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『仙侠五花剣』

 神怪小説の源流のひとつに、『剣侠伝』などの唐代伝奇があります。

 市井の人が、実は特異な能力を持った侠客で、人を助けたり、暗殺したり、ということが多いのですが、この侠客が剣の道を究め、道を極めた仙人「剣仙」になって、再び人界に下って弟子を見つけ、剣技を伝えるという、現代のラノベでもありそうな設定の神怪小説が、清代後期に書かれた全三十回の章回小説『仙侠五花剣』です。

 レトロ、モダン上海で書かれたこの『仙侠五花剣』は新聞に連載され、好評を博して舞台化もされました。

「花のしずく(落花之液)から煉りあげられた、青、赤、白、黒、黄色の五色の仙剣」というあたりでもう、ファンタジーファンには、ぐっとくること間違いなしなのですが、剣仙たちが持つ剣にもそれぞれ別の色の輝きがあり、それが宙を舞う、剣遁に乗る、剣丸にして飲みこむ、などなど。果ては仙剣は持ち主とマスターの関係にあって、持ち主の手元に戻っていくなど、おいしいところがたくさんある小説です。

 特徴的なのは、剣仙が武技を教えるとき、徒弟とした上、仙剣を拝ませて授け、まずは拳を教えて、それから剣に進めるという点でしょうか。拳や技や体勢などには、「胡蝶穿花」だの、「残風掃葉」だの、「寒鴉撲水」「双龍探穴」「猿猴献果」「柳絲垂雨」「枯荷貼水」「断梗泊崖」などなど、四字熟語のおびただしい数の技名がついていて、それもまた、想像をかき立てます。戦いも、拳で戦うこともあれば、剣を使うこともありです。

 当時はまだ、武侠小説というジャンルが確立されていませんでしたが、後の武侠小説に流れがつながっています。

 古典ですから、矛盾点もたくさんあって、清代の人が考えた宋代ということで、すでに出版文化が発達していて版木があったり、年代的に合わない人物が出てきたり、地名と位置関係が変だったりしますが、そこはご愛敬。通俗小説、エンターテインメントとして割り切って楽しめる作品だと思います。

 日本での出版は、ほとんどなく、このほどようやくkindle版が、続いてペーパバック版(紙の本)が出版されました。

 編訳なので、章立ても現代風になっていて、詩などは省かれ、最初に十人の剣仙たちが集合して下界で広まっている物語にいちゃもんをつけて版木を切るとか言い出したり、黄衫客が白獺の妖怪を退治したりといった部分はカットされ、人間中心の物語になっています。また、最後に、もらった賞金をもとに海上剣痴が本を出版した、などという結末も省かれ、すっきりとしています。エンターテインメントとして楽しめると思います。

  『仙侠五花剣』原著:海上剣痴、編訳:八木原一恵、イラスト:滝口琳々

 紹介動画で、およその雰囲気はわかると思います。


付記:『剣侠伝』は、それ自体が唐代のものではなく、唐代伝奇に宋代のものを合わせて明代に王世貞によって編纂されたものです。

 ですから、作中で、それが宋代にあったことになっている点でも、清代の人が考えた宋代、というのがよくわかると思います。

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好きなもの:ファンタジー、神話、中国神怪小説、鉱物、工芸、神社神殿、植物、風景、旅行。集めるとアイテムと世界に行きつくらしい。気が向くと何か始めます。著書:集英社文庫版『封神演義』(編訳)他。Amazon著者ページ https://amzn.to/2XU7wyJ
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