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ふくだりょうこ『お高いあのコのホントのコト~ジュンはヒミツを暴きたい』

“お高いあのコ”のこれまでのお話はこちら▽
『きょうもお高いキミがスキ~さえないハジメくんのヨクボー』
『きょうもお高いキミがスキ~マジメなカズミくんはソンをする』
『きょうもお高いアナタとわたし~あのコになりたいウツキちゃん』

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 初めまして。私、ジュンって言います。5月に25歳になりました。アウトレットモールのショップで販売やってます。毎日「ほかにもサイズあるのでおっしゃってくださいね~!」「そちらかわいいですよね~」とか言っています。
 仕事はそれなりにやりがいがあるし、最近は毎日が楽しいんです。実は、気になる人ができまして。

「お疲れさまです」
「あっ、お疲れさまです! サツキさんも今上がりですか?」
「はい」
「私もなんです、よかったら夕飯でも……」
「予定があるので」
「そっかあ、残念。じゃあこれだけでもどうぞ」
「……なんですか?」
「カリンのジャムです。実家から送られてきてたくさんあるのでどうぞ」
「……どうも」

 サツキさんは今日もそっけないですね。ありがとうぐらい言えないんですかね。そう、気になっているというのは彼女のことです。突然ですけど、今日は彼女のことを尾行してみたいと思います。
サツキさんとは働いているお店が隣なので、たまに顔合わせます。休憩所とか、こうして上がり時間が一緒になったときとか。
 美人なんですけど、どこか近寄りがたいっていうか。あんまり話してくれないですし、質問しても「まあ」とか「それはちょっと」とかしか返ってきません。同じ店の女の子とも「謎が多すぎだよね」って話してたんです。でも、この前見ちゃったんですよ。彼女がスマホをいじってるところ。SNS、自分のページを開いていたんです。ダメですよね、人のスマホ覗いたら。でも事故みたいなものです、たまたま見えちゃっただけなので。そしたらね、彼女のアカウント名、@kaguyaだったんです。

 ――あっ、駅に向かってるみたいです。急がないと。ICカードだと電車での尾行もラクですよね。

え? 知らないんですか、@kaguya。最近、界隈ではちょっとした話題なんですよ。@kaguyaは運命の人を探しているんです。自分の願いを叶えてくれる人がいればその人が運命の人だと。自分のことをかぐや姫だって言いたいんですかね、ちょっとイタイですよね。それでですね、自分に声をかけてきた人の中で、条件をクリアした人とは会っているらしいんです。そりゃあ最初は誰も会いたいなんて言わなかったらしいんですけど、どこにでもチャレンジャーはいるものです。ひとりの男性が@kaguyaにメッセージを送って会ったらしいんです。そうしたら――

『詳しいことは言えないけど、あんな理想の女性に会ったことがない』

 ってSNSに書きこんでいたんです。そんなこと言われたら気になるじゃないですか。それからいろんな男性が彼女にメッセージを送って何人かは会えたらしいんですけど、みんな口を揃えて同じことを言うんです。そんないろんな男性の「理想の女性」に成り得ます? それならもうアイドルとかになったほうがよくないですか?

 ――おっと、電車から降りるみたいです。M駅ですか。私は下りたことがない駅ですね。

 「理想の人だ」って抽象的な情報しか入ってこないから、みんな気になっちゃって。おまけにちょっと黒い噂もあるんです。彼女と関わった人は少し経つとSNSからみぃんな消えちゃうんですよ。アカウントを消しちゃったり、アカウントは残っていても何も発信しなくなったり。おかしくないですか? たまたまじゃないか、って? わかんないですけど、ちょっとおもしろいじゃないですか。それで私も気になっていたんですけど……まさかその@kaguyaがこんな身近にいただなんて!
 でも、そんなにみんなが言うような「理想の人」ですかねぇ。確かに美人ですけど。

 ――今度はデパートの中に入って……あ、トイレですね。鉢合わせしたらまずいので外で待っていましょうか。

 何かもっと大きな秘密があるんじゃないかと思って、今回尾行をしてみることにしたんです。いざというときは写真で証拠を押さえてSNSで公開するつもりです! @kaguyaのことはみんな知りたがっていますからね。

 ――サツキさん、遅いですね……あ、出てきました。着替えていたみたいです。白いシャツにタイトスカート姿で大人っぽいですね。

 今日も誰かと会う予定なんでしょうか。SNSで知り合った誰かと。念のため、写真はいつでも撮れるようにしておかなければなりませんね。
 デパートを出て……駅の改札の前で待ち合わせですかね。私は柱に隠れて、でもサツキさんの顔は見えるような位置取りをしなければ。バレたらまずいですから……なかなか難しいですね。あ、ここなら大丈夫そう。でもまあサツキさんが私の顔を覚えているかどうか微妙ですけどね。

「あっ」

 いけない、つい声が出てしまいました。男性がサツキさんに駆け寄っていったものですから。でも、サツキさんはあんまり嬉しそうじゃないですね。とりあえず写真は撮っておきましょう。え? シャッター音でバレるんじゃないかって? 大丈夫です、消音タイプのやつなので。うーん、男性もこちら向いてくれないでしょうか……どういう男性か顔を見たいんですが。
 何か、二言三言話して、男性がこちらを――。

「え……?」

 また声が漏れてしまいました。でも、仕方がなくないですか?
 だって……。

「カズミさん……?」

 私の片想いの相手が、サツキさんの隣でニヤニヤ笑っているんですから。

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