証対象外となるため、自己責任での使用となる。


レガシーキャリア

JALやANAといったLCC(ローコストキャリア)ではない既存の航空会社のこと。厳密な定義は無い。


ロストバゲージ

航空会社に預けた荷物が何らかの原因により紛失してしまうこと。ロストバゲージが発生した際は、預け入れ時に発行された「クレームタグ」を手荷物カウンターで提示して手続きを行い、必要書類を作成してもらう。翌日または数日以内に届けられることが多いが、見つからない場合は、航空会社から一定額の補償がある。ロストバゲージが発生する確率は年々低下しており、2000年代前半は2%程度だったが、現在は0.5%程度になっている。(航空会社の管理体制により異なる)


Special Thanks:Dr. Nenta WAKO(Instagram: @nentawk)

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