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ひつじときいろい消しゴム

●ノベルジャム2018参加記録 7 [2日目 昼]

2日目からの仕事場となる大学院セミナールームへと赴く。
森山さんの案についてはドライブにアップしておいたサムネイルを共有し、基本このアイディアで進行することにOKをいただいた。

根木珠さんの方へは多少の説明を要するので参考資料を交えて提案し、スケッチとともに方針を確認。米田さん根木珠さんともにGOをいただき、こちらも共有が図られた。この日最初のチェックポイントに向け資料の提出はNGなので、コンセプトスケッチをアップする。

ここからいよいよ実作業に入る。まずは根木珠さん作品から。昨日のアイディア出しは森山さん作品から取りかかったが、本日は実制作なので、完成までの工程が読み切れない方を優先する。森山さん作品の制作を後にしたのは工程が読めている事と「脅迫状デザイン」で最重要とも言えるタイトルが未定のためでもあった。

↓以下具体的作業の長い記述になるので、なんなら読み飛ばしてください
仕上がりイメージについて、ボヤっとした浮遊感ある世界という感触は割と最初の方からあった。あくまで手触り、風合いといったものは、抑制された水彩的な世界を目指す。シンボリックにトリミングされたレイアウトも捨て切れなかったが、今回は水彩で行こうと決めていた。
基本的に僕は画力が中途半端なので、大枠を捉えてからは、illustratorのパスで下絵となるシルエットを作っていく。商用可能な素材、PD素材からのトレス、描き起こしなど、必要な材料を準備したら、プラモデルのようにレイアウトを進めていく。

スケッチをベースにざっくりレイアウトが決まったら彩色に入るのだが、水彩絵の具などこの場にあるはずがないので、以降はPhotoshopでの作業になる。具体的にはAIで作成したシルエットをPhotoshopにペーストし、レイヤー分けした水彩模様のテクスチャをオーバーレイ等で重ねる。濃淡のコントラストを出した方が水彩の雰囲気なので、レイヤーを重ね、マスクしつつ濃度やコントラストを調整して細部を詰めていく。特にディティールを出したい部分はブラシツールで書き足す。彩色の雰囲気は佐々木吾郎の作る滲みのイメージだ。(あくまでもイメージです、あれはとても真似できないので)

また滲んだ水彩感を出すため、Photoshopにペーストするパスにはあらかじめ「パスの変形>ラフ」でエッジがランダムになるよう加工しておく。このときAIから移植したレイヤーはスマートオブジェクトにしておき、レイアウトが固まったらラスタライズする。
全体の色調については、空と水中が混ざったような、現実感のない青い世界をイメージしていたので、調整レイヤーを使い狙いの青に近づけていく。やりすぎると青いだけの平板な絵面になるので、一部マスクをしたトーンカーブで色相と周辺濃度を変化させ調整を繰り返す。

画像がざっくり整ったら、再度Illustoratorの作業に移る。
今度はタイトルや著者名も含めた最終的なレイアウトを完成させていくのだけど、ここで重要なのはフォントの選定だ。この時点でタイトルは決まっていなかったので、とりあえず仮タイトルを欧文で「Heisei」としてレイアウト感を確かめる。
ここでダミーの和文タイトルにすると言葉の意味にデザインが引っ張られるのでまずは欧文の方がやりやすい(要するに自分に外国語能力がない、という事でもあるんだが)。これでひとまず全体の体裁は整った。

作業中、目の前に座っている根木珠さんが「ひらがなのイメージがよい」と方針を伝えてくれたので、タイトルを「ひつじ」としてレイアウトを変えていく。
このタイミングで編集米田さんと一緒に初稿の下読み。
中盤から登場する「黄色い消しゴム」が物語を暗喩するキーアイテムになると米田さんとも話し、いっそタイトルを「ひつじと黄色い消しゴム」とかにしては?、と、レイアウト案と共に申し出たら快諾いただいた。

(↑仮タイトルからの変遷:初期は木のシルエットが存在し、羊ではなく犬だった。消しゴムはまだ持っていない↑)

このとき本文での「黄色」を表紙では「きいろ」と開かせてもらった。これは単純にプロポーションの問題で、平仮名の方が柔らかいという理由だけでそうしたのだけど、あくまでタイトルであって、本文との表記揺れとは違うと判断した。(加えて特におっさんの場合「黄色いナントカ」の「ナントカ」をおしなべて「ハンカチ」にしたがるので、その印象を避けた)

タイトルが決まったところでフォント問題に立ち戻る。明朝体、というのは直感だが問題は「どの明朝体」を使うかだ。一般的な「リュウミン」は仮名があまり好きではない。筑紫明朝や本明朝、黎ミン、MA31なども試したが、いまいち座りが悪い。
イメージとしては「はんなり明朝」や「ZENオールド」が近いと思っていたのだが、古典的な風合いが逆に雰囲気を出しすぎるので避けた。クラシカルなプロポーションは、別のメッセージを埋め込みかねない。

あれこれシミュレートした結果、モダンでスッキリとした「游明朝」をベースに加工することに決めた。そのままでは硬いので、Photoshopに再度場を移し、文字に「ぼかし」を入れ、コントラスト調整で痩せ具合を作った上でAIに戻し「ライブトレース」で角の取れたパスにする。いい感じのバランスになるまで繰り返し、「消」の横棒を少しいじって後、文字間調整してタイトルフォントの完成とした。

(↑候補に上がったタイトルフォントと「ぼかし」による調整↑)

逆にタイトルと対になる著者名は太めのゴシックである「MB101B」で対比が出るようにした。それ自体は全く問題なく、デザイン的にも効いていたと思うのだけど、BCCKSのサムネイルで著者名の可読性が下がる欠点にもなってしまった。
無意識に「本」になたっときのバランス感覚で進めていたので、電子書籍におけるタッチポイントでの情報、という視点に自覚的になりきれていなかった。気づいたのは後にTwitterで指摘を受けてからで、これはもうごめんなさいとしか言いようがありません。

と、タイトル周りが整備されたら再度画像とのすり合わせ。実はこの時点では「木」が生えていたりとディティールがあったのだが、長いタイトルとなった事でバランス的に邪魔になった。大きさや形状を変え何度もプレビューしてみたが、良い具合におさまらず、思い切って削除したら今度はまとまった。削除した事で「少女と羊」と「新宿のビル」の対比がわかりやすくなり、やっぱレイアウトは引き算だよね、と改めて感じた次第です。

最後は米田さんと相談の上で帯を入れたのだが、これには異論があって、Twitter上でも評価が割れていたりする。
一般論としてプロモーションツールを設計する際、見込み客に対する情報、つまり手がかりは多い方が良いとされている(多すぎるのは論外だが)。電子書籍のジャケットの場合、ジャケ自体がPOPとしての機能を期待される局面を考慮し、個人的にはあった方が良いように感じていたのだが、確かに無批判につけてしまった感もあるのでここは反省点だ。
帯の有無については、文言の精度はもちろん、今後は「商品への動線」といったプロモーション課題とセットで検討すべきで、購入に至るプロセス自体の設計、という視点に立ったジャケットデザインは求められると思うし、より高い次元で語られていくだろう。みたいな話は別稿でやってます。

ところでなぜ「きいろ」い消しゴムなのに「青」なのかについては、ノベルジャムの審査員でもあり本作品を激奨いただいた内藤みか先生も後に疑問を呈しておられたのでここで解説を試みる。

表紙の青は「空が青いわ」という台詞からの着想で、前項でも書いた通り僕はこの物語を「メアリーの話」と解釈しており、この青を彼女を表す色、ひいては世界構造を表す基調色と位置付けた。その上で補色である消しゴムの「黄」を、世界に持ち込まれる謎と記憶、としている。
最終的なラブマーク(※)作りの段階で、少女に黄色い消しゴムをもたせたこともあり、逆説的にだが全体の青色もそれなりの説得力を持ち得た、とも言える。
加えて、大人と子供、都市と草原、仕事と労働、といった転換軸を行き来する、ちょっと考えさせる話でもあったので、濃度によるネガポジに加え、差し色にも補色を使う構成とした。あ、あとは、まさに「なぜに黄色と言いつつ青なのか」という「?」を投げ込む意味も少しだけあります。

(8に続きます)

※ラブマーク:それがなくても機能としてのデザインは完全に成立するが、チャームポイントとして付加することで印象の向上を狙ったオブジェクトの総称です

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デザイン会社の中間管理職

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