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教室の中で主体的な学びと規律は両立できるか

教室内で生徒にどこまで選択の余地を与えるか、ということは多くの教員にとって難しいテーマではないでしょうか。生徒の主体性を尊重しながらも、円滑な進行のためにある程度の枠組みを授業に設けることは簡単ではありません。一見二律背反とも思えるこの「主体性」と「規律」ですが、果たしてこれらは両立できないものなのでしょうか?そして、こうした授業の取り組みは実際に生徒の学びにどのような影響を与えるのでしょうか?実際の授業内での教員の指導傾向を調査した研究を紹介します。

キーテーマ

授業・主体性・規律

結論

*括弧書きのついた各用語は下部分で解説しています。

(A)生徒の主体性を促す指導と、(B)規律に基づき授業の構造化をもたらす指導は正の相関性を示す。
→授業の構造化を効果的に行っている教員ほど、生徒の自律を補助している傾向がある。

生徒の主体性を促す指導は、(C)観察者目線でのエンゲージメントと(D)生徒目線でのエンゲージメント両方と正の相関性を示す。
規律に基づき授業の構造化をもたらす指導は、観察者目線でのエンゲージメントと正の相関性を示すが、生徒目線でのエンゲージメントとは相関性を示さない。
⇒構造化をもたらす指導は、客観的には生徒のエンゲージメントを高める可能性があるが、生徒目線で主体性が高まる感覚とは関係が薄い。

→主体性を促す指導と規律の両立により、客観的な生徒のエンゲージメント、及び生徒目線でのエンゲージメント両方を高めることができる。(二項対立ではない)

用語解説

(A)「主体性を促す指導」の例:
生徒目線で話す
生徒の興味・関心・趣向を見つけ、育む
生徒にとって適度な難易度(やや難しいと思う程度)の課題を提供する
生徒にとって意味のある学びの目的を提示する
生徒の行動を制限するような指示を出さない
指示出しの背景を明確にする

(B)「規律に基づき構造化をもたらす指導」の例:
生徒に期待していることを明確に伝える
目指すべきゴールを達成するための活動例を示す
ゴールを達成するための建設的なフィードバックを提供する
必要に応じて生徒に援助や助言を提供する

構造化をもたらす指導は生徒に授業の道筋を示す

(C)「観察者目線でのエンゲージメント」とは:
授業の様子を第三者が観察したときに、生徒がどれほど能動的に授業内容に取り組んでいるかと感じる度合い。客観的評価。

(D)「生徒目線でのエンゲージメント」とは:
生徒自身が自分がどれほど授業内容に取り組めているかと感じている度合い。生徒の主観的評価。

実験方法

*読みやすさのため、実験の内容を簡略化してお伝えしています

アメリカの高校生2523人、そしてその先生133人を対象に以下の調査を行った。

実験の趣旨を知らない調査員がそれぞれの教員の授業を視察し、以下の項目をルーブリック形式で評価した。

A. 教員の指導が生徒の主体的な活動を促している度合い
B. 教員の指導が授業の構造化を促している度合い
C. 生徒が授業に積極的に取り組んでいる度合い

授業を視察後、生徒にはアンケートが配られ、以下の項目について生徒に報告してもらった。

D. 生徒自らが授業に積極的に取り組めていると感じる度合い

調査後、各項目の相関性を調べた結果、
AとBは正の相関性を示した。
⇒生徒の自律性を促す指導と、授業の構造化をもたらす指導は正の相関性を示す。

AとC、AとDは正の相関性を示した。
⇒生徒の自律性を促す指導は、生徒目線でのエンゲージメントと観察者目線でのエンゲージメント両方と正の相関性を示す。

BとCは正の相関性を示した。BとDの間には相関関係はみられなかった。
⇒授業の構造化をもたらす指導は、観察者目線でのエンゲージメントと正の相関性を示すが、生徒目線でのエンゲージメントとは相関性を示さない。

留意点

調査員のバイアスによって、結果が影響された可能性があります。
(調査員が「良い」と感じた授業ほど、各項目に高い評価をつけてしまうなど)

相関関係を示す研究であり、因果関係を実証する研究ではありません。

調査員の存在が教員の指導方法に影響を与えた可能性があります。

エビデンスレベル:観察研究

編集後記・まとめ

教室内での主体性と規律を二項対立として必ずしも考える必要はない、ということに気づかされた研究でした。

文責:山根 寛

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過去記事のまとめはこちら

Jang, H., Reeve, J., & Deci, E. L. (2010). Engaging students in learning activities: It is not autonomy support or structure but autonomy support and structure. Journal of Educational Psychology, 102(3), 588–600. https://doi.org/10.1037/a0019682

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