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【全文無料】エッセイ『甘いのがお好き』ふくだりょうこ

バレンタインが近づくとウキウキする。
というのも、うちの夫はチョコレートが好きで、この時期になると限定のおいしいものを買ってくるからだ(それもお高いヤツ)。
ここ2~3年はご時勢もあり足が遠のいているけれど、以前は年に一度のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」に行くのが恒例行事になっていた。オットの気合は相当なもので、いつだったかは始発で出かけていったことがある。もちろん、お買い物リストは前夜に作ってある。

両手いっぱいにチョコレートが入った紙袋を持って帰ってくる姿はなんだか誇らしげ。一粒3,000円ぐらいするものも中にはあるんだけど、まあ年に一度のお祭りなので仕方がない。気持ちは分かる。私もモノは違えど同じようなことをしている。
そして私はタダでおすそわけいただくので文句は言うまい。そもそも我が家は夫婦の財布は別々なので文句を言う筋合いでもない。
あと、それだけ自分でおいしいチョコレートを買ってくるのなら、私がバレンタインに何をあげようと同じ。選ぶ側としても気楽になる。最悪、溶かした板チョコを型に流し込んで固めたやつでも喜んでくれる。彼にとってのバレンタインで大事なのはチョコレートの味よりも、人からもらった、というところなので。

最近気がついたのだけれど、甘いものが好きな男性と結婚したのは良いことのひとつだ。
「甘いものが食べたくなっちゃった」と言って仕事帰りに買ってきてくれるのはありがたいし、一緒にスーパーに行って私がデザート売り場で悩んでいても文句を言わない。仕事が終わって「甘い物が食べたい……」とうめくと一緒に深夜のコンビニに繰り出してくれる。

若い頃は、自分が飲兵衛だということもあり、下戸の夫にちょっと不満を抱いたりもしたのだけれど、お酒を飲まないと外での失敗は少ないし、そもそも外食嫌いだから飲んで帰ってくることもないし、コーラで酔えるのでコスパが良いというかなんというか。
それなら、お安く済んで満足度の高いスイーツを一緒に楽しむほうがいいのでは? と最近では思うようになった。
(決して高いスイーツであればいいというわけではないのもポイントが高い)

一緒に暮らす人は、食の趣味が合うほうが良いと思う。でも、全てが一致するのなんて無理だから何かひとつでも共通点があればそれでいい。お酒でも甘いものでも辛いものでも。あとは、相手の嗜好を否定しなければうまくいく。

……というところで気がつく。結局、誰かと暮らすことは、相手を否定しない、押し付けない、ということが大事なんだな、と。それから、自分は何が好きなのかを話す時間。相手の好きなものを知っていれば、うまくいくことは多い。

あとは、甘い生活など夢見ない。これが他人と暮らすことの秘訣なのかもしれない。

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