空気

見つからないように、見つかりますように。

空気

見つからないように、見つかりますように。

最近の記事

花も人も

誰もが孤独を感じている大都会で過ごすよりも、 街があたたかく繋がっていて、緩やかな雰囲気が流れている場所に ひとりぼっちでいる方がよっぽど寂しい。

    • ウェス・アンダーソンとの出会い。[グランド・ブダペスト・ホテル]

      このごろ、感性を養うため一日ひとつ映画を観るようにしている。 ある朝起きると喉が痛く、風邪を引いていた。きっと甥っ子たちのかぜっぴきをもらったんだろう。 クラクラする頭でリビングに向かい、ソファに横になる。なぜかYouTubeもInstagramも見る気になれないふわふわとした気持ちで、PrimeVideoのアプリを開いた。 まだ起き抜けの眠たい視界にとびこんできた、ピンク色の可愛いホテルの絵。 「あなたが興味のありそうな映画」の欄にあったその作品は、わたしが触れたことも

      • 「90歳 あなた 寿命を迎える」

        休職中に、お金について考えることが増えた。 思い返せば、4月から社会人になり毎月入るお給料にワクワクしながらも 使い道や貯金について真面目に考えたことがなかった。 前からなんとなく記録を続けていた家計簿アプリに、ふと「ライフプラン」の項目を見つける。 自分の年収、家賃、出費。だけでなく将来結婚したいか、子どもは何人欲しいか、などを入力すると自動的に生涯で貯まるお金が算出されるみたい。 診断結果を見ると、生涯で貯まる金額の下に「あなたのライフイベント」の項目。 25歳

        • 秋の日

          高校時代の旧友から、久しぶりに連絡がきた。 お互いに社会人一年目、 彼が広告会社で頑張っている様子を、インスタグラムでいつも目にしていた。 一方、わたしは不安障害で休職中。赴任先から逃げ帰るように実家に戻り、療養をしている最中だった。だから、彼からの連絡には「どうしよう、なんか顔向けできないな」みたいな気持ちが真っ先に出てきた。 高校生だった頃は、お互いを尊敬し、お互いの未来を毎日話していた。 描いていた未来とは違う場所で、もがき苦しんでるわたしに彼は失望しただろうか。

          ずたずた

          当たり前に進んでいく人たちに ついていこうとしがみついている ちいさな希望を なんとか信じて 信じていたい 裏切りが続こうと 大切が壊れようと なんとか生きて 生きていたい この世が終わるその日に 明日の予定を立てる そうやって生きてみよう

          月光

          23時。部屋の中、息ができなくなって外の闇に出た。 あの子と夕方の川を眺めながら、ある時は六畳一間のベランダから積もった雪を眺めながら、吸った空気を思い出す。 今はもうひとりぼっちだった。体も心も。 繋がっているものなんて何もなかった。 一人で吸う夜の空気は、喉を通っていかない。 好きにして、という言葉の響きは寂しくて、諦めと同時にワクワクした気持ちが蘇った。 帰り道の満月。どんな時でも美しく輝く星が、一本道の先にずっと続いていた。そのままどこまでも歩いていきたかった

          喫茶店にて

          こんなはずじゃなかった。 手に入れた途端に満たされない気持ちになる。 やっぱりチーズケーキがよかったのに。 休日に食べるひとつのデザートに後悔が混じる。 選ばなかった無限の選択肢に羨望が募る。 もし選んでいたとしても、目の前のティラミスみたいに 私の心を乾かせる道になっていたかもしれないのに。 縛られるのはだいきらい。なのに安定をもとめてしまう。ないものねだりで息をしている。 この人でよかった。 この仕事をしていてよかった。 こんな自分でいられて幸せ。 そんなことを

          喫茶店にて

          夢日記

          本を読みながら煙草を吸う横顔が美しかった。 一生のうちに見るもののなかで、これほど心が擽られる光景にあといくつ出会えるのだろう。 私は向かいに座って、ぬるくなったコーヒーを飲む。 猫になりたい、と私は思った。 猫になって、あの人に飼われたい。 あの人は愛おしそうに私を見つめて、キスをする。 私は、あの人の腕の中でうずくまって眠るのだ。 ばかばかしい。 秋の匂いのする橋の上を、くだらない想像を打ち消すみたいにさっさと歩く。 季節外れの汗をかいて、またあの人の匂

          夢日記

          夜露

          「この線香花火が終わったら、さよならしよう」 彼女はそう言って、その先端に火をつけた。 初めは穏やかに輝いていたものが、激しさを増し、やがてはちきれそうな程に膨らんだ。 「ねえ、私達さ」 風が花火を揺らす。 僕達の恋は落ちていった。 甘くて儚くて、劇的な刹那だった。 彼女は顔を上げ、微笑む。 僕の大好きだった綺麗な睫毛は濡れていて、月を反射する夜露みたいだった。 時が止まってしまえばいいのに。 そんな月並みな言葉を、 僕は何度も心の中で繰り返した。

          勿忘

          「あたしは、最後の一葉をいらいらしてむしりとっちまうような奴だけど、その美しさはおぼえてるよ。」

          檜と救いの雨

          甘いチョコレートと静かな音楽、暖かいカーペットと生ぬるい紅茶。全てが私の心を溶かしてくれた。 「いちばんに大切にはできないけれど、いちばんに君のことをわかっている」 何度も何度も聴いた声に、いつでも帰ってきていいと言われている気がした。

          檜と救いの雨

          跡形

          誰かのせいにする、何かのせいにする、ということは何と救われることなのだろう、と気付く。 私たちはいつだって、理由づけをすることで心の安寧を求めている。 では、目の前に広がる、何のせいにもできない出来事と、どう向き合えばよいのか。 3月11日、 夜道を照らす数多の光になった命に想いを馳せる。 遺されたものの何を見ても、怒りも、やるせなさも、恐怖も感じない。 そこにはただ一つ、儚さだけが漂っている。 『それは神の悪戯でも凄惨な地獄でもなく、  静謐で尊く、荘厳な光

          匂い

          新しいお店を作っている横を通り過ぎた時、 ふと見つけたあの特別な日々の匂い。 夕方の匂い。ペンキの匂い。秋の匂い。木材の匂い。 私の体だけが、あの日のあの場所に包まれて 左胸の奥が甘く萎んで そこから暖かい感情が指の先まで流れて、こぼれそうになった。

          たった12時間で恋をした。

          たった12時間で、自分の全てが変わった水色の日々。 一日の中にあり得ないほど沢山の出来事が詰まっていて。喜びも感動も友情も、悲しみも悔しさも、そして恋も。時間が誰にも平等なんて信じられないほど、私達のあの二週間は特別で、愛しくて、胸が押し潰されそうだった。昨日まで大好きだった人が憎らしく思えたり、昨日まで自分の世界に存在しなかった人に恋したり。それが何百人分も集まって物凄い熱量になっていたんだな。その熱にうなされてじりじりと、ゆっくりと過ぎていったあの日々。秋の風が肌に触れ、

          たった12時間で恋をした。

          青いうさぎ

          体育祭の準備、夏の終わりと秋の風、 朝6時、学校の朝の匂い。静けさ。全身で触れた青春の空気。もう二度と見られないあの子の笑顔。愛情。全部この胸に大切に閉じ込めて。少しも記憶から溢さないようにと、心臓が覚えている。

          青いうさぎ

          どんな色の個性であっても全て神聖で。 隔てない笑顔で輪に入れてくれたあの先輩も、バイクの後ろに乗せてくれた寡黙なあの子も、 どれが優れてるとかではなくて、どんな個でもそれぞれに強烈に輝ける場所がある。 それを選んで咲いた花が美しいんだと だから自分を殺さないでいたい。この世界の雑音に惑わされないでいたい。自分とは一生交わることのない何かが作った勝手な価値観に無理に嵌ろうとなんてしないで。 その声と優しさに、             願っても二度と見られないような稀