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【全文無料】掌編小説『仲直りはスイーツで?』誠樹ナオ

仲直りのつもりなのか、夫は揉めた次の日の仕事帰りに必ずスイーツを買ってくる。
「会社の女の子に聞いたんだ。最近できた店で、美味いんだって」
「そう、ありがとう」
一応お礼を言って早々に冷蔵庫にしまうと、夫は少しムッとした顔を私に向けた。

「それ、並ばないと買えなかったんだけど」
「ありがとう。美味しそうね」
「食べないの?」
「今?もうすぐできるけど」
オープンキッチンでフライパンを振っている私を見て、すぐに夕飯だとやっと思い至ったらしい。
それでもたまにはお茶が先で、遅めの夕飯でもいいのにと表情が物語っている。
「ふーん」
つまらなそうに呟いて、夫はしぶしぶ着替えに引っ込んだ。

すぐに部屋着に着替えてキッチンの脇を通り、ソファにどっかりと腰を下ろす。通り道のカウンターに出してあるカトラリーや調味料は、配膳されずに手付かずのままだ。
いつものように、ソファに座り込んでスマホを操作する。今はまっているのはサッカーゲームらしい。
ご飯をよそい始めても、根が生えたように動かない。
私の様子に、一度でも目を配ることがない。
できたよ、と声をかけてゲームのキリがいいところまでソファを立つことはない。
ないないづくしにも程がある。
そのくせ「今日のチキンソテーぬるいなあ」などと抜かすのだ。
なぜ私が、買ってきたスイーツをすぐに食べなければいけないんだろう。

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