懐かしさ
最近、懐かしさに身を震わせる瞬間が増えてきた。その懐かしさを感じるたびに、それがいつのことを思い出しているのか、一生懸命考えて、思い出そうとして、結局なにをそんなに懐かしんでいるのか分からなくなる。
そもそも、この体中が揺さぶられるような、感情に圧倒されるような、言葉にならないこの情動は懐かしさなのだろうか。懐かしさを感じる瞬間は、今に不満があるから感じるのだとどこかで見かけたが、私は過去よりは今の方が生きている感じがするから、今に不満があるわけではない。であるならばこの憧憬とも言えるような、不意に胸を締め付けられるような感情は、一体何なのだろうか。
雨上がりの匂いの中にかつてどこかで見た情景が私の中に流れ込んでくる。一体いつ、どこで見た景色なのか。いや、実はそんなものは見ていなくて、私は常日頃からここでないどこかに行きたいのかもしれない。
懐かしさを感じるたびに、私は私が分からなくなる。ただ、ひたすらに胸だけが締め付けられる。思考は全て思い出探しに囚われる。いつになるだろうか。私がこの懐かしさの正体を突き止めるのは。
どうすれば、それを掴めるのだろうか。
その正体を私は、知りたいと思いながら、同時に知りたくないと思っている。きっと知ってしまえば、懐かしさは消えてしまうだろうから。
消えて欲しくないぐらいに、この懐かしさは、心地よい。ずっとこの懐かしさと共に、生きていってもいいのだろうか。いつかこの懐かしさが消えるとき、私はきっと悲しむだろう。そして、何もかも忘れて、死んでいくのだろう。惜しい。消してしまうには、やはり、惜しい。
この懐かしさを抱えて死ぬまで、私は言葉を尽くそう。消さないために、味わうために、忘れないために、そして、いつかその懐かしさを表現するために。消してなるものか。この懐かしさは私だけのものだ。誰にも、何にも、触れられないのだ。私が、書き留めるしかないのだ。私だけの懐かしさを
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