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我々は何をもって"発売"とみなすか?

年末に年間ベスト曲を選んでいると、疑問が生じるケースがある。

それは、そもそもこの曲は今年発表なのか?という点だ。

例えば、藤井風の「何なんw」。

この曲が最初にリリースされたのは、2019年11月18日。配信のみでカップリングはなく、1曲単体でのリリースだった。

それから約2ヶ月後の2020年1月24日、今度は「何なんw EP」として、3曲のカバー曲をカップリングに加えた4曲入りEPとして、やはり配信のみでリリースされている。MVがYouTubeにアップされたのもこれと同日だ。

ちなみにこの曲がCDとしてフィジカルリリースされるのはそれから約4ヶ月後、2020年5月20日発売のアルバム「HELP EVER HURT NEVER」まで待たなくてはならない。

つまりこの「何なんw」、初出の2019年では先行配信という意味合いが強く、MV発表と合わせて本格的にリリースしたのは2020年という解釈でよいだろう。藤井風は以降の作品でもこのような単曲配信→カップリング入りのEP配信という流れを繰り返し採用している。

かつてリリースと言えばCDあるいはアナログといったフィジカルのみだった時代には、発売日におけるここまでの複雑さはなかった。相違が見られた点としては、以下のような場合だ。

例として、CORNELIUSの「FANTASMA」を挙げたい。この作品では、イヤフォン付きの初回限定盤が1997年8月6日に、通常盤が1997年9月3日に、アナログ盤が1997年9月18日にそれぞれリリースされている。その後1998年にはマタドール・レコードから海外盤も発売されたほか、2010年には日本でリマスター盤が、2016年にはアメリカでアナログ盤が再リリースされるなど、手を変え品を変え度々登場している名盤だ。

このように初回と通常で大きく仕様が異なったり、再発されたりする場合などは発売日が複数に渡るケースがある。しかし今作で最もセールスを上げたのは最初にリリースされた初回盤であり、この場合は1997年8月6日を発売日とするのが妥当であろう。

あるいは、関ジャニ∞のデビューシングル「浪花いろは節」を見てみよう。本作は2004年8月25日にまず関西限定盤がリリースされ、オリコン5位を記録。その後9月22日に全国流通の通常盤がリリースされ、ジャニーズデビューシングルの指定席とも言えるオリコン1位を獲得している。

この場合、初出は明らかに8月の関西限定盤の方だが、セールスは9月の通常盤が上回っている。関西以外の地域のファンにとっては手に取ったのが9月の人も一定数いるのだろう。どちらを発売日と捉えるかは人によって異なるかも知れない。

2005年にiTunes Storeが日本でのサービスを開始すると、配信リリースとCD化の間にタイムラグが生まれるケースが増えてくる。更に2015年、Apple Musicの日本上陸を皮切りにサブスク時代が本格的にスタートすると、その傾向は加速する。

また、音源リリースが未定の段階でもYouTubeでMVを公開するケースなども出始める。例えば、SixTONESの「JAPONICA STYLE」は2018年11月にMVが公開されているが、当時の彼らはCDデビューすら決定していない時代だ。ちなみにこの曲がCDリリースされるには2020年7月まで待たなくてはならない。この2年の差は、あまりにも大きい。

近年は正式リリース前でもYouTubeでの再生回数やツイート数の反響が大きかった場合にはビルボードチャートにランクインする事があり、もはや何をもってリリースと見なすかは、明確な判断基準がない状況である。

そして時は2020年、「香水」「夜に駆ける」など、CDリリースのない状態でヒットチャートを席巻するケースが続出した。前述の2曲はいずれも2019年の楽曲であり、「猫」のように2017年のカップリング曲にスポットが当たるという珍しい現象まで発生した。

また、TikTokで掘り起こされた過去の楽曲が再生回数増加に繋がる例もあり、ヒット曲における発売年やフィジカルリリースの有無はますます多様化してきている。

年末の音楽特番でもその性質が変化し、最近では年明けリリースの新曲を披露するケースがある。かつてはその年にヒットした曲の総決算という位置づけであり、これはルール違反に近かったと思う。しかし1月にリリースとはいってもそれはCDの話であって、12月の時点で先行配信を行ったりMVを公開している場合、発表済みの楽曲と言えなくはない。

個人的には、ある曲が何年何月何日にリリースされたのかは明確であってほしいという気持ちはある。しかしサブスクで過去の曲、最近の曲、リリース前の先行配信曲まで全て並列に聴く事ができる現代において、そのような考えは野暮なのだろう。令和時代においては、今バズっていれば今の曲、なのである。

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