【小説】アルカナの守り人(32) マザー
「──なんで、そんな大事なこと隠してたんだよ。 今まで、そんな話…、全然言ってくれなかったじゃないか──。」
心なしか、責める口調になってしまう。これじゃまるで、拗ねてるただの子供だ。落ち着け、俺──と思うものの、一人だけ蚊帳の外のようなこの状況。納得できねぇ!
「何、言ってんだい、おまえは…。確かに、これまで、はっきりと能力の話はしたことないよ。でも、私たちが能力を使っているのは、目の前で見てきていただろうに──。こっちは、隠してなんか、いやしないよ。」
「そうよ~。私の薬作りの手伝い、よくしてくれたじゃないの~。」
マザーの話にミクスも続く。
──ミク姉は、病気や怪我をする子供たちのために、お手製の薬を作っている。俺も昔は、よく作業を手伝っていた。いたけどさ…。あれって、アルカナの能力を使ってたのか? まぁ、子供心に、『魔法みたいだな』とは思っていたよ。薬が出来上がる瞬間は、調合釜が、不思議な光の紋様に包まれてさ…ってあれ──。そう言われてみれば、あの紋様って、どこから出てた──?
──そうだ! ミク姉は薬作りをする前、決まって空っぽの調合釜を持ち上げて、なんかカードみたいなものを、釜の下に置いて──…
「──…って、(あああああああああああっ!)」
フウタは、声が出そうになるのを、必死に抑える。
今の今まで、すっかり忘れていたけど、あの不思議な紋様も、光り輝くカードも、どちらも見覚えのあるものだった。一度、思い出せば、昔の記憶が鮮明に蘇ってくる──。マザーは、野菜や植物を育てるとき、何か、古い言葉を語り掛けながらやってたけど、あれも、呪文的なものを唱えてたってことか!
マザーもミク姉も、確かに、俺に能力を隠すってことはなかった。──ただし、アルカナの「ア」の字も言ったことはないからね。それで、気づくなんてことは、土台無理な話だ。 そりゃまぁ、不思議には思いながらも、何でも素直に受け入れちゃってた俺もどうなのかとは思うよ? もうちょっと、「それ、何?」「今、なんて言ったの?」くらいは確認しておくべきだろ、当時の俺よ…────。
「──まったく、おまえはいつまでむくれているんだい?」
「別に──。むくれてなんかいないよ。」
フウタは、ムッとしながら答える。
「ふん。そんな仏頂面で言われてもねぇ──。何だか、不機嫌なフウタはほっといて──、ヒカリ──、おまえの話を…、私に会いにきた理由を聞かせておくれ。」
マザーは、ヒカリに優しく語りかける。ヒカリは、頷くと、ゆっくりと話し始めた───。
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